プロローグ
新連載始めました。
まだまだ未熟な作品ですがしばしお付き合い下さい。
『イチャイチャしやがって!』
目の前でイチャつくカップルに吐き捨てた。
どうやら俺は死んだらしい、正確には車に撥ねられ殺された。のだが、殺された俺は異世界に転生出来るらしい。呆然とする俺を急かす神様みたいな爺さんに連れられてきたのが異世界の森だった。
現在幽体で見えない存在らしい…転生先はイチャつくカップルではなく、長い髪で顔を覆い、カップルを先導する如何にも根暗そうな男の子だ。
この神様の話では、この男が間もなく魔物に襲われ殺される。殺された後傷口を治して俺を憑依させるとのことだ。それはいいのだが、あまりの出来事に頭が追い付いていない。とりあえずこの異世界がよく分からない…。
『この世界のことを教えて下さい。憑依しても生き抜く自信がないです』
隣にいる同じく幽体の爺さんに話しかける。
『ここはブリタン王国、ヨークの街から南に広がる森だ。南に行くとアロンの村がある。更に進むと亜人種の集落がある』
南の森ということは北にヨークの街があるってことか。
『お前の憑依先はアレスという冒険者、イチャつくカップルはアレスの幼馴染で、ヨーゼフとリーゼ、3人ともヨークの街出身の17歳だ』
……俺の憑依先負け組幼馴染じゃねーか!幼馴染同士で冒険者なのは分かるが、あのヨーゼフとか言う男優越感に浸った顔でちらちらアレスを見ているんだよ、此畜生!何のプレイだよ、少女のリーゼは頬を赤く染めているし、おい、ヨーゼフ、腰に手を回すな!
『そう熱くなるな。村田 勇樹、お前の願いを叶え転生させるのだから』
『本名呼ばないで下さい…転生はありがたいですけど、神様チートで強くしてくれませんか?あのヨーゼフを焼き殺す極上魔法とか剣聖スキルとかないですか?』
『あるかーど阿呆!お前の転生先を蛆虫にするぞ!前世の記憶を残した上、糞に卵を産み付けられて糞から栄養を吸収する生き方を200万回くらい繰り返すか?』
『我儘言いませんからそれだけは勘弁して下さい』
こえー!その無限ループ勘弁して、この爺さんガチでそう言う力ありそうだし。
『大人しく転生して新たな人生を歩むがよい。そろそろだぞ』
森の茂みがカサカサと揺れ3人の前に一頭熊が現れた。
「ヨーゼフ、リーゼ!備えて!」
アレスが叫びながら剣を抜き大きな熊の魔物と向き合うが、後ろの2人は手を繋いだまま戸惑っている。
『何やってんだよ、ヨーゼフ!早くアレスを助けろー!』
『キリングベア、今の奴等が逆立ちしても勝てん。ここから西に100m、この熊に殺された冒険者がおる』
熊、名前からして殺戮を楽しむ愉快犯かよ。
「ガオー!!」
熊の突進で吹き飛ばされるアレス、戸惑っていた2人が悲鳴を上げて後退る。
「ヨーゼフ!リーゼを連れて早く逃げろ!来い、僕が相手だ!」
飛ばされたアレスが叫びながら起き上がる。再びキリングベアと向き合い、熊はアレスの周りを徘徊している。男気溢れるこの男死ぬ気だ…いや死ぬんだが…あのイチャこらカップルを逃がしてこうなる運命だったのか。
幼馴染が逃げたのを確認したアレスは覚悟を決めたようだ。恐怖で震える身体を、「ウオー!」と、咆哮を上げて、剣で切りかかる。
『行けー、アレス!』
三度キリングベアの身体を切ったが皮を切った程度で致命傷とはほど遠い。
狙いを定めた熊は二足で立ち上がり両手を上げ、右手左手と時間差で振り下ろす。アレスの頭を狙った右手を辛うじて避けたが、熊の左手が胸部を抉った。
鮮血がほとばしり地に倒れこむ少年アレス、致命傷は明白だった。
「リーゼ…しあ…わせ…に…」
間際で幼馴染の幸せを呟いたアレスは事切れ、殺戮に満足したのかキリングベアは森の奥に消えていった。
『終わったな、それでは仕事にかかろう』
爺さんは魔法を唱えると少年の傷口が回復してゆく。
『爺さん、この少年この先どうなるのだ?幼馴染を守って死んで本望かも知れないが…あまりにも哀れな末路じゃねーか』
惨状を一部始終見ていた俺はなんだかこの少年が哀れで仕方なかった。特に間際の呟きは間違いなくリーゼに恋心を抱いていただろう。しかし優越感に浸った眼差しの腰抜けヨーゼフ、あいつは命捨てて守る相手だったか…。
『心配せんでも少年の転生先は金持ち貴族だ。次回は幸せに生きる』
『それならいいが…』
爺さんからこの世界についての簡単な説明を受ける。言語、貨幣、レベルや魔法、スキルシステムだが前世の知識で対応出来そうだが…。スキルに関しては、信託の儀で授かったアレスのスキルをそのまま引き継ぐみたいだ。その辺りは自分で見聞を広めるしかないか。
『最後に憑依すると儂が見えなくなる。周辺にはキリングベアがうろついておるので早く離れたほうがいい。それではよき転生生活を送れよ』
気が付くと俺は少年に憑依して幽体では無くなった。とにかく早く逃げねば…転生して同じ熊に殺されたなんて洒落にならん。そういえば西に殺された死体があるって言っていた。
歩きながら付近を散策するが熊の襲撃跡は直ぐに分かった。首の無い死体を見つけたから。
素早く駆け寄って死体漁りをすると、干し肉、塩、コショウ、財布、中から銀貨2枚が見つかった。武器は短弓と木の矢10本、まずまずの収穫だ。直ぐに死体から離れる。
「銀貨2枚…この世界の20万ゼニーってことか。南にアロンの村と亜人種が住んでいると聞いたが、そこに向かうか」
再び歩き出した俺は、ステータス画面を開くと、
◇◇◇◇◇
アレス 17歳 レベル 1
HP : 30
MP : 2
力 : 8
素早さ: 6
魔力 : 2
幸運 : 2
身の守り:6
スキル : 剣技 0/100 気配術 10/50
常時気配感知1 常時隠蔽1
◇◇◇◇◇
レベル1…アレス、冒険者始めたばかりかよ。初めての冒険であの熊と遭遇って、どんだけ運がないんだ!とにかくレベルを早く上げねば生死に関わる。
スキルが気配術で気配感知1と隠蔽1、それであのカップルを先導していたのか…。
「グアアアーーー!!」
熊の咆哮が森に響く。あの野郎近くにいるな、早く逃げねば!
熊から逃げる為、南に向かって歩き続けるが…やべー爺さんにアロンの村までの距離聞き忘れた!頼む運よく見つかってくれー!そう願い歩き続けた。
※※※※※
願いは届かず夜になるまで歩いたが村どころか集落一つ見当たらない。ヤバい、このまま森で夜を過ごす事になるぞ。
幸いアレスは僅かな食料に水、調味料、を持っていた。死体からの奪った干し肉を齧りながら今後を考えるが…最悪の結末しか思いつかない。不気味な咆哮が響く度恐怖で身を隠す。
今晩乗り切っても明日か明後日には死にそうだ…。ここで待っても救助は来そうにないし、とにかく南に歩くしかないか、夜通し歩き続ける。
夜の森は恐怖でしかなかった。魔物の雄叫びを聞く度に身体が震え木々に身を隠す。木の上から蛇の魔物にも襲われたが気配を感知でき、這這の体で逃げ出せた。
日の出で夜の恐怖から安堵した俺は大木の木陰で一眠りについた。
「ミーファ、その人生きている?」
「大丈夫、息はしているし、心臓は動いている」
何時間眠ったのか分からないが目を開けると、可愛いウサ耳をつけたモフモフの亜人種の女の子2人がいた。
「君達は?」
「ラビット族のミーファ、こっちはミーティアよ」
「俺はユ……アレス、ヨークの街から来たが道に迷った。でも君達に会えたってことはこの辺にラビット族の集落があるのか?」
じーっと俺を見つめる2人。
「この人悪い人じゃなさそうだし、集落に案内しましょう」
2人に案内されしばらく歩くと集落が見えるが、50人くらいの規模だな。
「ラビット族の集落です。人と関わりは持たないのですがお困りの様子だったので…」
2人の歯切れが悪いのは、皆に受けいれられるか分からないからか…集落に入った俺は、直ぐに長老の下に通された。
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