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開戦 その2


 戦いの形式通りに口上を述べた使者がオウの国の陣に戻り、鬨の声を合図として戦いの火ぶたが切られた正にその時。


「ショウタよ。頼みがある」


 翔太は国王パーセルから「内密にするよう」との厳命の下、直に部屋に呼ばれた。





 時を同じくして。


「城門をこじ開ける。徹底的に矢を射かけよ!」


 司令官の命令の下。

 攻略側であるオウの国の軍勢が、突破口を作るべく正門の守備隊に向けて一斉に矢を放った。

 

「この堅牢な城門は易々とは堕ちぬ。無法者たちを蹴散らすのだ!」


 対抗するように防衛側となるナの国の守備兵たちもまた、城壁に設けられた矢狭間から次々に矢を放つ。

 王城の攻防戦は序盤において壕を挟んでの弓戦の様相をみせており、双方の陣から撃ち出される矢がまるで雨のように降り注いでいた。

 一見すると五分の戦いで、大軍勢のオウの国に対してナの国の兵たちが十分以上に渡り合えているように見える。

 しかし実態は攻撃三倍の法則に則ってか、意外にもオウの国側の被害だけが拡大していたのであった。

 そもそもナの国の城は小高い丘陵地に建てられており、取り囲む城壁を加えると高低差は10メートルをゆうに超える。さらには城と外を隔てる広く深い堀が張り巡らされ、両者の間には実に50メートル近い距離があった。

 それだけ距離があると例え威力のあるバリスタを用いようとも、相手側に届く頃には矢に力はなく、射かけるというよりほぼ自由落下に近い。

 そうなると城壁という盾を持つ守備側が圧倒的に有利で、十数名の死傷者をだすオウの国の弓兵らに対して、ナの国の守備兵には負傷者らしい負傷者がいない。


「数が多いだけで恐れるに足らん! オウの国の侵略軍など、このまま弓で蹴散らせてしまえ!」


 正門の守りを担う筆頭騎士のマニッシュが、鼻息も荒く緒戦の勝利と少人数での戦果を高らか謳う。

 高さという地の利を得て、王城はまさに難攻不落の城と化していた。

 



「やはり城を相手に弓戦では分が悪いか」


 オウの国の司令官も緒戦の劣勢は認知しているようで、捗々しくない自軍の成果に苦々しく臍を噛む。


「あの壕を超えて敵陣に矢を届かすとなると、並の弓では力が及ばんでしょう。投石器か大型のバリスタをズラリと並べないと」


 現実を見据えた副官の進言を司令官が「ムリに決まっているだろう」と一蹴。


「そんな大型の兵器など相手にとったら格好の的、据え付けた時点で狙い撃ちにされてしまうわ」


 非現実的だと却下。

 もっとも進言した副官も分かっていたようで「ですよねー」と気にしたところはまったくなし。


「所詮は陽動なんだから、当たれば儲けもの。連中の注意が門に向いてくれれば、こちらの策は成功したも同然ですからね」


「兵には頑張ってもらいたいが、無用な損耗は本意ではない。連中に気取られる程度に、せいぜい力を注いでおくように」


 まるで本命はそこではないと言いたげに司令官が鷹揚に答える。


「門の周りの兵を叩いて跳ね橋を下ろさせる。籠城している城を攻める定石だが、いかんせん兵の損耗が大きいし時間もかかり過ぎる。数にモノをいわせて力押しすれば墜とせぬことはないが、こちらの被害も無視できぬ規模になるだろう」


「だから正面で派手に戦うふりをしてアレですよね。真に兵が動いたとき、そんな策があったのかと、きゃつ等も度肝を抜くでしょう」


 墜とすのは時間の問題だと言わんばかりに司令官と副官が、攻撃部隊の様子を伺いながらほくそ笑む。

 一見すると攻略に手こずっているようだが、司令官にしてみれば予想通りの展開。正面に敵兵が集中していくのが、思い通りの展開で実に楽しいのだ。


「あと少し……ナの国の軍勢には、夢を見てもらっていようではないか」


「ぬか喜びをですか?」


「そういうことだ」


 底意地の悪い笑みを浮かべながら司令官が弓戦の継続を指示する。

 本命の作戦を隠ぺいするためだけに、実に4桁に及ぶ大戦力を正門への陽動に投入。これも大国だからこそ成し得る王道の戦法であった。




 そんなこともつゆ知らぬマニッシュは弓戦での優勢に気を大きくしていた。


「矢狭間から射れば敵の矢などひとつも当たらぬ。どんどん撃ってオウの国の陣を押し戻せ!」


 門の上。

 見張り櫓を陣として、最前線で兵たちに檄を飛ばす。

 千の単位の弓兵を押し出してくるオウの国を相手にしてか、防戦に当たる弓兵は3百を超える。戦力比からすれば3分の1以下の少数精鋭とも見えるが、国力の劣るナの国からしたら保有する弓兵ほぼすべてをかり出した格好であった。

 しかし、ここは城の正門。突破されれば大軍が一挙して攻め込んでくるので、絶対に守り抜かなくてはならないデッドライン。

 マニッシュは最終防衛ラインで踏ん張るべく、味方の士気を向上させようと煽りに煽り続ける。


「撃ったらすぐに下がって次の矢をくべよ! 途切れることなく次々矢を撃って、相手が弦を引く時間を与えるな。この戦いが我らの存亡を左右するのだ、後がないと心して戦にかかれ!」


 拳を上げて声を嗄らし、自らが最前線に立って大型の矢を射ながら、兵たちを奮い立たせる。その甲斐あってかオウの国の弓兵をかなりの数を討ち果たし、正門前では数の劣勢をモノともしない勢いで戦いを推移させていた。


 ……かのように見えていた。

 ホンの、つい今しがたまで……


 風に乗って聞こえてきた大音響と鬨の声こそが、ナの国の守備隊が優位だった戦況を完全にひっくり返した証なのであった。





「申し上げます! 西の壕に機動甲冑が多数集結。大型の投石器も運び込まれております!」


「なっ!」


 凶報に身を乗り出すパーセルに追い打ちをかけるように「申し上げます!」と新たな伝令が飛び込んでくる。


「敵、機同甲冑。投石機を使って大量の石を撃ち出しております!」


「どういうことだ?」


「敵は正門を攻めているのではないのか!」


 突然の事態にパニくる重臣たちを前に、パーセルは「狼狽えるな!」と一喝。


「正門の攻撃は我らの目を逸らすための陽動だ。きゃつ等の狙いは最初から城壁を崩すことにあったのだっろう」


 相手の策にまんまと乗せられた。いや、陽動側により多くの兵力を割いていたのだから、向こうの将が切れモノだったというべきか?


「し、しかし。投石機を使って仕掛けてくるのなら、投げ手を射抜けば良いだけの事。使う者がいなければ、いかに強力な兵器もただの飾り」


 パニックから持ち直した重臣が弓戦での優位性を持ち出すが、パーセルは「甘い!」と一蹴。


「雑兵ならともかく、機動甲冑相手に弓など効かぬ。当ったところで蜂に刺されたほどの痛みもなかろう」 


 狙撃に対する防護は万全。ゆえに弓兵をすべて囮に回したのだ。


「機動甲冑の動きを止めるぞ! あるだけのバリスタを用意しろ!」


 大型のバリスタによる速射なら機動甲冑の動きも封じ込める。投石機で城壁に穴が開く前に仕留めなければやられるのは此方。


「マニッシュに、城門の守りを維持しつつ西の壕に兵を差し向るよう伝えよ!」


 パーセルはバリスタと配備と同時に兵を西の壕に差し向けるよう命じたが、残念ながら反撃の指示を出すのがホンの少しだけ遅かった。


「申し上げます!」


 入れ替わるように飛び込んできた伝令が「敵投石により西の壕の城壁が崩壊。敵の機動甲冑より幾重もの縄が放たれ、壕に即席の橋が作られました!」最終防衛線が破られたとの報告がもたらされた。




 そしてその頃。


「いくぞ……」


 翔太が小さく号令を出すと、2台のトラックのような大型馬車が城の地下通路を走り出した。

 この異世界で初めてともいえる機動車両。初陣は城からの脱出であった。




読んでいただきありがとうございます。


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