第4.5話-第五話-第一次銀河大戦、船を絶つモノ、絶倒の刃、の前
その決戦前、最後の最後の合同演習が開かれ行われたのは、2040年10月24日の地球時間の正午前だった。
「全軍に告げる、我に続き、目の前の敵を一隻のこらず蹂躙しなさい!」
コロニーアメリアの押しも押されぬアイドルは、既に地球を支配していると言っても過言ではなくなっていた。
「ついにきたわね」
リディアは第四艦隊旗艦アースに搭乗し、指揮官座席に座りながら、その光景を眺める。
全軍に放送される、軍最高司令官の姿、それは過去にドイツが起こしたナショナリズムを彷彿とさせる。
亡命一か月で、地球人口の90%、つまり700億人程度を魅了し、信者に変えてしまった。
一部の高等な人間は耐性があるので大丈夫だが、普通の人間は抗えない彼女の魅力に憑りつかれた。
「これは、地球におけるラグランジュポイントに位置する場所に展開した両陣営の部隊による、初めての正面艦隊戦である。」
画面が移りかわり、レイチェルが軍最高司令官として説明する。
一見シャルロットがこの職責を請け負っていそうだが、実はそうじゃない、彼女は今回の戦いは観覧席で傍観するらしい、先ほどの映像も東京の首相官邸でのものだ。
レイチェルは皇帝であり、シャルロットが総元帥、立場が逆転しているように見えるが、これは連邦の行政上は任意に切り替えが可能なようらしい、リディアはそんな事を考えながらも気合を高めていた。
「そもそも前史において、一度たりとも大艦隊による宇宙戦闘など起こった試しはなく。
どのように戦闘が推移するのかは、綿密なシミュレーションにおいてさえ結果を二分する事もしばしばであった。」
リディアは全力で集中し、戦艦のAIにアクセスし、大量の情報を取捨選択し、周囲の情報を集積する。
「(第四艦隊の集積率99,99%で推移中、基本艦構成は戦艦100%の単艦構成、流石の集積率の高さ、並みの艦隊じゃ脱落して、ここまでスムーズに部隊が動かない、これはかなり扱いやすい上に機動力もある、戦場に風穴をあける突撃部隊というわけね)」
与えられる部隊の練度や艦の性能など、スペック概要の数値だけでは分からない、実際に手足のように扱って初めて分かる事がある。
この部隊は強い、それだけが分かれば十分だった。
「(でも、あまりに数の差が顕著過ぎる、敵の部隊に対して、こちらは10分の1程度、起動要塞などの要素を加味しても、厳しすぎるというのは、私の思い違いなのかしら?本当に)」
シャルロットの余裕な言い分は分かる、だが決定的な要因が、この戦いには存在しているのも事実。
まず第一に、今リディアが言った双方の艦隊戦力の数、優位的な差であった。
コロニー側の戦略は大型艦721艇に対して、地球側の密集した起動要塞を釘付けにし、その混戦状態のまま地球まで突撃するルートである。
それを防ぐのに第四艦隊だけで大型艦僅か24艇、それ以下を含めても敵の10分の1なのは変わらない。
「(そもそも、敵が1艦でも地球に突撃したら、、、て、、それは考えなくてもいいのか、可笑しな話ではあるけれど)」
そう、この時代の宇宙艦船は大気圏を突破して、そのままその運動エネルギーと質量をぶつければ、容易く地球型惑星を破壊できるほどに強力ではあったが、今回の場合は少々事情が異なる”前提”があった。
まず地球は正体不明の防御策により、一瞬だけ消えることができる。
これは先の戦略核ミサイルの飽和攻撃が失敗に終わった結果、当然敵に筒抜けになったことである。
その時に地球が一瞬土星付近に出現したような気もするが、コロニー側は観測データの間違いだろうと無視した。
ならば次に求める戦果は、地球に突入しその宇宙戦闘能力を喪失させる為だろう。
地球というのは、この太陽系において、唯一の纏まった移住スペースを持ち、大規模に、所持する場所である。
なので、その場所で大規模な宇宙艦隊の生産ラインが引かれ、反攻の準備が進められているのは明白。
これを叩ければ、継続的にずっと叩き続け、地球を一生地球内に閉塞させる事が可能になるのだから。
「、、、まあ、別にいいけどね、負けても」
本音がポロっと、こぼれ出る、悪い癖であった、これを聞かれて身の安全を保障されるほど、今の彼女は”安泰”ではない。
しかし時折、破滅願望ともいえる衝動が湧き上がって、このように無謀な行動に出てしまう。
きっとシャルロットに拷問されたからだと、リディアは自身を自身で、そう分かっている人だった、だからどうというわけではないが、それで彼女の心が一片たりとも晴れる事もない。
「ああ、この勝負は戦局を左右しない、所詮はお遊びと思って、麾下の部隊の完熟走行みたいなものかな」
段々と、指揮座の下、制御オペレーターのスタッフが慌ただしく慌てだしたころ、その少女は現れた。
「無駄口を叩くな、戦果を出せ」
首の脇に剣が差し出され、同時に居込まれるような冷酷な視線を感じる。
「リリーちゃんか、ごきげんよう、久しぶり、元気だった?」
リディアは振り向かずに、冷酷な暗殺者、いつからか、自分に四六時中”憑く”ようになった影の少女に語り掛ける。
「元気ではありません、私の耐用年数は、とっくの昔に過ぎているのですから」
強化人間なのだろう、急速成長や投薬の過剰摂取、長くても30には死んでいる。
シャルロットも年齢不詳だが、もしかしたら旧地球連邦の時代を勘案すると、、この付き人の実年齢にも考察が及ぶ。
「なるほど、死に損ないは、私だけでもないらしい、仲良くできそうだね、貴方とは」
「仲良くするつもりはありません。しかし、貴方の命令には一定で従うように言い使っております、その範囲でなら、なんなりと」
リリーが剣を下ろし、こちらを見つめてくる、よく見ると、忠犬のように可愛い容姿をしている、リディアはレイチェルにするようにワシワシと頭を撫でてあげたが、レイチェルのように親愛の情をみせる事も、喜ぶこともなく、クールに冷徹にリリーは佇み続けるだけだった。