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御前会議


 重臣たちが集まる部屋には何時にない緊張が走っていた。

 空気すらピリピリと張り詰める中、翔太は〝ひとり場違いな場所に居合わせている〟感をより一層感じていた。

 そもそも召集を受けた際にも、レーアから「ゼッタイに会話に口を挟んじゃダメ!」と、それこそ犬猫に言い聞かせるレベルで厳命されたのだ。


「えらく信用がないけど、そこまで言うか?」


 さすがの物言いに拗ねる翔太に、レーアが「そうじゃないの」とフォロー。


「翔太もそうだけど、わたしまで軍議に呼びつけられるってゼッタイにおかしいもの」


「何か分からないけど、大変なことが差し迫っているってこと?」


「多分ね」


 レーアの予想は悪い意味でビンゴであり、呼び出された面々が揃いパーセルが入室すると、宰相ゲープハルトが「これより軍議を始める」と会議の始まりを宣言する。

 なんとなれば、呼び出された場は国の行く末を決める場だったのである。


〝そりゃこんなところで、不用意な発言なんかできる訳ない〟


 レーアがクギを刺したこに心の底から納得していると、パーセルが「皆の者、よく聴け」と口を開く。

 しかもその内容がトンデモナイ。


「既に周知だろうが、オウの国の大軍勢がこの城に向かいつつある。目的は我が城を攻め墜として、このナの国を手中に収めんがため。総勢1万を超える大兵力が、この城を目がけて進軍を続けている」


「えっ!」


 思わず声を出してしまいレーアに睨まれるが、平和慣れしている日本の高校生からしたらやむを得ないだろう。

 そもそも翔太のみならず、他の重臣も騒然としているのだ。あまりの騒々しさに「お館さまの話の途中ぞ、無駄口を叩かず傾聴せよ!」とゲープハルトがキレるくらいである。


「我らの備えは?」


 合の手を入れた重臣にパーセルが「うむ」と頷く。


「対する我が方の軍勢は、雑兵をかき集めても5千にも届かぬ。加えて強力無比な機動甲冑の数も、あちらが引き連れる騎数のおよそ半分といったところよの」


〝あ、圧倒的劣勢じゃん!〟


 心の中で翔太は叫ぶ。

 数の上での戦力比は2対1だが、実際のところは農民を徴発して兵の数を水増ししているに過ぎない。そんなザコを抜いてしまえば戦力比は3倍4倍と広がっていくだろう。ヘタすれば1割にも届かないかも知れない。


 その思いは居合わせた重臣たちにもあるようで「それだけの大軍勢を迎え撃つにあたり、我らの勝ち筋はございますのやら?」と、騎士ではない事務方の重臣が勝算の有無を尋ねる。

 

「ガイアールの見立てだと、きゃつ等の攻めに対して半日持ち堪えられたら上出来だとか」


「お館さまのお考えは?」


「儂の考えも概ね同意だ」


 絶望的なパーセルの戦力分析に、室内を再びどよめきが走る。


「筆頭騎士が戦わずして勝ち目ゼロだと断言するのか?」


「何と弱気な!」


「数の差は如何ともし難いではないか!」


 敵の大軍勢を前にして悲観に暮れる者、弱気な発言に臆病者と罵る者。

 各々が秩序なく好き勝手に咆える中、青筋を立てたゲープハルトが「お館さまの裁可を聴け!」と怒鳴るが、ヒートアップした中では火に油を注ぐようなモノ。いっそう喧しくなり、まったくもって収拾がつかない。

 周りがヒートアップするのと対照的に翔太は冷静。

 レーアに〝黙っていろ〟と厳命されたのと、結果傍観者的な立場に終始したため、怒号が飛び交う中つい「バッカじゃないの?」と呟いてしまった。


「軍議って、要は会議だよな。だったら怒鳴り合うんじゃなくて、どう振舞えば良いか意見を出し合う場じゃないの?」


 ボソッと呟いただけだったのにパーセルの耳に入ったようで「ショウタの言う通りだ」と持ち上げられる。


「先ずは皆の意見を聴きたい」


 そう言って襟元を緩めながら姿勢を崩し、パーセルが話を聴く気になった。


「和睦の道はないのですか?」


 勝ち目がないと悟ったのか、重臣のひとりが手を掲げて尋ねる。


「噂では姫さまが輿入れを断ったのでオウの国が攻めてきたとか? いま一度婚姻話を推し進めれば、きゃつ等が兵を引くやも?」


「バカな!」


 ゲープハルトが一蹴しようとするが、その男は「国の一大事ですぞ。なりふりなど構っていられようか」と反論。


 一縷の望みを託すような具申を、当事者のレーアが「ムリね」と斬り捨てる。


「わが身可愛さからですか?」


 無礼千万な問いに顔を顰めることなく「まさか。意味がないからよ」とレーアが淡々と答える。


「だって、オウの国の目的は〝わたしと婚姻して縁を深める〟じゃなくて、〝わたしを輿入れさせてナの国を併合する〟ことなんだから」


「事が成った暁には、我らは粛清の対象となるな」


 レーアの現状分析に被せるようにゲープハルトが追い打ちをかける。

 その事実に「まさか」と絶句する重臣を諭すように、パーセルが「率直に言おう」とオウの国が侵攻する目的を語る。


「元々きゃつ等は我が国を手に入れんがために虎視眈々と機会を伺っていたのだ。レーアとの婚姻話も我が国を無傷で手に入れるための方便に過ぎぬ」


「恐らくは先の長雨による厄災で向こうが切羽詰まり、すぐにでも我がナの国の領土を手中に収める必要がでたのだろう」


 パーセルの説明にゲープハルトが推測込みで補足説明を加えると、聞いた重臣のみならず「まさか」と呟く者も含め皆一様に息を飲む。


「故にだ。きゃつ等が和睦を受け入れる意思はこれっぽっちもなく、我がナの国の行く末は、全面降伏か刃を交えて朽ち果てることを望むかの2択しかない」


 パーセルがきっぱりと言い切ると「では、打って出るのですな?」と脳筋騎士のオルティガイアが身を乗り出して反撃への下知を待つ。

 後先考えない無謀な策だけに「これだから戦バカは……」と年下のデーディリヒに呆れられる。無論ガイアールも「討たれるのがオチだ」と取り合わず、ゲープハルトに至っては「ふん」と鼻で哂われるだけ。


「お館さまのお考えは?」


 茹でだこになったオルティガイアを意識的にスルーしてゲープハルトがパーセルに方針を尋ねる。

 交渉の余地がない上に掃討戦の勝機も望めないのだ、取れる手立ては文官肌の宰相にだって予想が付く。


「この城を盾として、守りに徹す」


 籠城戦を展開すると宣言したのだった。


 〝まともに戦っても勝ち目がないから当然と言えば当然か〟


 傍観者として聞いていた翔太も、この裁定には理があるので納得はできる。

 しかし、これで本当に大丈夫か? という疑念も同時に湧いてくる。

 それは先に勝算を尋ねられたガイアールも感じたようで「恐れながら」とパーセルに問いかける。


「籠城の選択は承知ですが、焦土戦術でも取らなければ、結局は数で押し切られますぞ」


 何せ圧倒的な戦力差、加えて機動甲冑を何騎も投入しているのだ。堀があっても重機代わりに使えば埋めるに易いし、力任せに投石されれば城壁が崩されるのも時間の問題。

 結局は全滅の先延ばしでしかない。


「その儘であればな。ゆえに儂はクの国に援軍を頼ろうと思う」


 パーセルの案に活路を見たのか、皆が一様に「おおっ」と声をあげる。


「きゃつ等の事情を察するに、版図を広げる野望は我がナの国だけに留まるまい。次の目標は間違いなくクの国。ならば手を携える時ではないのか?」


 覇権思想に塗り固められた大国と伍すには小国の連携が必要。だがそのためには地位ある人物が要請に赴く必要がある。


「ゲープハルト!」


 パーセルがと隣に控える宰相を呼ぶ。


「全権を託す。必ず承諾を取り付けて、5日以内にクの国の軍を引き連れて戻れ!」


 国家の存亡をかけた交渉を命じたのであった。


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