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穴掘り領主

 昔々ある王国にいがみ合う二人の領主がいました。

 二人の領地は隣り合っており、事あるごとに、


「私の方が偉い!」


「いいや、ワシの方が偉い!」


 と言い合うのです。


 当然言い合うだけでなく、二人は競い合うようになります。


 どちらが立派な家を建てられるか、どちらが作物を多く収穫できるか、どちらが貴重な石を多く採掘できるか……。

 巻き込まれる領民たちはたまったものではありません。

 自分たちの仕事もあるというのに、家作りをさせられたり、作物を持っていかれたり、山で採掘をさせられたり。

 「どちらの領民が強いか」と戦争の真似事のようなことをさせられたこともあります。


 しかも、もし負ければ、二人の領主は自分の領民に怒ります。


「私が負けたのはお前たちのせいだ! 税金を引き上げてやる!」


「よくもワシに恥をかかせたな! 罰金を払わせてやる!」


 二人の争いのせいで領民たちは疲れ、ヘトヘトでした。

 見かねた王様が二人に争いをやめるよう忠告したこともあるのですが、聞く耳を持ちません。


「今度は“どっちがデカイ岩を見つけられるか”だってよ」


「いい加減にしてくれよ……」


 岩探しはもちろん、岩運びにも大勢の領民が駆り出されます。

 一日がかりの重労働です。


「こっちの方が大きいぞ!」


「いいや、こっちだ!」


 勝った領主は「次も勝ってやる!」とはりきってしまい、負けた領主は「お前たちのせいだ!」と領民をいじめます。

 終わりの見えない争いに、人々の辛さは限界に達していました。


 そんなことは気にせず、二人の領主は次に競い合う方法を決めます。


「偉い人間というのは、より高いところにいるものだ。どっちがより高い塔を建てられるか決めようじゃないか!」


「いいだろう、勝負だ!」


 塔を建てさせられるのはやはり領民たちです。

 疲れて体を壊したり、工事の途中で高所から落ちて大怪我をしたり、領民たちが苦しむ中、二人の領主は「もっと高くしろ!」と命令し続けるのでした。



***



 そんなある日、旅人が現れました。

 旅人は世界中を旅しているとのことで、しばらくこの地に腰を落ち着けると言いました。


 そして、領民たちがやけにくたびれていることに気づきます。


「どうしてこの土地の人はみんな苦しんでるんだい?」


 聞かれた領民は全てを話しました。

 この土地では二人の領主がずっといがみ合っており、領民たちはいつもその競争に巻き込まれ、大変な目にあっていると。

 旅人は笑いました。


「アハハハ、それは面白い。ぼくも色んな土地を歩いてきたけど、そんな領主は初めてだよ」


「笑いごとじゃないよ。旅人さんは気楽でいいね」


 すると、旅人は言いました。


「これは悪かった。だったらぼくが何とかしてあげよう」


 旅人は二人の領主の元に向かいました。

 二人の領主は領民に塔を建てさせ、「もっと高くしろ!」と怒鳴っています。


 旅人は領主たちに挨拶をします。


「お二人が、この地を治めている領主様ですね」


「なんだお前は?」


「ぼくは旅人です。よろしければ、お二人に贈り物をさせて下さい」


 旅人は二人の領主に、世界を旅する中で仕入れた面白い話をしたり、美味しい食べ物を渡したり、楽しいゲームを遊ばせたりしました。

 ほんの少しの間で、二人は旅人のことをすっかり気に入ってしまいました。


 そして、旅人は質問をします。


「ところでお二人は何をされているんですか?」


 二人の領主は答えます。


「どちらがより偉いか競うために塔を建てさせておるのだ」


「うむ、高い方が偉いというのは常識だからな」


 しかし、旅人はこう言います。


「悪いですが、古いですよ。お二人とも」


「なに?」


 二人の領主は驚きます。


「今、世界では“より低い方が偉い”というのがトレンドなんです。高さを競い合ってもみっともないだけですよ」


 旅人のことを気に入っている二人は、これに納得します。


「そうだったのか……では私たちはどうすればよいのだ?」


「教えてくれ!」


「簡単です。穴を掘るのです」


「穴を?」


「ええ、二人で穴を掘り、深さを競うのです。深く掘れた方が、より低く、より偉いということになります」


 このアイディアに二人の領主は唸ります。


「なるほど!」


「ならば、領民たちに穴を掘らせるとするか」


 ですが、旅人は首を振ります。


「領民たちに掘らせたら、掘っている領民がどんどん偉くなっていくではありませんか。自分たちで掘らねば意味がありません」


 それもそうかと二人は納得します。

 さっそく二人の領主は大きなスコップで穴を掘り始めました。


 領民たちは掘り出した土を片付けるよう命じられました。

 塔を建てるよりは楽な仕事です。


 二人の領主は必死に穴を掘り進めます。


 一方の領主が


「どうだ、私は1メートルは掘ったぞ!」


 と言うと、旅人は、


「向こうは1.5メートル掘ってますよ」


 と教えてあげます。


 もう一方が


「ワシは3メートル掘ったぞ!」


 と言えば、旅人は


「あちらの穴は、3.5メートルはありますね」


 と教えてあげます。


 二人の領主はどんどん掘っていき……。


「どうだ、これだけ掘れば私の方が低いだろう!」


「ワシの穴は、向こうより深くなったはずだ!」


 二人とも穴の底で自分の勝ちを確信しています。


 これを見て、旅人は領民たちに言いました。


「今だ、二人とも埋めてしまおう」


 旅人の言葉に、今まで散々苦しめられた領民たちは言う通りにします。

 二人の領主はたちまち埋められてしまいました。


 その後、旅人は領民に「新しい領主になってくれ」と頼まれました。

 旅人も旅には少し疲れていましたし、この土地の人々を助けてあげたいと思ったので、新しい領主になりました。

 二人の領主に困っていた王様もこれを認めてくれました。


 以後、二人に代わって領主となった旅人はこの地をよく治め、人々がいがみ合ったり苦しんだりすることのない豊かな土地に生まれ変わらせました。


 なお埋められた二人の領主は、今でも土の中で穴を掘っているのではなどと噂され、“穴掘り領主”と呼ばれているそうです。






おわり

お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルからコメディー寄りなのかな?と思ったら。 あら、う〜ん、うまく説明できませんが、「収まるところに収まった」というか... なんか違うな。 すみません、うまく表現できませんm(_ _…
[良い点] ハイファンタジーで流行っている、『未来に転生したら、弱い奴が強い扱いされる様になってた』という状況はこうやって偉いやつを騙していって生まれるのかなあ、と思いました。 [気になる点] 肉体労…
[良い点] とんちの利いた寓話的ないいお話でした。 旅人GJ。
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