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脱出の先

 石造りの地下通路というかトンネルを、トラックのような大型馬車がゆっくりと通過していく。

 幅が5メートル、高さが3メートルもある半円の通路は、現代日本のトンネルと比較しても遜色がない立派なもの。違いがあるとすれば、舗装が石畳で照明が少ないことくらいだろうか。


「思った以上にデカいな」


 日本の道路トンネルと比すれば半分程度の大きさでしかないが、土木技術が未熟なこの世界の地下トンネルとしては破格の規模。それが延々数百メートも続いているのだから、どれだけのモノか容易に想像もつこう。


「元々はワインの貯蔵用に造られたとのことなんですが、実際に貯蔵で使われるととは無く、お館さまをはじめとする王族の緊急路として残された道です」


 そんな典弘の疑問に、クリスが地下通路の成り立ちを説明する。いささか矛盾しているが、これ見よがしに作ることで国の運営にヘタを打たないようにと、自らへの戒めとしていたのだという。


「まさか本当に使う羽目になるとは思いませんでしたが」


「だろうな」


「ま。予想外なんてモノは、どこにでもあるさ」


 悟ったように肩を竦めるガイアールの仕草が、ある意味真実であるのだろう。

 規模がデカいということは、裏返せば秘匿し難いことにもつながる。本当に〝脱出路〟として考えていたのならば、もっと小規模な秘密の通路として扱っているはず。ゆえにこの設備は〝王族の覚悟〟のために存在するのであって、実際に使うとは考えていなかったのだ。

 その事は一旦ペンディングすることにして「それよりも」と、翔太は差し迫った問題点を取り上げる。


「城を出た後はどうするんだ?」


 早いか遅いかだけで、ナの国の敗北は確定したようなモノ。敗残兵と化す先の展開をどうするのか? とガイアールに訊くと「先ずはレオンハルト殿の館に向かう」と以外にも明確なビジョンを持っていた。


「どう抗っても負け戦が確定だとはいえ、城の騎士全員が討ち死にするとは考え難い。暫しの間レオンハルト殿の館で息を潜めてきゃつ等をやり過ごしながら、この戦を生き延びた騎士たちと合流する」


 そのうえで機動甲冑で少数精鋭の反抗部隊を編成して、ナの国開放のためにオウの国の支城を攻め込むのだという。


「そう上手くいくのかな?」


 ガイアールの案に翔太は首を捻る。

 防衛拠点でもない客分の館に逃げ込むのはアイデアだが、反攻作戦の件はご都合主義というか玉虫色過ぎやしないだろうか?


「レオンハルトさんの館に逃げ込むのは相手の盲点を突いていると思うけど、そこから先があまりにも都合良すぎだろう。生き残りはいるだろうから頭数は揃うかもだけど、反攻部隊で使うような機動甲冑なんて一体どこにあるって?」


 城から持ち出せた機動甲冑は、翔太のウィントレスを含めてたったの3騎。強大なオウの国相手に反攻作戦を企てるには、あまりにも心許ない。

 といって新たに購入するには機動甲冑は高価すぎる。敗残の兵と化した今現在の状況を鑑みるに、そんな余裕があるとは到底思えない。

 そんな翔太の不安を払しょくしたのは当のガイアールではなく、逃亡に際しての隠れ家を提供したレオンハルトであった。


「機動甲冑の数なら心配するな。パーセル殿から依頼を受けて拵えた新型の機動甲冑を数騎、我が館の地下に秘匿してある」


 レオンハルトが自信満々に答えるが、ちょっと待て。


「御用商人に依頼して、専門の工房に製作させていたのと違うのか?」


 パーセルの話だと、出入りの商人を通じて十数騎の機動甲冑を買いつけると言っていたはず。だがレオンハルトは「そんな数モノの2流品のことなど知らぬ」と、量産品とは全く別物だと強調。


「今現在私が作りうる、最高傑作の機動甲冑だ。その辺のザコと一緒にしてもらっては困る」


「だ、そうだ。それなら数の劣勢もさほど弱点にはなるまい」


 ガイアールが再び話をまとめると「新しい機動甲冑とこの馬車の機動力があれば、支城攻めならば攻略不可能なこともなかろう」と勝算ありと仄めかす。


 レーアの旗印の下ゲリラ作戦的に支城を叩いてオウの国にプレッシャーをかけ続ければ、ナの国からの軍の撤退も交渉があるやも知れぬ。


「オレたちにちょっかいをかけると痛い目を見るぞ。と、オウの国に警告を発するんだ」


「察しが良くて助かる。ま、そういうこった」


 義務だ任務だとばかりに力説することなく、馬の手綱を握りながら世間話でもするような感じで淡々と次の一手を語る。ヘンに力が入っていないからこそ、翔太にも次の作戦展開が翔太にも理解できる。

 実現可能といっても確率が「海のモノとも」から「可能性はある」に増えた程度。絶対的な不利を払しょくするには程遠うかろう。

 だからこそ……


「そのための旗印に、レーアが生き延びることが必須。だと?」


 何気に呟いた言葉にガイアールが「そうだ」と乗っかる。


「敗残の騎士が新たに主の許に就くなど至難の業だからな。我らの行く末のためにも、何が何でも姫さまに本懐を遂げて頂かねばならぬ」


 そのうえで臆面もなく本音をぶち込むと、ひときわ大きな声で「だから、な」と言って翔太を見据える。


「目が覚めた姫さまを、ショウタ! 貴公が説得するのだ」


 そのうえでキッチリ厄介ごとを押し付ける。


「うわっ、面倒くせー」


 当然のように呻く翔太に「仕方なかろう。姫さまの気質なら、逃げることを良しとせぬからな」とガイアールが困ったように断言。

 さらにはクリスまでもが「左様でございます」とガイアールの発言に同意。


「ご自身でに心酔して、間違いなく「わたしも城と運命を共にする」と仰るでしょうね」


 困った主だとばかりにクリスが首を振ってため息をつくと、何故か皆が一様に納得。全員が全員そろって首を縦に振る。


「まったく同じことを、国王からも言われたよ」


 パーセルにも同じことを言われたと翔太が発言すると、後方から不機嫌極まりない声で「アンタたち、たいがい失礼ね!」の反論が。

 慌てて振り返ると薬が抜けたのか、一連の話を聴いていレーアが、失礼な物言いをしたクリスを睨みつけながら上半身を起こしていた。

 

「わたしだって空気くらい見るわ。心情はどうであれ、状況を見ずに感情で口走ったりしないわよ」


 失礼な物言いをしたクリスの口を摘まみながらのソレは、言外に「バカにするな」のニュアンスが見え隠れしている。

 2次被害を避けたい翔太は口中乾いた中「そうだね」を連発するが、傍耳を立てていたレーアから「アンタも同罪よ!」としっかり断罪。

 おかげでレーアのご機嫌斜めを宥めるため、必死になって弁明とヨイショをする羽目に。

 それが功を奏してか、口調から徐々に棘が抜け落ちて、数分後にはふつうの口調で話ができるようになっていた。


「ガイアールの言う通り、先ずはこの窮地を生き延びて、戦いができる態勢を整えるのが先決。そのためにもレオンハルトの館で、新型の機動甲冑を受領するわよ」


 ガイアールがした発言の反復ではあるが、これからの方針を指し示す。

 ありきたりといえばありきたりだが、現状を考えれば尤も堅実な選択で間違いがない。誰もが是々非々するだろう選択であるが「オレは抜けるぞ」と異を唱える御仁がひとり。


「えっ?」


 唐突な発言に皆が驚く中。

 レーア脱出のために付けられた、筆頭騎士のオルティガイアが「付き合うのはムリ」とでも言いたげに、不満たらたらと立ち上がったのであった。




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