表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/120

忍び寄る違和感

 命を賭しての獅子奮迅なオルティガイアの活躍により、レーアたちの脱出隊は目立つことなく、無事に王城の敷地外へと退避することができた。

 秘密の地下道を抜けて人通りの少ない脇街道を走ること小一時間。城のシルエットが見えなくなったところで、ガイアールが街道から少し外れたところで馬車を止めた。


「まだ城から幾らも離れてないぞ」


 追手に捕まったら、どうするんだ? と懸念する翔太を制するように、ガイアールが「ムリを通すと馬が潰れる」と諫める。


「俺たちも気が張り詰めすぎている。こんな状態で行軍を続けたら、取り返しのつかないことをしでかすかも知れん」


 皆まで言わず「だから小休止だ」とばかりに馬車から馬を解き放つと、水を与えるべく近くを流れる小川の畔に連れていく。


「納得いかねー」


 十分な説明もせず次々と決めていくガイアールに翔太は不満たらたら。しかし同行するレオンハルトは「相分かった」と反論もなしに首を縦に振る。


「経験豊富な者が「休め」と言うのだ。懐疑するよりも従ったほうが良かろう」


 割り切りが良いのか、あっさりと従うと、馬車から降りると固まっていた節々を伸ばす。


「そんなことより、姫さまも目覚めたぞ」


 薬が抜けたのだろう。

 レーアがむくりと起き上がると、環境の急変に目をパチクリさせながら「これは、どういうこと?」と説明を求めてきた。


「それは……」


 どこから話すべきか? 

 考えがまとまらない翔太に痺れを切らしたのか、ガイアールが「俺から話そう」と割って入ると、脱出の子細の一部始終をレーアに簡潔に過不足なく説明する。


「それで、お城はどうなったの?」


「王城の喧騒から察するに、既に城は……堕ちたものかと」


 既に覚悟はできていたのだろうか。

 言外に国王であり実父でもあるパーセルが討たれたと言っているにもかかわらず、レーアが表情を変えることなく「そう」と短く返事をする。


「お父さまに命じられたときから……覚悟はできていたわ」


 気丈に振舞っているのか、虚勢を張っているのか? 気の利く言葉も言えない翔太は、ただ一言「そうか」とだけ答える。

 それに今は、悲しんでいるよりもっと大事なことがある。


「当面の目的地はレオンハルトの屋敷のままで良いのか?」


 持ち合わせる機動甲冑が僅か2騎では戦力として如何ともしがたく、新たな躯体を受領する必要からレオンハルトの屋敷に向かっているのだが、オウの国の侵攻軍が進路の予測をしている可能性もある。

 当然考える翔太の懸念にガイアールが「どうだろう?」と首を少し傾げる。


「脱出に際して我らを見た敵兵は僅か。姫さまの骸がない以上いずれ脱出したことは露見するだろうが、すぐに判明するかと言えばその恐れも低かろう」


「ガイアールは私たちに追手がいないと?」


 会話を聞いていたレーアの問いに「今は、ですな」と注釈を付ける。


「大軍勢ゆえの難点ではあるが、末端が得た情報が上がってくるまでに些か時間がかかる。夜陰に紛れて移動すれば、2日3日くらいは追っ手もかからぬかと」


「デカすぎて、この車は目立つからな」


 脱出用に使った馬車は機動甲冑の搭載を前提とした大型なもの。さすがに現実世界のタンク・トランスポーターのような超大型トレーラーほどではないが、それでも4トントラックくらいの広さがあり、他の馬車とはサイズ・規模共に一線を画す。


「まあ。そんな訳で、日が暮れるまではこの場で身を隠しておいたほうが良かろう。夜通し走ることになるから、今のうちに体を休めておくんだな」


 言うや、ガイアールが床にごろんと横たわる。筆頭騎士とはいえ戦闘員、オンとオフの切り替えが骨の髄までしみ込んでいるのだ。


「薬で眠っていたのと自ら寝るのは別の意味、姫さまも早く休まれよ」


 レーアを気遣いつつ、ガイアールが剣を枕に眠りに就く。つはいえ殺気だけはしっかりと漂うので、危機管理のセンサーは入れたままのよう。

 筆頭騎士の惣領たる気概を目の当たりにしながら、翔太もまたこの世界での意識を手放したのであった。







 そして現実世界に戻っての、次の日の朝。


「聞いたか? 加納」


 通学途中にクラスメイトに突然声を掛けられたかと思うと「数日前から八重樫が失踪しているんだと」と、俄かには信じられないショッキングなニュースを吹き込まれたのだった。


「八重樫が失踪? どうして!」


「それは分からないけど、3日くらい前から行方知らずらしいぞ。昨夜、家族から捜索願が出されたって話だ」


「あり得ないだろう! デタラメなことを言うなよ!」


 想像外のニュースを否定すべく、思わず叫んでいた。

 そもそも動機もなければ理由もない。

 文武両道、容姿端麗。加えて家もそこそこ裕福で、家族との仲も比較的良好。彼女こそいないが、その気になれば直ぐできるのでマイナスポイントにすらならない。

 基本スペックが高い上に性格も良好。言うところの〝完璧超人〟で抱え込むようなトラブルなど凡そ見つからない。


「待て、マテ! 襟を掴むな! 苦しい!」


「あっ。悪い」


 無意識に掴んでいた手を放すと「詳しく教えてくれ」と、酸素を欲して咳き込んでいるクラスメイトに謝りながら頼み込む。


「いきなり胸ぐらを摑むか……物騒なヤツだな」


 胸をさすって恨みがましい愚痴を口にしながらも、とっておきのニュースを喋りたかったのか、件のクラスメイトが「オレも信じられないんだけどな」と前置きをしながら口を開いた。


「いや、まあ。ぶっちゃけると、ここ最近多発している失踪事件と同じなんだけどな。家庭や学校と職場にコレといった問題も抱えていないのに……ある日突然、ホントに忽然と消息を絶つ人が後を絶たないんだと」


「失踪事件て、そんなにあったのか?」


 初めて聞く大事件に驚いていると「オマエ、新聞なりテレビのニュースを見ているか?」と問い質されて少し考える。


「……ほとんど、観てないな」


 翔太の住環境は建前的には玲子とのルームシェアだが、その実は御三どんのみを強要された居候みたいなものだ。特に禁止されたわけではないが宅内のテレビを観ることもなく、新聞も読まなけりゃネットもロクにチェックしなかったので社会情勢に疎くなっていた。


「それはさすがに、どうかと思うぞ」


 呆れながらも説明してくれたところによれば、半年くらい前から日本国内での失踪者の数がいきなり一桁増えてしまったのだそうだ。


「原因不明、理由も不明。しかも行方不明になった被害者のおよそ半分が、失踪から半月程度で死体で発見されるんだ」


「物騒な話だな」


「だろう。どう考えたって〝怪事件〟なんだよ」


 1件2件ならともかく立て続けに発生しているとなると、素人の考えでも尋常ならざる何かがあるのだと思う。

 だが、しかし翔太は思う。


「それに八重樫が巻き込まれたっていう証拠はあるのか?」


 家族から捜索願等が出されていれば間違いないだろうが、腐れ縁たる翔太にその手の連絡は一切ない。問いただしてみると案の定歯切れが悪く「それは……聞いて無い」との返事。


「だったら軽々しく吹聴しないほうが良いぞ。単に病気とか、のっぴきならない何かがあって、学校を休んでいるだけかも知れない」


 そう言って少し睨みつけると「お、おう。そ、そうだな」とクラスメイトのトーンは明らかに弱腰。


「学校に来なくなって、まだ5日だからな。確かに加納の言う通り病気とかも知れないな」


 気まずい雰囲気を払しょくしようとしてか、妙に明るい口調で翔太の憶測を復唱する。当の翔太は「何があったんだ?」と疑問で頭がいっぱいだったが、それはもう言わぬが花。

 とりあえずお喋り好きなクラスメイトが去ってからワンテンポ遅れて登校してきた玲子に「知っているか?」と訊いてみる。

 すると「詳しいことは不明だけど」の前置きが付くが、玲子の耳に届いていたようだ。



読んでいただきありがとうございます。


『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。

また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。

本作を評価していただけるととても励みになりますので、何卒ご愛顧のほどお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ