異世界転移は、巨大プリンと武装恐竜を巻き込んで
ごくごく普通の高校生。それは日本全国、いや、世界にそれなりに多く生息している生き物であり、大宮 次郎 (オオミヤ ジロウ)もその一部である。次郎は、身体能力は普通、成績は平均より2,3点上くらい。特技、趣味も特にない。家に帰れば動画サイトでアニメを見たり、テレビでバラエティを見たりするくらい。
そんな彼と一緒に帰る2人の友人。3mはあるであろうプリン。黄色に輝く体はカスタード、上にあるのは輝くのはカラメルソース。ぷるんぷるんと体を揺らしながら歩く。そんな彼の名前はプリン島プリン乃助 (プリンジマ プリンノスケ)。
そして、もう一人はアーマードダイナソーの恐竜田メカ雄 (キョウリュウダ メカオ)。約6万5000年前に生きていた恐竜 ティラノサウルス・レックスに重火器・筋力強化等の武装を施した改造生物、アーマードダイナソーなのだ。
「なあ、次郎、メカ雄。帰りはゲーセンよろうよ。おいら新しい曲が入った新機種やりたいんだ」
のんびりとした声でプリン島がぷるぷるしながら言う。プリン島はのんきでマイペースなところがある。
「ならよぉ、今日は宿題ちょっと多めに出たからさ。ハンバーガー屋に行こうぜ。バーガーラッシュとかマイドマイドとかさ」
通りの向こうまで聞こえるような大声で恐竜田が言う。こいつはいいヤツなんだが、ちょっと食いしん坊で、おおざっぱなところがある。
「まあ、確かに宿題は多かったなぁ……」
3人は、他愛ない会話をしながら帰路に就く。今日も変わらない一日。もし、次郎がイケメンなら彼女がいて、その彼女といろいろ話したりして、そういう毎日を過ごしていたかもしれない。あるいはスポーツ万能ならサッカー、野球、陸上、挙げればキリがないが、代表に選ばれるために部活に入って、インターハイに出るために汗を流していたかもしれない。もし、天才なら。もし、絵がうまかったら……。だけど、次郎は才能あふれる少年ではなかった。
「おいおい、次郎。どうしたんだ、そう難しい顔をしてさ」
「ああ、恐竜田。ごめん、ちょっと考えごとしてたんだ」
放課後に何をするか。これだけでいい日になるか、悪い日になるかの瀬戸際であるといっても過言ではない。帰宅部高校生にとって放課後とはそういう時間なのである。
「おいら、バーガーなら新発売のマスタードチキン2段重ねがいいな」
「おい、それマイドだろ。プリン島、お前はもうマイドに行くって決めてんのかよ」
次郎抜きでヒートアップしていく会話。次郎も少しずつハンバーガーの口になってきた。次郎は、マイドマイドに行きたくなってきた。主体性がないといえばそれまでだが、バーガーの新作は高校生にとって娯楽の一つだ。
「メカ雄がバーガーって言うから、それで頭がいっぱいでさあ……」
気の抜けたプリン島の声がする。まったく、ゲームのことは頭からすっぽ抜けてバーガーでいいっぱいらしい。まあ、俺もそうなんだが。ぷるぷると体を震わせている。おいおい、そんなに楽しみかよ。
「俺もマイドの新作食ってみたいな」
「お、次郎もかぁ」
恐竜田の武装の排熱の音が大きくなる。蒸気を吹き出し、寒すぎる日本でティラノサウルスが活動するための熱を与えるために必要な器官だ。きっとテンションが上がってるのであろう。鼻息も荒くなっている。3人でハンバーガー食うのもそれなりに久しぶりだ。
「じゃ、決まり。俺はラージバーガーとポテト山盛りだ」
「おいおい、宿題終わらせるんじゃないのかよ」
しかし、次郎には得難い親友が2人もいる。それでいいじゃないか。プリン島も恐竜田といるのが、なんだかんだで最高に楽しい。今日、担任の先生も言っていた。人生を共にできるような最良の友がいるのが、最高の人生にするための第一歩だ、って。次郎にとっても、他の2人にとってもきっとそうなのだ。
「さてと……、俺はポテトとマスタードチキンは、確定として……」
次郎の選択はいつだって無難だが、それが悪いということではない。何事もない日常を、彼とその親友たちは笑いあった。
「ん、やっべ」
「どうした、大宮?」
次郎のバッグの中に数学の宿題がない。どうやら、学校に置き忘れてきたしまったらしい。次郎は、頭を掻きながら事情を説明した。
「じゃ、俺に乗ってけよ。それくらいならひとっ走りだぜ」
「悪いな、恐竜田」
「いいってことよ」
恐竜田は、背中に次郎を乗せてエンジンを全開にする。夕暮れの町に唸り猛るような音が辺りに響く。恐竜田本来の全速力は時速40km程度だ。しかし、エンジンをフル稼働すると時速60~80km出る。
「さあ、飛ばすぜ!」
「おいらもスライプティングで追いつくからなー!」
ぷるるんと震えながら、つるるんと滑るプリン島のスライプティングは時速60kmほど出る。スライプティングとは、プリンが揺れる振動を利用したスーパースライディングで、プルプルと振動を行いながらスライディングを行う移動技だ。
「さあ、行くぜぇ!」
「頼むよ、恐竜田!」
その時だった。恐竜田の下に赤く広がる幾何学模様の光るサークルが現れていた。恐竜田と背中にのった次郎を妖しく照らし出す。
「何だよ、これ……」
「だ、ダメだ、次郎!移動できねえ」
サークルが恐竜田の足を地面に固定している。
「おいらが突き飛ばしてやるからな!」
プリン島が、そのまま2人に突っ込んでいく。そして、2人の肌に触れた瞬間、3人の姿は紅の光の向こう側に消えていった。