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その能力たるや

「このオレが改良型とか抜かすやつに乗ってみて、貴公の言葉が大口か否かを確かめてやろうぞ!」


 レオンハルトの挑発を受けるようにに、ガイアールが新しいウィントレスに乗り込んで起動させる。

 が、自ら煽っているにもかかわらず、出鼻を挫くようにレオンハルトが「待て待て」と、立ち上がろうとするガイアールにストップをかけた。


「こんなところでバタバタ動くな。館が壊れてしまう」


 工房が広いといっても所詮は単なる地下室、加えて様々な道具や工具が所狭しと置いてあるので動けるエリアはごく僅か。こんなところで機動甲冑が本気で動き回れば、ヘタをしなくとも建屋の全壊だってあり得る。

 と、至って常識的な注意勧告ではあるが、理解と納得は別のモノ。ガイアールも「そりゃそうか」と言ったものの、舌の根も乾かぬうちに「しかし、だ」と先の言い分とは真逆の本音をぶちまける。


「貴公は「違いを見せる」と豪語したのだ。だったらある程度本気で動き回らんと、コイツの良し悪しが分からんぞ」


「だから、こんな〝地下の屋内ではなく外で動かせ〟と言っているのだ!」


 疲れたよう常識を説くレオンハルトの言葉に、ガイアールがポンと手を叩いて「おおっ」と唸る。


「言われて見ればもっともだ」


「何なんだ? この頭の悪い会話は」


 呆れる翔太にレーアが「ああ、いつものヤツね」と苦笑い。


「ガイアールてばふだんは知恵が回るのだけど、新しい武具や武器を目にするといつもああなのよ」


「新しいオモチャがあると、他に目がいかなくなる武器ヲタクか……」


 子供か!

 思わずそう言いたくなるガイアールの行動にため息交じりの翔太に向かって、レーアが「規律の面では確かに褒められたモノじゃないけれど、ガイアールが率先して乗り込むのはむしろ当然よ」と賛同しているのか反対なのか、意味不明に相反する言葉を言い放つ。


「おいおい、結局どっちなんだ?」


 首を傾げる翔太にレーアが「両方よ」とキッパリ断言。


「規律はもちろん大事。でも新しい機動甲冑がどの程度のモノなのか、騎士ならば自分の目で確かめておくことも大事だわ」


「それは……確かに」


 真逆の行為でお互い相反するが、言わんとすることは理解できる。


「分かるんだけど。でもなぁ……」


 理解できるのだが、自分たちは敵軍の目を掻い潜って潜伏している、いわば逃亡者ともいえる身。

 派手な行為を晒して相手に見つかったらどうするのか?

 少々の相手なら蹴散らす自信はあるが、物量にモノを言わせた数の暴力に抗う術は、残念ながら持ち合わせていない。

 

「性能確認の最中にオウの国の軍隊がやってきたら本末転倒では?」


 最悪の状態を危惧して翔太は懸念を口にしたが、なぜか当事者のガイアールよりも先にレオンハルトが「その心配は無用だ」と自信満々に言ってのける。


「この私自らが手掛けた躯体だからな。モノが違うことを知るだけなら、外に出て少し動かせば万事事足りる。直ぐに終われば見つかる危険も少なかろう」


 ドヤ顔で言い放つレオンハルトに「なるほど、理屈だ」と翔太は首を縦に頷く。

 圧倒的性能差があるのならば、試乗時間はホンの僅かで済む。限界性能を引き出すのは追っ手を撒いてから、今後の行動を考えつつゆっくりやればよいだろう。

 頭の中でそんな事を考えていると、レオンハルトが「もっとも……」と、未だ大口を叩くのを終わらせていなかった。


「モノの違いが解っても、使いこなせるかは別問題だが……」


「……なぜ煽る」


 ガキみたいなレオンハルトの嫌味に翔太は頭を抱える。

 そんな挑発を添えたらどうかるか?


「使いこなすに値する機動甲冑なら、オレが期待に添えてやろう!」


 当然のごとくガイアールが買い言葉とばかりにと受けて立つ。

 かくしてただのチョイ乗りが改良型ウィントレスの性能を確かめる場へと変わり、ガイアールが意気揚々と外に飛び出す。


「どうしてこうなる?」


 頭を抱える翔太を横目にレーアが「楽しくなってきたわね」と無邪気にはしゃぎ、






「ここならば貴様の館を壊す心配もなかろう?」


 ストレッチでもするかの如く機動甲冑の両腕をぐるぐる回しながらガイアールが訊けば、レオンハルトが「大口を叩くが、それだけ自在に使いこなせるかな?」と煽ってくる。

 無論、煽られて黙ってるガイアールではない。


「当たり前に決まっている!」


 今までの嫌味対処と同様、即断即答。

 いや、それだけではない。


「それよりも、このオレを振り回せるだけの力を果たして持っているのかね?」


 挑発には挑発で対応すると、レオンハルトが「当然だ」とこちらも即答。両者一歩も引くことがない。


「ならちょっと、殺陣でもやってみるか?」


 舌戦では埒が明かぬと思ったのか、ガイアールが剣を手に持ち翔太に顔を向ける。どうやら乱稽古の相手をして欲しい模様だが、ガイアールが「相手をして」と口にするよりも早く、翔太は「やんねーよ!」と思惑をぶった斬る。


「アンタと模擬戦なんか始めたら、終わるまでに何時間かかることやら。それこそレオンハルトの懸念が現実になっちまう」


 こめかみを抑えながら心配事を口にすると、さすがにガイアールも理解したのか「む! それはマズイな」と唸り声。


「しかたがない。相手がいるつもりになって、乱稽古の真似事で我慢するか……」


 若干意気消沈しながらも剣を持ち直すと、殺陣を付けるべく構えのポーズを取る。

 そして剣を素振りとばかりに一振りした途端、少し不貞腐れ気味だったガイアールの態度が「おっ?」と一変した。

 上段から軽く一振りしただけ。

 ある意味基本中の基本で、ガイアールとしてもウォーミングアップくらいのつもりだったのだろう。


「振りが、速い!」


 しかし、その振りは速く鋭く、一瞥しただけで今までと違うと判断できる。

 傍目からでも判るのだから、騎乗しているガイアールが一目瞭然なのは言うまでもない。


「なんてこった! こいつは素手で振るのと変わらんぞ!」


 機動甲冑はその構造上から四肢を動かすのは間接的、剣を扱うに際して〝摘まんだ箸で箸を使う〟ような珍芸となる。ゆえにレーアがロクに駆ることが出来ず、ガイアールら筆頭騎士も腕力はともかく剣技では翔太よりも一歩引いた位置にいたのだ。

 それがどうだろう。

 ガイアールが扱う剣は彼の思いのままに操られ、鋭く! 速く! そして重く剣筋が軌を描く。


「イッパツ、斬ってみるか?」


 気を良くしたガイアールがそう言うと、大きく構えを取って眼前にあった立木に斬りかかる。

 バキッ!

 まるで鉈で枝を切り落としたかのような気軽さで、直径1メートもあるような大木が刀1本で斬り落とされる。


「すげぇ……」


 と、そんなことを言ってられない。

 剣技は充分以上に見せつけられた。なら残るはトータル性能。


「おい、走れよ!」


 翔太はガイアールに運動性能を試させる。


「走り、曲り、止まりも生身と変わらん。いや巨体な分、生身以上の能力が有るぞ!」


「当然だ。この私自らが手掛けたのだから」


 その高性能ぶりを目の当たりにしたため、レオンハルトの尊大な豪語が欠片ほどの不快感も感じない。

 ガイアールは言うに及ばず、レーアもクリスも、そして翔太すら改良型ウィントレスの虜となった。


「こりゃ改良型ウィントレスというより『ウィントレス・改』とでも呼ぶべきだな」


 その瞬間、この躯体の名前が決まった。

 

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