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ゲープハルトとデーディリヒ


 覇権思想に塗り固められたオウの国の大軍が迫りくる中、ナの国の国王パーセルが対抗策として籠城戦を決めた。

 万を超える戦力と正面からぶつかるのは愚策と判断、籠城することで連中の物資に食糧が尽きることを狙う消極的作戦に出たのである。


「数が多いだけにきゃつ等はジッとしているだけでも大量の物資を必要とする。我らを包囲し城に張り付いているのも、自ずと限度があるだろう」


 長期戦は不可能と踏んでの判断。


「されど相手は万を超える大軍。守るほうが優位とはいえ、こちらも持ち堪えれるのは数日が限度ですぞ」


 長期間籠城に耐えれる戦力がないとガイアールが具申。

 出るも護るも勝ち筋が見えない中、パーセルが「籠城の先の策を伝える」と善後策についての口を開いた。


「ゲープハルト!」


 隣に控える宰相を呼ぶと「貴公に全権を託す。必ず承諾を取り付けて、5日以内にクの国の軍を引き連れて戻れ!」と、国家の存亡をかけた交渉を命じる。

 ゲープハルトに否などあろう筈もなく、ふたつ返事で「御意」と応じる。

 クの国の軍が動かなければナの国は亡びる。とはいえ無条件に頭を垂れれば良いという訳でもなく、クの国が〝兵を出さなければ、次は自分たちの国が餌食にされる〟と説得しなければならない。そうでなければ出兵の代償に領土割譲など、足元を見られて好き放題に要求をされてしまう。

 それでは本末転倒も甚だしい。

 危機感を共有することでクの国の出兵を促しながら、なおかつナの国からの譲歩はしないという、極めて高度な舵取りにゲープハルトは挑もうとしているのである。

 不安はある。

 タイムリミットが定められている上に、手持ちのカードは無いに等しく交渉を行うには圧倒的に不利な状況。

 すべてにおいて逆風が吹き荒れるが、だからこそ「この難局を切り抜けるのは、自分にしかできない」という思いに馳せる。


「この命に代えましても」


 不退転な覚悟で応と答える。

 

「うむ」


 その覚悟返事にパーセルが満足したのだろう。力強く頷くと矢継ぎ早に「デーディリヒ!」と若き筆頭騎士を呼びつける。 


「貴公はゲープハルトの守備をいたせ。必ずやゲープハルトを無事にクの国に送り届けるのだ!」


 重責を担うゲープハルトの護衛を命じる。


「は!」


 この状況で拒否はなく、デーディリヒも即応すると「ならば、機動甲冑で同道を……」と大事を取っての最大武装を提案する。

 当然だ。

 課せられた命を遂行するなら機動甲冑を駆っての護衛でも足らぬくらい。単騎精鋭で挑むなら最低限だとゲープハルトも思ったほど。

 が、パーセルの下した判断は「それには及ばず」とまさかの却下だった。

 これにはデーディリヒのみならずゲープハルトも驚いた。

 国家の存亡をかけた援軍要請。援軍を依頼しつつも相手に足元を見透かされないよう、智謀策謀を絞り出しながらの駆け引きも控えているが、それもこれもゲープハルトがクの国に辿り着けれるのが絶対条件である。

 途中で討たれれば全てが水泡に帰す中、少しでも生存確率を上げたいのに、最も高確率だと思える機動甲冑を禁じるとはいったいどういう事だろうか?

 不可解な下知に首を傾げるが、当然のことながら訝るのはゲープハルトだけではない。もうひとりの当事者であるデーディリヒも、当然のごとく「お待ちください!」とパーセルの決定に異を唱える。


「あの大軍勢を突破するやも知れぬというのに、お館さまは我々に〝丸腰で立ち向かえ〟と?」


 のみならず、はっきり無謀過ぎると非難したのである。

 それでなくてもピリピリした雰囲気。

 追い打ちをかけるような非情な沙汰に、場の空気が一気に冷えたところに、パーセルが「まあ、聞け」と手を挙げてそれ以上の発言を遮る。


「機動甲冑は強力無比な武器ではあるが、身の丈が大きいが故に周囲からの注目を浴びてしまい目立つことこの上ない。可能な限り隠密に行いたい此度の強行には、機動甲冑は不向きであろう?」


 その鶴の一声で、ゲープハルトはデーディリヒを護衛に従え、軽鎧姿で馬を駆って包囲網を突破することと相成ったのであった。





 クの国に至る街道を、2頭の馬が土煙を上げながら疾走する。

 鞭を入れる回数は通常の倍以上、嘶きは擦れてもはや悲鳴と化している。かれこれ2時間以上ぶっ続けで全力疾走させているのだから、選りすぐりの駿馬とて限界などとうに超えている。

 恐らくこの一走りで疲弊してすり潰してしまい、この駿馬は以後2度と使い物にならないだろう。

 馬を育てるための年月に加えて、優秀な駿馬を得ることができる確率を考えれば、一走りで潰すなど信じられない愚行である。

 しかしゲープハルトたちは鞭を打つ手を止めない、今はそんな些事より1分1秒こそが金にも匹敵するほど貴重なのである。

 街道の丘を越えたところで、ようやくクの国への道程の半分。

 既に陽は西に傾きつつあり、日の入りまで精々3時間といったところ。取り次いで謁見の時間を考えると、何としても夕刻までにクの国の城に辿り着きたい。逸る気持ちで鞭を打とうとすると、前方を走るデーディリヒが唐突に馬の脚を止めたではないか!


 どういうことだ?


 慌ててゲープハルトは手綱を引いたのだった。


「まだ半分しか走っていないのに、何故馬脚を止める!」


 横に並んでサポタージュまがいの行為を非難すると「少し馬を休ませないと持ちません」と、逆にデーディリヒに窘められる。


「このまま馬を全力で走らせていたら、クの国に辿り着く前に馬が潰れてしまいます」


 限界を超える走りを強いた馬は息も絶え絶え、並足でさえヘロヘロでデーディリヒが指摘するまでもなく今にも潰れそう。

 無論、そんなことはゲープハルトとて百も承知。


「しかし。一刻も早く城下に辿り着き援軍の要請をしないことには、オウの国の軍勢に飲み込まれてしまうではないか」


 そうなれば万事休す。

 だからこそ無理を通して飛ばしているのであるが、知っていてなおデーディリヒが「ならば、なおの事小休止をするべきです!」と休息を推してきた。


「宰相閣下のお気持ちは分かりますが、もし道中で馬が潰れてしまったら、それこそ歩いてクの国に行くことになります。そうなれば今日中に辿り着くことなど不可能となりますが?」


 こんこんと諭されてゲープハルトは「うっ」と唸る。

 小川の水を貪るように飲んでいる馬の様子を見るにつけ、このまま全力疾走を続けていれば半時も持ち堪えられないだろう。

 道程にして7割に届くか? といったところ。そこから徒歩となれば日暮れまでに辿り着くのは絶望的か。


「半時で良いのです。ここで馬を休ませれば、ギリギリでしょうが日暮れ時にはクの国の城下に辿り着けます」


「しかしだな。入城が日暮れでは……」


 果たしてクの国の王が謁見してくれるだろうか? 

 逡巡するゲープハルトデーディリヒが「確実に日暮れに着くのと、馬が潰れる恐れを抱いて走り続ける。国のために宰相の立場なら、どちらを執るのですか?」と二択を迫る。


「それは……」


 ゲープハルトは考える。

 馬が走り続ければ日暮れ前に辿り着くが、疲労具合を見るにつけその確率は絶望的。

 休息を挟めば日暮れ時には何とか着く。謁見できるかは微妙だが、可能性は無きにしも非ず。国の一大事を鑑みれば博打を打つ方が悪手か。


「分かった。馬を休ませよう」


 デーディリヒの提案を受け入れ、ゲープハルトは馬から降りる。


「それは明哲」


 ゲープハルトも同じく馬を降り、馬を畔に連れて行く。


「ここで少し休ませれば、馬も元気を取り戻しましょう」


「そうだな」


 畔の草を食む馬を見ながら、そうであって欲しいものだと切に願う。


「馬たちには、この先走り続けて貰わねば困るからな」


「ええ。オウの国の陣まで、ね」


 何だと!

 言うよりも先、ゲープハルトは腹部を襲う燃えるような痛みに声を失う。

 視線を下げると長剣が突き刺さり、切っ先が背中まで達している。


「失礼ながら宰相閣下には、ここで降りていただきたい」


 何故だ?


 叫ぼうとするが声が全くでない。いや、立っているのかすら最早怪しく、ゲープハルトの視界は網がかかったように真っ暗に染まっていく。


「悪く思わないで戴きたい」


 クククと嗤うデーディリヒの言葉が脳裏を駆け巡った末、宰相の意識はこと切れた。 


読んでいただきありがとうございます。


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