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第7話

「あ、ああ……あああ……」

 二位パーティの連携攻撃によって、自分の愛する人が倒されてしまった。

 そのことに、アレサは言葉にならないショックを受けている。今までずっとその場から(・・・・・)動けずにいた(・・・・・・)彼女も、とうとうその制約を破ってウィリアのもとに駆け寄ろうとする。

 しかし、

「これで……勝負ありましたね」

 二人の間に立ちはだかるサムライに阻まれ、やはり、その場に立ち尽くしたままだった。


「ご、ごめんなさい……ウィリア……。わ、私は……私は……」

 うわ言のように、そんな言葉を繰り返しているアレサ。そんな彼女に、ニ位パーティリーダーのサムライ少女――名前はレナカという――が、話しかける。

「アレサさん……わたしは、実はあなたのことを信じてたんですよ?」

 サムライ(レナカ)の表情は、どこか寂しそうだ。

「確かに、あなたはみんなから『世界一愚かな賢者』なんて呼ばれています。わたしも、それは完全に正しいと思います」

 ハルという名前のニ位パーティ魔導士が、また煽るように「ぷぷっ、そこは否定してあげないんだぁ?」と笑うが、アレサもレナカも、もう気にしていない。

「自分の欲望のために強大な力を手に入れて、それを、自分がウィリア姫のそばにいるためにしか使わない。それは、とても愚かなことですけれど……でも同時に、ある意味ではとても純粋な力です。正義とは程遠いですが、かと言って悪というほどでもない。……この世界には、他にもっと悪い人がいくらでもいますから」

 レナカが話している間にも、その周囲には隕石が落下している。

 さっき女格闘家――名前はスズ――の攻撃で気を失ってしまったウィリアは、そのままでは、いつか隕石が直撃して文字通りの致命的なダメージを受けてしまいそうだったが……。いつの間にか、格闘家スズがウィリアを抱きかかえ、隕石の攻撃範囲外に運んでくれていた。どうやら彼女たちには、命を奪う気まではないらしい。


 サムライ少女レナカは、言葉を続ける。

「おそらく、万年ランキング一位のあなたたちは気にしたことなんてないでしょうけれど……わたしたち以外で冒険者ランキングに入ってるパーティなんて、ほとんどがロクでもない連中なんです。三位は、単独(ソロ)で殺し屋をしているダークエルフの呪術師。四位は元海賊で今は盗賊のパーティ。ランキング八位なんて、実は人間に変身しているモンスターたちです。その誰もが、自分の持っている力で躊躇なく人を傷つけるような奴らです。そんな奴らに比べたら、あなたたちはまだマシなほうです。煩悩が多過ぎる賢者も、適当過ぎる勇者も、存在自体はだいぶ残念な感じですが……それが、直接人を傷つけるようなことはありません。キャラクターが残念なだけで、悪意を持っているような人たちではない。だから私たちは、あなたたちとは戦う必要はない。むしろ、直接会ってちゃんと話せば私たちの理想を理解して、悪人たちを倒す協力をしてくれるんじゃないか? そう思っていました……それ、なのに」

 そこでレナカは、自分たちからずっと離れた位置に隠れているイアンナに、チラっと視線を送る。

「……ひっ!」

 根が臆病者な性格だからか、まるで悪いことをした子供のように、ビクッと体を震わせるイアンナ。もちろん、そのときのレナカにはイアンナを責めるような意図はない。

「数日前にイアンナと出会って、あなたたちが彼女をクビにしたときの様子を聞いて……それは、私の買いかぶりだったと思い知らされました」

 レナカはそれから、またアレサに視線を戻した。

「あなたたちには、やはり勇者パーティとしての自覚が全然足りていません。ランキング一位パーティとしては無自覚過ぎて、無邪気すぎて、悪気無く自分の欲望に忠実過ぎです。あなたたちほどの力を持った人間のそんな無責任さは、やはり、悪と言うしかない。そんな悪を、私たちは許すわけにはいかない。力を持ったものの責任として……そんな悪を滅ぼすことが、私たちの使命なのですから!」

 ちょうどそこでウィリアを運び終えた格闘家のスズが、【風】のスピードでレナカの隣までやってきた。


 アレサの前には、臨戦態勢のサムライのレナカと格闘家スズの前衛二人。後衛では、【心】によって魔力が強化された魔導士ハルが、まだ上空に残っている隕石たちの軌道を魔法で制御してアレサにぶつけようとしている。僧侶ナンナも、パーティメンバーにかすり傷一つだって負わさせない覚悟で、回復魔法を準備している。

 そのさらに後ろでは……。

「う、うう……」

 戦いへの恐怖に震えながらも……二位パーティのメンバーたちや、それ以外の周囲にも気を配って、付与術を必要とするタイミングを見逃さないようにしている天才付与術師のイアンナがいる。

 スキのない布陣だ。

 それぞれの実力は申し分なく、メンバー同士のチームワークも完璧に見える。当然、その全員にダメージ無効化の【盾】も付与されている。


 もはや、たった一人となってしまったアレサには、どう考えても勝ち目なんてなさそうだった。

 しかし……。


「分かったわ……よく、分かったわよ」

 アレサは、そう言った。

「分かった? 何が、分かったというんですか?」

「貴女たちの言い分……それから、貴女たち自身のことも。さっきウィリアが言ってくれたように……私はもう、これ以上の無理をする(・・・・・)必要がなさそうだってことがね」

 そうつぶやくアレサの表情は、なぜか少し嬉しそうに見えた。

「あとは……」

 それから彼女は、イアンナのほうに視線を向けて、「貴女も、今のうちに私たちに何か言いたいことがあるなら、聞いてあげるわよ?」と言った。

「ひっ⁉」

 ブルブルブルっと首を振って、それを拒絶するイアンナ。

「ああ、そう……」

 アレサも、ため息とともに呆れたように小さく首を振る。

「……?」

 そんな二人のやりとりに、「パワハラ上司」と「隠していた実力を発揮して、いまやその上司を完全に圧倒しているかつての部下」……とは違う、何か特別な意味があるような気がして、レナカは少し怪訝な顔になる。

 しかし、彼女が胸に浮かんだその疑問を確認する前に、状況は先に進んでしまった。



「あ」

 魔道士ハルが仕向けた隕石の一つが、アレサに向かってすぐ近くまで近づいてきていたのだ。それも、これまでよりもそのサイズが少し大きい。

「くっ」「……ふむ」

 もう話をしている状況ではないと悟ったレナカは、隣の格闘家スズと一緒に、近くにいる自分たちにまで届きそうなその隕石の衝撃に身構える。彼女たちは今回は、その隕石から逃げるよりも【盾】でそれを無効化することを選んだようだ。ほぼ無制限の付与術の恩恵を得られる彼女たちなら、その選択も妥当だろう。


 しかし、

「……あら?」

 事前に二つ描いてあった【盾】の印のうち、その一つをすでに使ってしまっているアレサの場合は、また事情がことなる。彼女からすれば、このあとの戦いのためにも残されたあと一回の【盾】は、なるべく温存しておきたいはずだ。しかし、だからといってこれまでのように風魔法を使って上空からやってくる隕石を防御していると、中段や下段への攻撃に対して無防備になってしまう。それでは、たとえ隕石は防御できたとしても、その直後に仕掛けてくるはずの二位パーティ前衛の二人の達人の攻撃を防ぎきれないだろう。では、どうすればよいのか? 他に、隕石を防御できるような魔法はあるのか?

 ……なんて葛藤は、無理をする(・・・・・)必要がなくなった今の彼女には、なかった。


「……ふふっ」

 次の瞬間、アレサは何の迷いもなく、自分の足元に自分が使える中で最強の火属性魔法――火柱(メルト・ハイ)爆発(・グレネード)――を放った。

 上空にまで届くほどのその凄まじいエネルギーで焼き尽くされて、隕石は消滅。近くにいた二位パーティの前衛二人も、その魔法の爆風で後衛の二人の位置まで吹き飛ばされてしまう。だがもちろん、【盾】の効果によって無傷だ。

 しかし、当然それだけ近距離で魔法を使えば、アレサ自身だってノーダメージでいられるわけはない。むしろ自分の足元に放ったそのエネルギーに一番影響を受けて、自爆するようにアレサの体が爆散してしまってもおかしくはなかったはずだ。だから……彼女はその自分の魔法の威力を防ぐために、最後の【盾】を使っていた。本来ならば今後の攻撃を防ぐためにとっておきたかったはずの防御魔法を、使ってしまっていた。


 しかし、あえて自らそんな「あとがない」状況を作ってしまったアレサは、今までよりもずっと余裕のある様子で言った。

「次は、全員でかかってきてもいいわよ? どうせ貴女たち……もうすぐ私を攻撃することなんか、出来なくなるから」


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