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第三話-雲霞の如く大艦隊、でなく展開



 朝、リディアはビックリして、亜空間縮退式カートリッジからパンを間違って溢れさせてしまう。

 そして内蔵される実質容積よりも数億倍のパンが飛び出して、家ごと弾けさせてしまった、、、。


「わああ!!!」


 という夢を見た、そもそも間違っても一度にパンは溢れないし、実質容積も数万倍程度なので、せいぜいリディアの部屋を埋め尽くしリディアが圧死する程度、といっても人並以上に”頑丈”なリディアは死なないだろうか。


「っていう夢を見たんだよ、もう大変だったよ」


「そうだね、大変だね」


 パンを渡しつつ、レイチェルから牛乳瓶と花を受け取り、等価交換して、リディアは学校の道を歩く。

 平和な登校風景が、実は初めてだと、この光景を見る何人が思いつくだろうか、おそらく存在しないだろう。

 学校に行くよりもスラム街でパンを配る事を至上命題にする、イエス・キリストの生まれ変わりが彼女だ。

 あのシャルロットに「明日から登校するように」と釘を刺されなければ絶対に朝から学校に登校したりなどしない。


 新東京東側改札口、上級国民エリアから出たリディアは、該当テレビジョンを見て、やはりかと思う。


「コロニー側の宇宙艦隊の奇襲攻撃により、軌道エレベーターが制圧された、昨今の情勢ですが、、、」


 宇宙軍特務大佐のリディアは勿論、それより上の特務元帥のレイチェルも、既に”知って”いた。

 この奇襲はわざと受けて、旧暦、第二次世界大戦の陰謀論の一つ、アメリカが日本の真珠湾攻撃をあえて受けて、戦争の引き金を自ら引きたがった、ようなものである。

 コロニー連合の面従腹背で、長期的には凋落確定の地球連邦は、早々に開戦の用意が欲しかったのである。


 8人いる大元帥の一人、軍の広報担当官でもあるカルナ・イージー・ファ、、、

 知っているものは知っている、勿論リディアもレイチェルも知っている、例の時空郷の事である。

 ネットオンライン通話で参加し、フランスの地から朝の速報についてペラペラと語っている姿、なんとなく適当な雰囲気が漂う、なぜだろうか?  


 そして、総元帥、つまり地球連邦の代表が、宣戦布告する段になって、既にリディアとレイチェルは街頭ヴィジョンの前には居なかった。


「貴方たち、明日から学校に来なくていいわよ」


 軍服、総元帥、なぜだろうか、シャルロットが、そのような恰好で現れたのは、不可思議なコスプレかと疑う。


「ソウデスカ」


「ちなみに、リディア、私は地球連邦の初代皇帝になったから、よろしくね」


 レイチェルが言うことも、まるで異国の言葉のようであった。

 それはそうである、”ホンキ”を出せば、なにがどうにも、どうにでもなる。

 ハリウッドのスーパーマンのような人達である。

 戦時下で形振り構わない事態になって、いわゆる”本気”を出した結果だろう。

 

 リディアは「そりゃ、レイチェルが内政を取り仕切り、シャルロットが前線を張れば、これ以上の布陣はない」

 と、言わなくても分かる顔をしていたのだろう、二人はリディアの顔を指さして笑う、恐らくドッキリ大成功という事だろう、割とリディアはそういうのは気にしないので、どうでもいいと思うだけだった。


「それでリディア、貴方には外宇宙遠征艦隊の第四艦隊を任せることになったわ。

 それによって、特務大佐の地位では役不足、ということで、本日付で元帥に昇進。これは元帥杖だから、無くさずに肌身離さず持っていなさい」


「おめでとう」


 リディアは、邪魔な元帥杖を亜空間に隠し、勿論こんなものを常に持ち歩くほどモノ好きではないからだろう。

 シャルロットに食って掛かる。


「第四艦隊は、貴方が管轄するべきだと思いますが」


「メンドうだわ」


 シャルロットは面倒そうに言って、こちらの気も抜けきってしまいそうな、演技過剰な職人芸、エナジードレインの魔法を使ったように言った、普段キリッとしているレイチェルもふらつく、リディアはスライムのように床にへばりつくほどだった。


「あの、面倒とかじゃないんですけど。

 相手は宇宙戦艦2万8000艇、旗艦級大型戦艦780艇、大してコチラは宇宙戦艦700艇に、旗艦級大型戦艦27なんですけど。

 幾ら地球周辺には超巨大機動要塞がごまんと合っても、全然楽勝じゃないって、分かってますか?」


 そうである、火星周辺の大艦隊を簡単に進行させれるわけがない前提でも、この兵力は少なすぎる。

 なぜなら総力戦体制を隠して、ずっと前から宇宙艦隊を量産しまくっていたコロニー側に対する、このアドバンテージの差は、贔屓目に見ても優勢として誰も見ないだろう。


「大丈夫よ、機動要塞を貫けるような火砲が存在しない今は、まだね」


 それは、時間経過で、機動要塞が無力化される前提を含んだシャルロットの発言である。

 レイチェルもリディアも、あんな前時代の戦車に該当する箱物が、いつまでも戦場を支配しているとは考えない。

 おそらく新兵器によって、要塞は遠くない未来に無力化される、ただ相手がカードを切るタイミングを計っている。

 もっとも警戒するべきは大艦隊同士の正面対決になるだろうと。


「第四艦隊は任されました、しかし、敵の戦略核飽和攻撃は、どう対処するおつもりで? まさか、こちらもコロニーに核の雨を降らせるおつもりですか?総元帥閣下」


 リディアは嫌味のつもりで言ってみた。

 まあ無いだろうが、コロニーの声明は反出生とか言ったか、自爆テロのような先制核攻撃は”ありえると”今は立場上”上”のシャルロットに、無理難題のような注文を言ってみたのだ。


「それなり大丈夫、リリー、いつでも出せるわよね?」


「はい、閣下」


 リリーと呼ばれた、レイチェルと見分けがつかないが、些細な服の違いなどで分かる、その少女が中空から青っぽい色味を帯びた細身のレイピアのような剣を取り出す。


「そして、閣下、オーダーを、青銅の艦隊を呼び出す許可を」


「ええ、いいわ」


 リディアが「なにをいったい何を?」と喚く前に、状況は終了していた。

 いまこの瞬間に、地球に向けて超光速戦略核ミサイルが数十万、コロニーの軌道エレベーター制圧部隊のコロニー艦隊・戦列艦部隊から一斉に放たれ、月よりもずっと近い位置なので、対処は不可能、ただ滅亡を待つだけだったのだ。


「青銅艦隊のフォトン・ジャンプ機能により、一瞬だけ土星まで移動しましたが、数秒後に移動完了、元の座標に戻りました」


 リディアは青銅艦隊、フォトンジャンプというワードだけで、なにをしたか察する。

 つまり、艦隊級の光子フィールドで地球全部を覆って、土星付近までワープした、というよりワープの位置指定が恒星内のどこかというランダム性が絡むのだろう、つまりはそういうことだ。


「あの、なんで普通にフォトン・ジャンプ使ってるの?」


 これはレイチェルの言葉である。

 

「使うもなにも、勝手にリリーが使っているだけだわ」


「なんで使ってるの_?」


 リディアは珍しいと思う、日頃から自分は最古の錬金術師、サンジェルマンの最後の弟子だと自称し、自信満々の、あのレイチェルが取り乱し、知的好奇心をくすぐられた猫のようになってる、と。


「上に許可を得て、いいと言われた、から?」


 リリーもこっちはこっちで、良く分かってないような感じ、駄目だこりゃと、なんとなくリディアは思ったのだった。


「次空管理局のジジイは、なんて?」


 リディアは聞いた事もないワードが出てきて、それが誰に言った言葉なのかも分からず、キョトンとする。

 まさか自分ではないだろうと、シャルロットとリリーを見て、その二人の反応から、シャルロットだろうと察する。


「知らないわよ、あの死に損ないジジイには、私も煮え湯を何度も飲まされているからね、重要な機会でもなければ会うのも嫌だもの」


「領域関連で合うでしょうが、それに貴方は”神域”にも名を連ねてる、頻繁に会うくらいなんじゃないの?」


「あの二人方、私も仲間に入れてよ」


 そんなリディアの言葉は、レイチェルの「貴方は知らなくても良い事だから、できれば耳を塞いでいて」という言葉ですげなく切り取られる。

 リディアは言われた通り耳を塞ぐ真似をするが、もちろん塞いでなんかいない、それを知らないレイチェルでもないだろう、なら別に聞かれても良いと思っているのだろう。


「神域なんて枠組みは、過去のものよ。

 何時までも領域の全貌に幻想を抱いていられるほど、浮世離れはしていないみたいよ、

 彼奴らも建設的に動いているのよ、この現世に居場所を見つけようとしているの」


「シリアルナンバー付きのアーティファクトが検索不能になっていました、それも00ナンバーのモノばかり。

 これは貴方の差し金ですよね、黄金の女王、貴方の眷属が”偶々”この世界で覚醒しまくって、偶々”後継者”まで至った、出来過ぎな話しです」


「どう思ってもらっても結構、言っちゃえば、貴方も私に協力すればいいでしょう、勝ち馬に乗れる最後のチャンスかもしれなくてよ」


 ぐるぐる、かきかき。

 リディアは覚えたての魔方陣を、二人にばれないように、書いていた。

 この二人が”よく分からない”世界の話をしているように、リディアにも人には言えない秘密があった。

 前世において、リディアはイエス・スカイ、世に知られる名としてはキリストとして、世界に信仰を、遍く善の教えを広めるために駆け巡った。

 その過程で、”神”に様々な禁則魔法を教わっていたのだった。


 目の前の二人は初めはリディアの可笑しな動きを気にしていたようだが。

 おそらく、未知の魔術を書いている振りをして、気を引こうとか、そういう風に解釈したようだ、放っておいてる。

 無防備だなぁーとリディアは思う、博識すぎるというのは時として、このように大きな油断を晒すのに。


「なに!」


 一瞬だけ早く気付いたシャルロットは、この中では最も近接戦闘能力が高い。

 だが発動した魔術が牙をむき、リリーを含めた三人を鳥かごのような魔術障壁内に閉じ込めた頃には間に合えなかった。


「レイチェルごめんね、でもしかたなかったの」


「キモ、、、まあ、いいですけどね」


 何に対してキモと言ったのか、緑色の檻のような障壁内のことか、一緒に閉じ込めた二人か、まさか自分のことではないだろうとリディアは高を括る。


「シャルロットさん、ごめんなさい、とりあえず貴方を拘束します」


 レイチェルは思う、馬鹿すぎると。

 いや、でもとも同時に思った。

 今日の軌道エレベーターを使った地球への進行、黄銅革命軍のリーダーとして選ばれたのが、地球の盟主クラスの血筋をもつリディアである。

 リディアが裏で第四艦隊の指揮権を得たことを切っ掛けに、色々しているのはレイチェルはリアルタイムでも把握できることだった。

 だが、リリーが不可思議な艦隊を召喚し自在に操作、シャルロットの切り札も見えない段階で、ここまで明確な敵対行動をするリディアに溜息が止まらない心象なのだった。


「ふーん、私をどうするの?」


「とりあえず、第四艦隊に受け渡しますかね、それから良い子になる薬を与えて、私のペットにしてあげますよーだ」


 ああ駄目だ駄目だと、レイチェルは思う、リディアが調子に乗って”良い方向に行った”試しは、有史上ないのだから。


 案の定というか、地球連邦の隠し玉、上級魔術師軍団が、この場に急行した。

 この”上級”魔術師というのは、一人一人がスーパーマンを妨害する雑魚の敵役くらいの戦力を持っている。

 例えば世界で一番強いと思われるレイチェルかシャルロットが一対一で戦えば、百戦連勝できるだろう。

 しかし、この上級魔術師が何万人も同時に戦えと言われれれば、ぶっちゃけどうにもならない。

 連戦は魔力を枯渇させ、360度から、この場合は地球の裏側からも攻撃される事を考慮しなければならないので、文字通り全周囲から一斉に攻撃されるのだ、で一人ではどうにもならない。

 一応言っておくと、フォトンジャンプ関連技術やスキルが解禁されれば、この戦力差は若干緩和される。

 一瞬で瞬間移動できる技術が絡めば、局所的な一対一を作りまくって、単純戦力として優越するモノが数の有利に対して挽回できる。


「」


 上級魔術師がだいたい2万人ほど、地球に居るのが10万人くらいと仮定すると、最初からシャルロットに張り付いてた奴らだろう、が来て、無理やり外から、中からは鉄壁だったのだろうが、外からは簡単に破壊された。

 リディアはボロボロにされて、今は床の穴に頭から埋まって、不謹慎だがクスッと笑える格好に無様を晒している。

 レイチェルは、シャルロットの仲間のつもりで振舞って自分に飛び火しないように振舞った。

 そうリディアのことを、レイチェルは見捨てたのだった。

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