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脱出

 オウの国の攻略軍が城攻めを開始した直後。

 翔太は国王パーセルから「内密にするよう」との厳命の下、直に部屋に呼ばれた。


「何ですか? 改まって」


 レーナ専属の騎士である翔太は、ナの国において〝客分〟という扱いで、パーセル直参の臣下ではない。ゆえに命令を訊く必要は無いのだが、世話になっている手前もあって頼まれごとには耳を傾ける。


「伏して貴公に頼みたいことがある。レーアを連れて、この城から脱出してもらいたい」


 いったい何を言っている? 

 予想だにせぬ頼みごとに翔太の頭が処理しきれないでいると「この城が堕ちる前にレーアを脱出させる。娘の護衛に就いてほしい」と頭を下げられたのであった。


「戦は始まったばかり。勝敗なんてまだ何も分からないような状況で、早々と脱出の画策だなんて……意味が良く分からないのですが?」


 数のうえでは確かに劣勢だが、籠城戦は基本的に守る城側が有利。しかも地形的に難攻不落の城なうえに、隣国に援軍の要請も行っている。戦いの趨勢が決まったのならばともかく、今は未だ緒戦についたばかり。脱出を決めるには些かどころか完全に早すぎるだろう。

 しかしパーセルの考えは違っていたようで「今の内だからこそ、脱出も叶うというもの」と、今この時をおいて無いというような口ぶり。

 それもそのはず。


「何せ負け戦が確定だからな」


 既に勝利を諦めているのだった。

 総大将の敗北予測に納得できるのか? 例え客分の身分でも答えは否。そんな弱気でどうする?


「戦は始まったばかりなのに、早々に負けが決まっているだなんて考え、国の元首としてどうなんですか!」


「さすがに家臣のいる場で口になどせんよ。しかし凡庸な王とて、ここから先の展開は分かるというもの。いかに騎士や兵たちが奮闘しても、この先の命運は既に決しておるよ」


 淡々と語るパーセルに苛立ち翔太は「戦い始めたばかりで何を言う!」と反論するが「気合では何ともならぬ。若いな」のひと言で瞬殺。


「若いだけで無鉄砲みたいに決めつけるな!」


 レッテルを貼り付けるようなパーセルに激昂すると、若造を諭すように「機動甲冑の存在の有無だ」と静かにひと言。


「きゃつ等が数にモノを言わせた力押しをしてくるだけなら、この堅牢な城はそう易々とは堕ちはしない。しかし相手が機動甲冑を大量投入したとなれば話は別だ」


「それは万が一にも城壁を突破されたらでしょう。機動甲冑は対人戦闘なら強力無比だけど、要塞を破壊するような兵器じゃない。いくら頑張っても、この分厚い城壁を破るだけの力はありませんよ」


 城をぐるりと取り囲む城壁は、高いところだと壕の水面から20メートル以上、壁の厚さも5メートルを優に超える。つまり高さにしてビル5階分、幅において大型乗用車の全長並みのサイズを有しているのだ。現代社会の迫撃砲やミサイルを撃ち込むのならともかく、機動甲冑の持つ槍程度なら全力で斬撃してもビクともしないだろう。

 ところが「ほかならぬショウタがその常識を覆したであろう」とパーセルが翔太の見解を全否定。


「ヒトよりも大きく強いとはいえショウタの言うように、機動甲冑が槍や大槌を振り回したところで、この堅牢な城壁はビクともせぬだろう」


 パーセルも同じ見立てであり、言ったセリフに翔太は「もちろん」と頷く。


「駆る人間の技量じゃなくて、機動甲冑の持つ性能というか用途の所以だから。どんな達人が操ったとところで、得られる結果は同じででしょう」


 言葉は乱暴だが、オペレーターの問題ではなく用途が不向きだと断言。

 同じ個所を延々と突けばいつかは崩れるだろうが、その前に壁の上から石でも落とせば排除は可能。籠城する城をこじ開けるのに機動甲冑は不向きだと力説する。

 パーセルも納得してか「槍や槌を持ち出してくるだけなら、些かも怖くなどない」と同意する。


「だったら……」


「しかし、そのあり余る力で壕を埋めにかかったらどうなる?」


 意外過ぎる戦場での機動甲冑の使いかたに、虚を突かれた翔太は「えっ?」とフリーズすると、パーセルが「ショウタが驚いてどうする」と呆れ顔。


「ネトの河が氾濫したときに、途方に暮れる我らに〝機動甲冑で堤を直せ〟と提案したのは他ならぬお主であろう」


「いやアレは〝災害復旧〟で、戦場での運用とは違うから」


 用途が違う。と言いかけたところを「何が違う? 同じであろう」とパーセルが全否定。


「ここでムダな言い争いなどせぬが、多数の機動甲冑を繰り出して力づくで壕を埋めたり、仮橋でも駆けられたら我らに止める手立てなどない。そうして突破口が開かれ敵兵に城壁を超えられたらどうなる?」


 用途を指摘されて翔太の言葉が詰まる。

 機動甲冑を重機として使い壕を埋めて仮橋を造る。自衛隊の装備運用に沿って言ったのだから、同じようなことを考える者がオウの国にいたところで不思議でもない。

 その結果、オウの国の大軍勢が城壁を超えて、なだれ込んできたらどうなるか?

 もしそうなれば、もう後は無い。数の暴力に押されて間違いなく城は陥落するだろう。


「そうなる前に何としてもレーアは城から脱出させねばならない」


 間もなく確実に起こるだろう未来を見据えて、既に死を意識しているのだろう。感情に乗せることなく、パーセルが淡々と語る。


「その後のアテは?」


 だから翔太は訊く。

 ただ脱出させるのではなく、レーアに何か託すのだろうと。


「それに関してはガイアール伝えてある。レーアのことだ、ヘタに今伝えると「自分も残る!」などとと駄々をこねるからな」


「よくご存じで」


 苦笑する翔太に「儂の娘だからな」とパーセルも同じく苦笑する。


「そんな訳でクリスに命じて薬で眠らせてある。あとで真相を知ったら暴れるだろうが、そこはショウタが上手に宥めてくれ」


「厄介な役を丸投げして」


 愚痴る翔太にパーセルが「下賜するしてやるのだから文句を言うな」と殆ど聞き取れないような早口で答える。その上で前言を隠すように「脱出にはレオンハルト殿も同道させよ」と付け加える。


「先ずはヤツの館に行って、新しい機動甲冑を手中にするが良い」


 言うだけ言うとパーセルが席を立ち、今生の別れとばかりに「さらばだ」と短くひと言。右手に愛刀を携えると、堂々とした足取りで大広間へと向かう。

 入れ替わるようにクリスが入室し「お仕度はできています」と短く一礼。


「こちらへ」


 灯りとなる燭台を持って地下へと案内する。

 直後聞こえた、伝令よりの城壁突破の凶報。パーセルの予想が現実となった瞬間であった。

 想像よりも遥かに早い時間に城壁が崩される。

 オウの国側の侵攻速度の早さに翔太が驚いていると察したのだろう、頭だけ後ろを振り返るとクリスが「大丈夫ですよ」と務めて明るく答える。


「秘密の通路は城から遠く離れたところまで繋がっています。入口を壊していきますので、そう簡単に見つかることはありません」


 言うと壁に据え付けられた突起物をクリスが引っこ抜く。一拍遅れて通路の天井が土煙とともに崩落し、入口が瓦礫と化した。


「すげー」


 驚きに口あんぐりの翔太を促すように、クリスが「急いで」と短く囁くと、モタモタするなとばかりに手を引っ張る。

 トンネル状のいかにも秘密な通路の急な階段を下りた先は、まるで地下の格納庫というか駐車場。そこにはトラックのような大型馬車が2台、荷台に機動甲冑を載せて待機していた。


「時間がない。直ぐに脱出するぞ」


 既に準備万端整えていたのだろう。ガイアールが御車席から顔をすとし出発を促す。

 翔太にも異論はなく、二つ返事で了承。もう1台の馬車に乗り込むと「いくぞ……」と小さく号令。

 馬車は城の地下通路を走り出した。



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