1、クリスマスじゃないっす、建国祭っす
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乙女ゲー展開の最終季節である冬の章、開始です。
ぼちぼちクライマックスになってくるんじゃないですかね? どうですかね?
今日も今日とて隠れてアトラを尾行するピラットと、それに渋々付き合うクロス。
時刻は放課後。生徒たちがクラブ活動やら買い物やら、それぞれに散らばっていく中、ヒロインであるアトラは意を決し、小走りでその人を追った。
「あ、あのっ! ヴィライナ様!」
アトラに背後から声を掛けられ、ヴィラが振り返る。
「あぁ、アトラ嬢、どうかしたのか?」
アトラはカバンを両手で持ち、一瞬モジモジしたのちに、思い切って口を開いた。
「け、建国祭の日は、何かご予定、ありますか!!」
皇国は約500年前の12月25日に建国したとされている。そのため、この国では12月25日は建国日として祝日であり、国民は前日である12月24日からお祝いを始めるのが通例となっている。
なお、この国では建国祭は家族で祝うのが一般的である。
「まるでクリスマスみたいだな……」
「クリスマスじゃないっす、建国祭っす……、って知らなかったっすか? もう数年皇都にいるっすよね?」
『今は6年目だね』
「クリスマスにいい思い出ナイから、スルーしてた。」
「暗い過去っすね」
一見同情的な目を向けている様子のピラット。だが、その裏には同情どころか、憐れみと嘲笑が含まれている。
(くそっ! 絶対面白がってる)
『なんだよぅ、水臭いなぁ。言ってくれれば、毎年クリスマスソングを君の頭の中で熱唱して──』
(やめれ。権利関係が煩いから本当にやめれ)
「あぁ、すまない。建国祭から年末にかけて、お父様とお母様が皇都の別邸にいらっしゃるんだ。家族と一緒に過ごす予定なんだが……」
「あ……、そうなんですね」
アトラは一瞬悲し気な表情を見せつつも、気を遣わせてはいけないと気づいたのか、すぐに表情を取り繕い笑顔を見せる。
(そういえば、孤児院出身で身よりが無かったのだったな……)
学園の寮に入るため、孤児院を退所しているアトラは、建国祭に共に過ごす家族が居ない。それに気が付いたヴィラは、アトラに誘いの言葉をかけた。
「あー、その、なんだ。良かったら私の家族と一緒に過ごすか? お父様お母様もお許し下さるだろう」
ヴィラは気恥ずかしそうな様子で言う。
「え、でも、ご、ご迷惑では……?」
言葉では戸惑いを見せるアトラだが、口角がやや上がり表情に喜びがにじみ出ていた。
「わ、私が誘ったのだ、迷惑なものか。それとも、アトラ嬢にとっては迷惑だったかな?」
「いえっ! そんな、嬉しいです!」
眩しいような笑顔を見せるアトラ。
「そうか、なら良かった」
それを見て満足気に笑みを浮かべるヴィラ。
「ふぅ、尊い……」
笑いあう二人を見て、不気味な笑みを浮かべるピラット。
「闇が深い……」
変態に付ける薬はない。と、クロスは諦めた。
仲良く寮へと帰っていくヴィラとアトラを尾行しながら、学園の庭園を通りかかる。
庭園には大きなもみの木が設置され、色とりどりの飾りが取り付けられている。
「やっぱクリスマスツリーは飾るんだな……」
もみの木を見てクロスが呟く。
「あれはツリーじゃなくて皇国樹っす。先端が違うっす」
「先端?」
ピラットに言われてツリーの先端部を見上げる。
「あ、ほんとだ。星じゃなくて、あれは……、知恵の輪?」
クリスマスツリーであれば、先端部分には星が取り付けられているのが一般的であろう。しかし、皇国樹には丸い輪を複数組み合わせたモノが取り付けられていた。
「釜敷九曜っす。アレは皇家の紋で、建国九聖を表してるらしいっす」
「へぇ~」
(けんこくきゅーせーってなんだっけ?)
『皇国を作った9人の偉い人だったかな……? 白鱗持ってる奴だよ。たしか』
スミシーが微妙にあいまいな感じで述べる。
(お前、AIなのにどうして記憶があいまいな感じなんだよ……)
スミシーの発言にツッコミなどを入れながら皇国樹を眺めていると、見たことのある図形が目に入った。
「おい! ツリーにトラ○フォースが飾ってあるぞ!? いいのか著作権!!」
「ツリーじゃなくて皇国樹。あれは三つ鱗っす。白鱗の紋っすよ」
「白鱗……、トライ○ォースじゃないのか……」
「白い三つ鱗だから白鱗なんすよ」
へぇ~と言いつつ白い三つ鱗を見つめているクロスは、北風を受けて肌に刺さる寒さを感じた。
「それにしても、こんな寒い時期に建国なんてできたのかねぇ……、雪だって振っただろうに……」
ややどんよりと曇った空を見上げつつ、クロスは呟くように言った。声を出す息が白い。
「この辺は太平洋岸だから、冬の降雪はそこまで多くないんじゃないっすか?」
一瞬聞き流したクロスだが、何か異常な単語が含まれていたことに気が付き、ピラットの発言を反芻した。
「……は? 太平洋岸? この世界に太平洋あるの!?」
「ラブレスの世界は超未来の日本って言う設定で、たしか中部地方だったはずっすよ。なので、皇都が面してる海は太平洋じゃないっすかね」
ピラットの発言に、クロスはあんぐりと口を開けたまま静止している。
たっぷり数秒の後、クロスは改めてピラットに問いかけた。
「せ、設定って……、じゃあ、俺たち、その"超未来"にタイムワープしたってこと?」
「乙女ゲーの設定っすよぉ、クロス氏何言ってるんすかぁ」
「この世界は"その"乙女ゲー世界なんじゃなかったのか?」
「……」
やっと自身の発言内容に気が付いたのか、次はピラットが静止した。
(え、どゆことっすか? ここは乙女ゲーの世界で、乙女ゲーの世界は超未来の日本だから、この世界は超未来の日本?)
皇国樹の前、深刻な顔で見つめ合う二人。傍から見れば、愛を語り合う二人にも見えたかもしれない……。
大混乱の二人の頭上からは、12月には珍しい雪がちらついていた。
「聞いてくださいよクロス氏!」
「なんだよ」
「この作者、別の長編でも"未来の地球ネタ"やってるらしいっすよ? それも二つも!!」
「いや、まぁ、"ポストアポカリプス"とか、割とフィクションではよくあるパターンだし?」
「芸が無いっすよね」
「辛辣だな!」
「え? クロス氏、擁護するんすか? ソッチ側なんすか?」
「"ソッチ"ってどっちだよ。そこは、こう、俺らの立場では、あまり言えないというか……」
「こんな作者に評価とかブックマークつけたら、調子に乗ってまた同じネタ使うっすよ!?」
「そんなこと言っちゃダメ! 気に入って読んでいただいている読者様いらっしゃるんだから、言っちゃダメ!!」
「そうなんすかぁ~、なら、作者調子に乗せたらもっと書くので、ぜひ評価とかブックマークくだ──」
「ストレートもダメ! それとなくお知らせするくらいにしといて!」
「えぇ~、めんどくさいっす。それに、"それとなくお知らせ"って、結局督促してるじゃないっすか」
「督促とか言わない! もう、そろそろ引き上げよう、おまえこれ以上しゃべらせるとマズイ」
「いやいや、自分、ちゃんと"それとなーくお知らせ"できるっすよ?」
「べ、別に、評価とかブックマークとか、そういうのじゃなくて、アナタに見てほしいから、投稿してるんだからね?」
「うわ、キモ」




