不合格通知
拙い文章ですが、ご覧いただければ幸いです。
テンプレというものがある。これは偉大なる先人たちによって積み上げられた歴史から学習した結果生み出された、最も効率的な課題に対する解決策のことだ。
いや、全然違う。辞書的な意味合いでは全く違うが、時としてそのような解決策はテンプレ、あるいはセオリーと呼ばれ、そしてそれは様々なものにある。ゲームにおいてはテンプレデッキやら編成というものがあり、人々はそれを参考にして課題を解決するまでの道筋を立てるわけだ。
話は変わるが愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶという言葉がある。その例に当てはめるならば、テンプレを参考にする人達は賢者というわけだ。そして残念ながら…俺は賢者ではない。
なら何なのか。
少なくとも愚者とカテゴライズされても文句は言えないんじゃないか、そんな事を考えてから、少年は現実を見る。
彼の手元にはぐしゃっと歪んだ一枚の紙があった。
「はー…。」
そこにはギルドの紋章と、『不合格』の文字。早い話が、昇級審査の不合格通知だ。
通算二度目の落胆は、意外と大きくのしかかる。また負の思考ループに陥りそうになったが、誰かの野太い笑い声で現実に引き戻された。
声の主は筋骨隆々の大男。そして彼の仲間も楽しそうに笑っている。
そんなある冒険者達の姿を眺めながら、彼は自分が冒険者となり、そしていまこうなっている要因でもある日のことを思い出していた。
しがないCランク剣士。それが世間の彼、リジェネ・ペールに対する評価だ。
そもそも彼はありふれた農村で生を受けた、ごく普通の少年だ…ということになっている。客観的には。
主観的には全く違う世界で生を受け、情報社会の庇護下で育ったのだ。しかしある時を境にこちらの世界の『リジェネ・ペール』という人物になってしまった。外見は以前と全く変わらないが、何故か客観のパーソナルデータは固定されているという不思議な状態に陥った。どうしようもないので、以来『リジェネ・ペール』として過ごしている。
それはともかく、初めて冒険者としてステータスの編集を行った日、彼はそれぞれのスキルの効果量と取得にかかるコストを推測した。そして低級のものから取っていって、予想と方向性を補正しながらスキルを取捨選択した。
その結果、ある程度の機動力と剣によるある程度の攻撃力を併せ持つアタッカーとなった。加えて魔法によりある程度遠距離も対応可能で、ある程度の耐久力もある上スキルによる自己回復もある。アイテムボックスというスキルも保有していて、虚空に食料や装備を保管できる。あまりにも離れると厳しいが、索敵のスキルもある。
あれ、強そうじゃね?と思うだろう。実際彼もギルドによる戦力評価を受けるまでは、自分が強いと思っていたのだが。
ギルドの職員は彼を『器用貧乏』と判断した。
機動力があると言っても、アサシン系の最軽量クラス程足が速いわけではない。
攻撃力もあると言っても、後衛の大魔法や肉体強化魔法+大剣程威力が高いわけではない。
遠距離が対応可能と言っても、弓使い程射程が長いわけではない。
回復ができると言っても、ピュアヒーラー程瞬発的な回復力に優れるわけではない。
その上これらの能力は魔導具やポーションといったアイテムでカバーできる。
アイテムボックスはその容量は専門の運び屋には遠く及ばないし、索敵も同様。
自己完結で色々なことができるとはいえ、戦闘中に様々なことに気を配らなければいけないというのは難易度が高いため、パーティーを組んだほうがいい。
その上、ギルドランク上位陣は全員がパーティーで能力を補完し合っている。
硬い前衛と高火力の魔法使いにピュアヒーラー、そして運び屋がテンプレにして至高。そんな考えが一般的で、就職活動は専門職が有利。
それが分かったときには、既にCランクだった。
「よっ!」
声に振り向くと、そこには背中に剣を背負った同年代の少年が居た。名前はライト、ピュアアタッカーをしている同期だ。
「おう。何だ?」
「試験、どうだったよ?」
「駄目だったよ。」
どうやら同じ試験を受けていたらしい。率直に結果を伝え聞き返す。
「お前は?」
「受かった。これでBランクだぜ!」
「おう、おめでとうな。」
純粋な喜びを祝福すると、彼は礼を言った。
「ありがとう!君もファイトだ!」
「おう。」
そう応じると、ライトは立ち去った。
後からついてきた仲間と祝勝会だなんだと騒ぐ彼を見ながら、リジェネは通知書を自分のポケットに押し込むと、その場を立ち去った。
今日の予定は審査結果の確認だけでやることもないが、時間的にはまだ昼間。休日として捨てるのは勿体ない。
そんな事を思いつつ出されている依頼を確認していった。
昼間なので微妙な依頼しかないのは、分かっていたことだが…と、流れていた視線があるところで止まる。
その依頼の内容は手紙の配達だった。ただし、配達先はある大きな街。しかも手紙を運ぶだけなので、あまり報酬も美味しくない。普通は旅のついでに受けるような依頼で、故にこの時間まで残っていたのだろう。
その依頼を見て、ふと思った。
旅に出ようか。
この街での就活は厳しい。冒険者になった時から同期の競合枠にピュアアタッカーことライトが居て初動で躓き、そこで躓いてしまえば性能差は離れるばかりだ。ひとつ下のランクのパーティーに入れてもらおうにも、彼らにとって自分はコスパの悪い存在。固定メンバーとはしにくいのだろう。
そんな回想も頭をよぎり、『旅』という一見面倒臭くリスクも高い行為が今自分のすべき事のように思えた。
そうと決まれば…とリジェネは依頼の申込用紙を引っ剥がし、ギルドの受付へと持っていった。
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