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オルティガイア討たれる

 物陰から唐突に現れた1騎の機動甲冑。

 次々と新しい機体が生み出される中、既に〝旧式〟と呼ばれつつある最初機のドロールは、オウの国からみれば枯れ木に何とやらのような存在。たかが1騎程度がのこのこ現れただけでは、捨て置きは論外としても積極的に戦力を投じるものではない。

 機動甲冑の戦力は絶大である、しかし最新型と最初期型の間には歴然たる性能差があるのもまた事実。強大な国力をバックに最新鋭機を多数揃えたオウの国にからしてみたら、無視はできないにせよ脅威となる存在ではなく、必要以上に注意を払うようなものではない。


 しかし!


「おい、アレを見ろ!」


 兵士のひとりが、その問題のドロールを指差した。

 手入れこそ行き届いているが旧式で古臭い躯体。いかにも田舎の小国にありそうな〝虎の子〟の決戦兵器だ。


「何だ、討ち漏らしか?」


 隣にいた兵士が指し示す方向に目を遣りながら、仕留め損ないかと尋ねる。

 壕攻略の橋頭保を確保したことにより、多数の兵が城内になだれ込みつつある現在、オウの国の侵攻軍の戦いは攻略戦から掃討戦に移行しつつあるのだ。そうなると自ずと討ち漏らした兵や機動甲冑も出てくるというもの。

 僚機とつるまずに単騎でウロウロしているのなら、まさに討ち漏らしか攻撃から逃げおおせた機体で間違いなかろう。


「討ち漏らしだったら潰すぞ。後方から応援の機動甲冑を回してもらって仕留めさせろ」


 脅威ではないが看破はできない。そんな口調で返答した兵士に、件の兵士が「そうじゃない。ヤツの腕を良く見ろ」と注視を促す。


「あの機動甲冑。腕に何か抱えていないか?」


「どれどれ?」


 言われてよくよく覗いてみると、レース生地の高級な布……いや、アレはドレスだ!


「女、女だ。ヤツは女を抱えているぞ!」


 その一言で周囲の兵士たちの顔色が変わった。

 小国とはいえ城は城である。侍女なりメイドなり、戦の最中とはいえ城内に女がいることは何らおかしくない。ドレスを身に纏った格好で、機動甲冑に抱かれているともなれば話が違う。

 それも、だ。


「よく見たら裾に宝石が縫い込まれてるぞ! アレって1着で」


 ひとりの兵が口走ったその一言に、周囲にいる兵たちが浮足立つ。

 戦の趨勢は明らかにオウの国に傾いている、もはや辿り着く結末には時間の問題だけで、間違いなくこの城は堕ちるであろう。

 そんな状況で機動甲冑に抱かれて護られるドレス姿の女となると、得られる答えは自ずと絞られてくる。


「高級なドレスを纏う……もしや、抱かれているのはレーア王女では?」


 陥落も秒読みとなった現状、王族が僅かな家臣を引き連れて城を脱出するのは当然考えられるシナリオ。機動甲冑に護られたドレスの女ならば、そうである可能性は極めて高い。


「そうだ。そうに違いない!」


 周囲の兵たちにどんどんと期待値が高まっていく。

 もしも無傷で捉えることが出来たなら大金星は間違いなし。

 達成のあかつきには、ただの一兵卒から兵長……いやいや中隊長や大隊長への栄達だって夢物語ではなくなる。いや栄達や出世もさることながら、褒美や恩賞といった実利も十分以上に期待できる。一攫千金のにんじんが目の前にぶら下げられたのだ。


「逃がすな! 絶対に生け捕りにしろ!」


「矢を放つな! 間違って射抜くことになりかねん!」


「槍隊を呼べ! 起動甲冑の動きを封じて、王女を引き離すんだ」


 矢継ぎ早に指示が飛び交い、たった1騎の機動甲冑のために包囲網が形成される。迂闊な場所に飛び出したがために、かの機動甲冑は袋のネズミとなりつつあったのだ。






一方。


「ふっ、オメデタイほど単純な奴らだ。こんな布切れ1枚を腕に抱えるだけで、コロッと騙されるのだからな」


 包囲が狭まるのを体に感じながら、オルティガイアは己が思惑が上手く行ったことにほくそ笑んでいた。

 ドレスは確かにレーアが纏う〝本物〟ではあるが、中身は一緒に持ってきたクッションを適当に放り込んだだけの木偶人形以下の代物。それを恭しく抱いてそれらしく見せているだけなのだが、機動甲冑が抱くというバイアスがかかっただけで、オウの国の兵士たちがコロッと騙されてしまっているのだ。

 この様子なら追跡に当たった兵たちも、大多数がオルティガイアの駆るドロールに注目してくれるだろう。

 おかげでレーアたちが城から脱出するに際して、敵兵の目に付く可能性を大幅に減ずることが出来たはず。子供だましの作戦がまんまと巧くいき、囮役としては面目躍如でしてやったりだ。


「後はどう有終の美を飾るかだけだな。どうせなら華々しく派手に散ってやろうじゃないか」


 どう転んでも負け戦。

 生き延びる手段ならば無いこともないが、勝手に攻め込んできたオウの国の連中に尻尾を振るのは己が矜持に反するし、そこ迄して仕えるべき相手だとも思えない。

 敵兵がゾロゾロと集結してくるのを確認しながら、オルティガイアは不精を拗らして黄色く歯垢だらけの歯を見せてニヤリと笑う。


「さあ、オウの国のバカども。ホイホイと騙されて、このオレ様の許について来い!」


 これが最後の戦いだと己に喝を入れると、より多くの敵兵を御身に引き連れさせるべく、オルティガイアは付かず離れずの絶妙な速さでの逃亡劇を始めたのであった。


「先ずは1殺」


 出会いがしらの挨拶だとばかりに、ドロールの進路上にいた兵を剣で屠る。

 機動甲冑の放つ腕力は凄まじく、一太刀振り回すだけで雑兵の胴体が造作もなく真っ二つに引き裂かれ、瞬きするほどの間に5人もの兵士が仕留められる。

 続けざま、馬に乗った指揮官らしき兵士を「邪魔だ!」と斬りつける。それなりの身分か金属鎧を着込んでいるが知ったこっちゃない。


「ウオォォッ!」


 ひと息大きく吠えると、跳躍しながら馬上の騎士の首を刎ね飛ばす。

 頭が空高く飛び上がると、コルクを抜いたシャンパンのように血が勢いよく吹き出し、鎧騎士の身体が真後ろにひっくり返る。

 主を失い逃げようとした馬が血だまりに足を滑らし横転すると、狂ったように喚き散らしたのち、泡を吹いて意識が絶える。

 その凄惨な光景にオウの国の兵が怖気づく中、オルティガイアはさらに歩を進める。


「次はどいつだ!」


 戦果を確認することもなく、オルティガイアは次の獲物を物色する。既に死を覚悟した身となれば功などどうでもよく、いかに多くの道連れを従えるかだけが問題なのだ。

 一方、オウの国側からすればオルティガイアの駆るドロールは、是が非でも生け捕りにするべき対象。その手に王女らしき女を抱えているのだから、足を停めて無力化させることこそ大事。


「弓兵隊はきゃつの脚を狙え。足元にどんどん放って動きを止めろ」


 接近戦は不利とばかりに、弓でドロールの足を止める作戦に出たのだ。


「ガハハ。弓などいくら放ってもムダ、ムダ!」


 弓の一斉掃射でも機動甲冑はビクともしない。剣や足で降り注ぐ矢を軽く往なしながら、オルティガイアは機動甲冑の歩を進める。


 ところが!


 ドレスの女を生け捕りにすべく足元を集中攻撃していた矢が、撃ち損じでドロールが抱くドレスに命中。


「あっ」


 焦って引っ張ったのが裏目に出て、手にしたドレスが囮の木偶人形だとバレてしまった。


「あちゃー」


 やっちまったと肩を竦めるオルティガイアに、オウの国側は手加減する理由が無くなり、騙された分だけ怒り心頭。


「クロスボウを出せ! 串刺しにするんだ!」


 弓兵を下がらせ、代わりに大型のクロスボウを携えた兵が一直線に並ぶと、指揮官の命のもと一斉に矢が放たれる。

 クロスボウから撃ちだされた矢は弓とは比較にならない高速で、オルティガイアのドロールに吸い込まれるように刺さっていく。

 まるで剣山のようになったドロールは、剣を振り上げたまま中にいるオルティガイア共々息絶えたのであった。


読んでいただきありがとうございます。


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