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転機

ご覧いただきましてありがとうございます。書いたりするのは初めてですが、誰かに楽しんで頂けたらうれしいです。

 リジェネが屋根裏部屋から出たのは、夕飯を作る時間帯になってからだった。

 この家の主人は泊めるにあたって金銭を要求してこなかったが、先程のお茶のように何かと巻き込もうとしてくるのだ。

 それが対価と思えば不愉快でもなんでも無く、寧ろ何かしら満たせたなら、とすら思う。ただ自分がそんな癒し系〜な性格をしていないだけで。

 三人で夕飯を作り、ぽつぽつと雑談をして食事を済ませ、リジェネは屋根裏部屋に戻った。

 朝から寝て午後に起き、夜に出る。そういう予定で準備をしていた。

 もう幾度としてきた旅支度をして、持ち物を持って部屋を出る。

 一方、夕飯を食べ終えてのんびりしていたお姉さんは上から降りてきた少年の様子に驚いた。

 旅装束を身に纏い、『これから外出します』という格好をしていたからだ。そして彼はお辞儀をすると、本当に出て行きそうな事を言い出す。

 「お世話になりました。」

 困惑するお姉さんをよそに、おじいさんは頷く。

 「元気での。」

 「おじいさんも、お元気で。」

 リジェネはきちっとお辞儀をすると、玄関に向かう。

 「ちょ、今から出るの!?」

 お姉さんが驚いたのか、大きな声を出した。

 「ええ。」

 さも当然とばかりに頷く彼に、お姉さんは言う。

 「悪い事は言わないから、やめておきなさい。夜の外出は危ないわ。」

 「この先、危険地帯でもあるんですか?」

 「そうじゃなくて…というか、夜の道が危ないことくらいわかるでしょう?」

 「はい。でも、行かなきゃいけませんから。」

 「あなたの旅の目的は依頼でしょ?そんなに急がなくても…。」

 「まあ、そうなんですけどね。」

 少年はえはは、と気の無い愛想笑いをした。まるで話を聞いていない。

 「分かったわ。」

 その言葉を同調と解釈した少年が、玄関の扉を開こうとする。

 「私も一緒に行く。だからちょっと待って。」

 「はい?」

 体の向きを変える途中の、変な体勢で少年は固まった。

 その硬直を見て、早急に旅支度をする。装備を付け、荷物を持つ。今回は旅行のための軽装備なので、準備はすぐに終わった。困惑した少年を差し置いて玄関に向かい、おじいさんにお礼を言う。

 「おじいさん、ありがとう!」

 「気をつけての。」

 「じゃ、行くわよ。」

 そう軽い調子で言って、お姉さんは出て行ってしまった。

 「お世話になりました。」

 そしてリジェネは困惑しつつも、おじいさんにお礼を言って彼女に続いた。



 夜の道をてくてく歩いて暫しの時が過ぎた。リジェネにとっては、もう珍しくもない夜道の筈だった。なのにこうも落ち着かないのは、近くに年上の女剣士が居るからだろう。

 「ねぇ。」

 ふと女剣士が呼びかけた。

 「なんですか?」

 緊張気味に聞き返すと、彼女は気にした風もなく会話を続ける。

 「名前は?」

 『人に名前を尋ねるときはまず自分から云々』と言えるだけの気概というか生意気さは、今のリジェネには残っていなかった。

 結局素直に自己紹介する。

 「リジェネ・ペールです。お姉さんは?」

 「私はフィオネ。」

 家名は?と聞こうかと思ったが、止めた。これ以上気まずくなるのは御免だ。

 会話に奇妙な間が空いて、再びフィオネが口を開く。

 「リジェネのランクは?」

 「Cです。お姉さんは?」

 「Aよ。あとそのお姉さん呼びヤメて。」

 本人は誇るでもなく、あっけらかんとランクを言った。そして気にするものではない、とばかりに別の話題を入れてくる。

 ならば、ここはランクの話に乗らないのが正解だろう。

 「分かりました、フィオネさん。」

 「やけに素直ね。」

 「素直っていうか…困惑してるんですよ。皮肉とかに割く脳みそが無いだけです。」

 そう困惑して返すと、彼女はふふっと笑った。

 「そう。Aランク冒険者の護衛なんて、依頼しようと思ってもなかなか出来ないものなんだから。」

 「それは光栄ですね。」

 そうやって脊髄で会話の内容を自動生成しながら、頭では別のことを考えていた。

 何故か魔物が寄ってこない。索敵スキルでずっと感じているのだが、一定範囲に入ってこない。まるで反発する磁石のようだ。

 「ねえ。」

 「はい。」

 「どうかしたの?」

 「どうか、とは?」

 「さっきから上の空よ。何か気になる事でもあった?」

 「あぁ…。」

 適当な相槌を打ちつつ、ここでリジェネの意識はフィオネに向いた。

 「はい。なんか魔物が寄ってこないな、と。」

 「私のスキルね。」

 「そんなスキルが?」

 「便利なのよ?消耗を防げるし、パーティーの一人が持ってるだけで全然違うわ。」

 「なるほど…。」

 リジェネはそう呟いた。

 複数人のパーティーなら、索敵して敵を避けるのではなく、敵の方を避けさせるのだ。確かにそのほうが効率的だろう。

 「質問してもいいですか?」

 「何?」

 「そのスキルは任意で切れるんですか?」

 「勿論よ。そうでなくちゃ、いつまでたっても会えない魔物も居るもの。」

 便利だなぁ、とリジェネは呟いた。

 「そうだけど、万能ではないのよ。例えば避ける魔物は実力に依存するし…。」

 彼女が黙った理由はリジェネも分かっていた。狼の群れ、7匹が一定範囲を抜けてきたのだ。

 二人共武器を手に、襲ってくるのを待つ。

 森のざわめきに混じってガサガサッと草を掻き分けるような音がする。微かに足音も聞こえる。これも索敵スキルの恩恵だ。

 ただ、敵の位置が分かってもその方向は見ない。ただじっと、気持ちを抑えて待つ。

 じりじりと場を満たす緊張感が高ぶっていく。まるで弓が引き絞られるかのように張り詰めて…今!

 振り向きざまに切り払うと、ぎゃんという情けない悲鳴が聞こえた。

 まずは一匹。

 しかしそれで終わりではない。間髪入れずに二匹が同時に飛び掛かってくる。

 それを再びスキルで迎撃。

 今度は必殺の技ではなく、薙ぎ払いの範囲攻撃、〈半月斬り〉だ。

 仕留め切ることは出来ないが、怯ませることはできる。

 そして追撃を放とうとしたところで、後ろからフィオネが突っ込んできた。

 恐らくこちらの攻撃を見て、トドメ役になることを決めたのだろう。

 彼女は終の技を放った。

 突き技。突進の勢いをそのままに、剣を前に突き出す。

 一匹ずつ殺すのか、と思ったリジェネは、その後目を剥くことになった。

 剣から数え切れないほどの風の刃が出た。それが螺旋を描いて進み、まるでドリルのように空を穿つ。

 目の前にいた狼は原型を留めていなかった。しかも今のたった一撃だけで、5匹を巻き込んでいる。

 ほぼ挽き肉といって差し支えない無惨な姿になった仲間の姿を見て、残った2匹の狼達は一目散に逃げ出した。

 逃げるなら追いはしない、とばかりに構えを解くフィオネ。

 リジェネは一匹でも綺麗に倒して収入にしようかと思ったが、止めた。

 一縷の望みをかけてフィオネが倒した獲物たちを見ると、全身傷だらけで売り物にはならないことが判明する。

 「どうしたの?」

 「いえ。いつもこんな倒し方を?」

 「今は状態に気を配る必要なんてないでしょ。」

 彼女は何を当たり前のことを、とばかりに言う。

 そう言われて、反論する気が萎えた。確かに今売り物を得る必要は無い。必要がないなら余計な話をする必要もない。

 リジェネは無惨な姿になった狼を道の外へと片付けた。本来なら燃やしたり埋めたりするべきだろうが、生憎とそれだけの余裕は無い。そもそもこの手の屍肉を食らうのは、弱い魔物たちだ。

 変な事にならないよう祈りつつ、まあ平気だろうと希望的観測で思考をまとめた。

 「行きましょう。」

 「そうね。」

 珍しく、フィオネもなにか考えている様子だった。


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