噂の真相
クラスメイトが語った衝撃のニュース。
にわかには信じられないが、半年くらい前から日本国内での失踪者が急増しているだという。
「原因不明、理由も不明。しかも行方不明になった被害者のおよそ半分が、失踪から半月程度で死体で発見されるんだ」
まるでできそこないのホラー映画か、3流ゴシップ記事のような荒唐不稽で眉つばな内容。
「冗談も休み休みに言え」
窘めるつもりで苦言を呈すと「そのセリフ、そっくりそのままお返しする」と相手のほうが呆れ顔。
しかも。
「加納が世相を疎いというか無知なことが、オレにしたら逆にビックリだ」
逆にさんざんな返しまで貰う始末。
事実だとしても言いようにカチンとくるところだが、しかし「本題はそこじゃないんだ」と、そこに知り合いが混じっていたならば話が違う。
「実は……」
声のトーンを落とし表情を引き締めると、彼が衝撃の事実を口にしたのである。
「八重樫が失踪したんだ」
「はあ?」
曰く、3日前から自宅に帰っておらず、昨夜家族から捜索願が出されたのだという。
そんな筈は!
拳を固め反論しようとした刹那、とんでもないことに気付いて言い澱む。
数日前から翔太は八重樫と会っていない。
今ごろ気が付くか? というような呆れた事実だが、何せ学校内だろうが外であろうが喋っているのは専ら八重樫、翔太は相槌を打つか付き添っているだけで主体性など欠片もないのだ。
そこにもってきて現実世界では玲子との急接近、異世界ではきな臭い出来事と、思考のリソースが追いやられていたのだからどうしようもない。
今さらながらの薄情さに驚く翔太を、クラスメイトは大スクープに驚いたと思ったのだろう。翔太の顔を覗き込みながら「ビックリしただろう?」と得意満面に胸を張る。
「痴情のトラブルかねえ? それとも、宇宙人に攫われた?」
さらにはゴシップ大好きな東〇ポでも書かないような荒唐無稽な憶測を並び立てるが、言われる度になぜか苛立ち「そんな与太話を誰が信じる!」と睨みつける。
怒気を込めた視線に晒され、さすがに怖気づいたのだろう。
「そんなに睨むなよ。噂話なんだから」
噂だと予防線を張るが、憶測だけに余計に性質が悪いとは思わないのだろうか。
「根拠のない噂話をあまり吹聴するなよ」
面白おかしく騒ぎ立てるクラスメイトの口は黙らせたが、火のないところに煙は立たない訳で、どうにもモヤモヤ気にかかる。
ワンテンポ遅れて登校してきた玲子に、噂の真偽を確かめるつもりで「知っているか?」と、この件を訊いたら、何と首を縦に振ったのである!
「わたしも詳しいことは知らないけど……」
そう前置きが付いたが、3日ほど前から自宅に帰っておらず、何らかの事件や事故に巻き込まれたのではないか? という憶測から捜索願が出されたと概ね同じような内容。
「八重樫のヤツ、家に帰っていないのか?」
「それどころか、学校にも来ていないわよ」
そういえば用もないのにほとんど毎日毎日、翔太の席までやって来て下らないことを駄弁っていたのに、今週は未だ1度も八重樫の顔を見ていない。
今さらながらの気付きに「何よ、ソレ」と、玲子が心底呆れ顔。
「アンタたち、いちおうは〝友達〟なんでしょう?」
何故気付かぬ? と視線で訴えるが、翔太にしたらむしろ八重樫が〝友達〟なのかに疑問符が付くかも。
休み時間の度にやって来てはくだらない話に興じる、授業中でも昼休みでもつるむことが多く半ば腐れ縁のような関係。
それだけ切り取れば親友とまでは言わなくとも、仲の良い友人だと称することが出来よう。
「そうは言ってもなあ……」
確かに一緒にいることが多いが、それは学校内限定での話。
放課後や休日は各々別行動だし、そもそも翔太は八重樫の家はおろか連絡先だって知らない。グループチャットのメンバーには入っているから、連絡を取るのはもっぱらそのチャットルートからである。
この関係で友達と呼べるのか、翔太ならずとも首を捻る案件。ありのままを玲子に説明すると、案の定「呆れた」と冷たく言い放たれた。
「それって単に上辺の付き合いをしているだけじゃないの? 社交辞令に終始して、上辺でおべんちゃらを言い合うのと、何ら変わりがないじゃない」
「違いない」
実際そんな付き合いなだけに、歯に衣着せぬ物言いに反論の余地がないと苦笑いするしかない。
もっとも玲香に翔太の交友関係はさほど興味がないようで、それ以上に踏み込むことなく「まあ、いいわ」の一言で片付けてしまう。
「とにかく、3日前に「ちょっと、そこまで」と言って家を出たきり、ずっと帰ってきていないそうよ」
表情ひとつ変えることなくポケットからスマホを取り出すと、送られてきた八重樫に関する報告をつらつらと読み上げる。
「アイツ、いったい何をしているんだ!」
「わたしに言われても、そこまでは知らないわよ!」
呆れ半分に理由を訊き直そうとする翔太を玲香がバッサリと一蹴。調べていないから動向なんか分からないと突き放す。
「これ以上のことを調べようと思ったら〝専門以上〟の処へ頼み込まないといけないわ。生憎とわたしは彼にそこまで〝投資〟をする価値を見出せないの」
言外に〝興味がない〟からこれ以上の情報収集はしないと斬って捨てる。
文武両道で家柄も良く、さらには性格までも良いイケメンではあるが、いささか軽薄に映るところが彼女のおメガネには叶わなかったのだろう。口調が紋切り型で、調べた内容も事実関係だけのようである。、それだけにそれでも短時間でこれだけの情報を集めたのだから、大したものだ。
「だから昨夜ご両親から捜索願が出されたのも事実よ。ここまで調べたわたしに感謝しなさいね」
フン。と鼻を鳴らして横を向く。何でそこでツンデレのお約束をするのか不明だが、知りたい情報が得られたことに「ありがとう」と礼を述べる。
「そんな事よりも、アンタが社会情勢にここまで疎かったことに衝撃だわ。あんなモブ男に追随して言うのも癪なんだけど、ここ最近になって失踪者が大幅に増えているのも、巷では話題になりつつあるわよ」
「それも事実なのか?」
「ホントに剣術バカ? 少しは社会情勢にも関心を持ちなさいよ!」
なぜかイラつく玲香に「いや、だって。試験に出るモノでもないし、調べたところで時間のロスだろう」と答えたら、まるで逆鱗に触れたかのようにさらに表情が険しくなる。
眉間の皺が1本から2本3本と増えていき、端正な顔立ちが般若のようになったかと思うと、首を横に振りながら「呆れた」と氷のように冷たいセリフを吐く。
「剣術バカなんて生ぬるいわ。正真正銘のおバカよね!」
「世事に疎いだけでそこまで言うか?」
「言うに決まっているでしょう! 試験に出てこないから気にしない? ホントにバカなの? 社会に出れば挨拶のついでに話すような事柄よ、何も知らなければそれこそ一般常識やら教養が疑われるわ!」
一気に捲くし立てると「反省して勉強しなさい」と捨て台詞を吐いて回れ右をしてしまう。
「わたしを失望させないでね」
つかつかと歩きながらそんなセリフを放つが、翔太は意味が分からずただ首を捻るだけだった。
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