トリコ
出発当日、太陽がまだ出ておらずランプで当たりを照らしながら騎士と少女は村長達を待っていた。
騎士は、片手剣と弓矢を腰と背中のあたりに万全に装備しているが、防具は民族衣装のままだ。
騎士と少女の後に少し遅れて、村長達がやってきた。
村長達が現地に必要不可欠な食料や寝具、武器や予備道具諸々用意し、ラミアとユキの分まで準備していた。
村兵や議長と共に、それぞれ一人一人が背負子を担ぎやってきた。
先日、村会議を投げ出した副議長も一緒にやってきた。
ラミア「すまない、私のわがままに付き合った上にここまで用意してくれて本当に助かる」
ユキ「ありがとう」
騎士と少女は、村長らに感謝し会釈する。
村長「いえいえ、この村のために仕事をなさるのですから、このくらいは容易い御用です。」
村長「このリーサス村の人口は、わしらも合わせて100人程です。この少ない村民とで力を合わせてきました。これ以上の犠牲者は出したくないのです。どうか、ボルカナのあの事件の真相を解き明かしてください」
そして、村会議を投げ出した副議長が騎士と少女の目の前に立ち、深く頭を下げた。
副議長「先日は、お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした。村の権力者ならぬ未熟な言動と行動を取ってしまい、心から深くお詫び申し上げます。以後、自分の欠点を見つめなおし、改めていこうと思います。どうかお許しください。」
先日の態度とは一変に、副議長は反省の態度を見せた。
副議長に続き、村長と議長も騎士に頭を下げる。
ラミア「滅相もない。賛成にしろ反対にしろ、どちらも素晴らしい意見だと思う。」
騎士は、反省する副議長をいたわる。
そして、村会議の論争は、一見落着し村長らは見送りの行儀をする。
村長が騎士と少女に一礼をし、後に続き議長と副議長が一礼する。
議長「ラミア様にユキ様、お供を連れて参りました。人材不足で村兵二人しかご同行にお付き合いできませんが、きっと心強いお供となってくれます。」
議長の背後にいた村兵の二人が、騎士と少女の目の前に立ち、同時に敬礼をする。
そして、村兵二人が挨拶する。
スーザン「私の名は槍使いのスーザンと申します、スピードは、この村一番であります。騎士様のお役に立てるよう全力を尽くします。」
スーザンに続けて、もう一人の兵が挨拶する。
デク「私の名はデクと申しますデゲス。腕力はこの村一番でありますデゲス。困りごととかありましたらいつでもお力になりますデゲスのでなんなりとお申し付けくださいませ、、、デゲス」
デクは、言葉遣いが苦手でありながら、なんとか挨拶を済ませる。
二人とも銅の首飾りを身に着けており、それなりの業績を得ている。
スーザンは、槍使いでスピードに特化しており、スピードを武器にして敵の不意を付き攻撃するのが得意である。体型はスラっとしており、身のこなしが軽い。
デクは、両手にナックルを装備しており、腕力に特化している。そして石頭であり、どんな硬い岩でも頭だけで砕いてしまう。1トンの岩も軽々と持ち上げる。
そんな心強い仲間も増え、ラミア率いる少女と村兵の2人で、ボルカナ密林へ向かうのであった。
村から出ていく4人の逞しい姿が見えなくなるまで、村長らが見送るのであった。
副議長「本当に彼らに任せてよかったのでしょうか、確かに彼は地位や立場関係なく謙虚な姿勢で振る舞い、自ら協力までしてくれてご立派だと思われますが、やはり大規模であるトデット城の騎士、この村に関わろうとする以上、疑いが晴れません。」
副議長の疑問に対し、村長は彼らを見送りながら視線を変えずに話す。
村長「副議長、村の事も大切じゃが、人を疑うだけでなく、受け入れることも必要じゃ。他所の者を受け入れ、信ずる事で大切な事が見えてくることもある。この村も人材が少ないのだから、これ以上犠牲者を出させる訳にはいくまい。ラミア様の活躍を期待して待っていようではないか」
副議長は、村長の言葉が心に残り、自分の内心を見つめなおす。
村長は、見送りを終えた後、「村へ戻るぞ」と言葉を言い残し、先陣を切って村に戻る。
議長は、悩む副議長の肩をポンっと軽く叩き、翻し村長の後に続く。
また、副議長も我に返り、議長の後に続き村へ戻るのであった。
その一方でリーサス村を離れ出たラミア達は、目的地へ向かって障害物となる木々の絡まったツルを除けながら進むのであった。
ラミア「ユキ、ここは木の根が邪魔で足元が危ないから手を繋ごう」
ユキは頷き、ラミアの手を握る。
ラミアも、ユキを手放さないように強く握る。
ラミア「本当にここは、生き物がいなくなったんだな」
ラミアは、周囲を見渡し、確信したかのように話す。
スーザン「ええ、少し前までは多く居ましたが、1000年に一度と言われる火山の大噴火によって多くの動物が命を絶ちました。火山弾の直撃による被害だけでなく、山火事により木の実を主食としていた動物達は、飢え死にし、食物連鎖は途絶え動物達は絶滅していきました。」
ラミア「リーサス村は大丈夫だったのか?」
ラミアは、心配そうに尋ねる。
スーザン「ええ、リーサス村に住んでいた我ら先祖代々が書き残した書物には、自然災害の歴史や医学の知識などこのリーサス村で生き残る手段が記されていた事で我らが生きていた時代が丁度1000年目にあたることを知りました。そのお陰で、大噴火に備える事が出来て、村の被害は最小限にとどまりました。」
デク「住居地は全て燃えて住めなくなりやしたが、村の被害が最小限に収まった事ですぐに復旧作業を実行することができやした。村のはずれに住む動物達はほとんどいなくなりやしたが、少しでも残された動物達が、また繁栄して快適に過ごせるよう、死骸や木片を全て駆除し、森の復旧政策も開始しやした。」
スーザンとデクは、苦難を乗り越えてきた男前の自信に満ちた表情で話す。
ラミア「それは災難だったな。小さな村とはいえ、優れた知恵とその協調性、尊敬するぞ」
デク「いえいえ、先祖様が書物を残してくれたお陰デゲス。わしらは当たり前な事をしたまで」
スーザン「ありがたきお言葉です。」
スーザンとデクは、満足げな顔で感謝する。
すると、ユキはラミアの手を揺さぶり、話しかける。
ラミアは、今までの緩やかな表情はいっぺんに、真剣な顔でユキに振り替える。
ユキ「お父さん、何か来る。すごい臭い」
ユキの優れた嗅覚で、何者かが近づいてくる異臭に対してユキは違和感を訴える。
ラミアは、周囲にある刺激を遮断し、嗅覚に研ぎ澄ます。
ラミア「確かに、異臭がどんどんひどくなってくる。何者かがものすごい勢いで近づいてくる。」
スーザンとデクは、ユキとラミアの報告に武器を構えて警戒態勢を取り始める。
そして、ラミアとユキの嗅覚は見事に的中し、何者かがものすごい勢いで姿を現し、ラミア達に向かってくる。
大きな体格をしており毛で覆われ、鋭い2本の角を左右に揺らしながら、四足歩行で地面を蹴り砂埃上げこちらへものすごいスピードでラミア達に突進してきた。
デクは、ものすごい勢いで突進してくるものの姿を見て、確信したかのように声を荒げる。
デク「大イノシシだ!俺に任せろ!」
デクは、腰を落として重心を低く保ち、両手を広げ襲い掛かってくるイノシシの角を掴み食い止める。
イノシシに圧倒されながらも、体の重心を前に移し、両足を引いて転倒しないようにイノシシを足止めする。
デクが、足止めしている間に、ラミアとスーザンは即座にイノシシの脚を狙い討ちする。
不意をつかれたイノシシは、体勢を崩し、地面に這いつくばる、イノシシの突進を阻止することに成功。
大イノシシは、ラミア達を威嚇しながら地面の上をジタバタする。
スーザンとデクは、暴れるイノシシにとどめを刺そうとしたその時、「待って!」と甲高い声で少女が二人の行動を引き止める。
ユキ「この子は、何も悪くない。私には、この子の声が聞こえる。」
ユキはそういうと、地面の上で暴れる大イノシシに近づく。
イノシシは、鋭い目でユキを威嚇し、うめき声を荒げる。
スーザン「ユキ様、危険ですぞ!避難してくださいませ!」
デク「お嬢さん!殺されますぞ!」
少女を引き止めようとする村兵の二人に、ラミアが「大丈夫だ」と言って、二人を引き止める。
ラミアは、大イノシシに何かを訪ねようとする少女を冷静に見守る。
スーザンとデクも、声をかけるのをやめ、何かあったときのために戦闘態勢を取り、冷や汗をかきながら少女を監視する。
少女は、大イノシシに問いかける。
ユキ「大丈夫、殺さないから安心して。私はただ貴方と話がしたいだけなの。きっとあなたの身に何かが起こったからビックリしたんだよね。」
すると、少女の体内から緑色のオーラがあふれ出し、そのオーラは波動となってイノシシの体を取り巻く。
さっきまで威嚇して地面の上を暴れていたイノシシは、大人しくなり問いかける少女を受け入れるようになった。
ユキ「大丈夫、貴方は悪い子じゃない、いい子いい子。」
少女は、痛めた足をそっと撫でる。
そして、少女は、二人の兵士に戦闘で負傷したときのために備えてた救急箱の中から傷薬を持ってくるように頼む。
二人の兵士は、躊躇いなく咄嗟に傷薬を取り出し、少女に渡す。
ユキは「ありがとう」と感謝を忘れず、大イノシシの応急処置を始める。
大イノシシは抵抗せず、大人しく処置を受ける。
少女は、イノシシの脚に傷薬を塗りながら、「大丈夫、大丈夫」と労いの言葉を繰り返す。
大イノシシは、少女の優しさに安心して瞼を閉じ、眠りにつくであった。
少女の偉大な行動に、二人の兵士は「すごいなぁ」といって感銘を受ける。
ユキ「この子の話も聞きたいから、ここで休憩しよう」
少女が提案を要求する。
騎士達は、躊躇いなく少女の要求を呑み、イノシシが目覚めるまで休憩を挟むことにした。