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クラガリーの砦が堕ちるとき

 刻一刻とと迫りくるオウの国の大軍勢。その数たるや優に1万人を超えていた!

 それに対するクラガリー峠の常備軍は100にも届かず、彼我の差は実に100倍以上。如何に籠城戦は守り手が優位だとはいえ、こうも戦力差があり過ぎると勝敗など戦う前から分かり切っていた。


「たかが国境の砦を1個墜とすのに、どれだけ兵隊を引っ張ってきているんだ?」


 大軍が攻め込む恐怖よりもその圧倒的な不経済性に、兵長のアグリはただただ嗤うしかなかった。


「全くだ」


 横に立つ代官のマクベールも呆れ顔。

 当然だ。

 攻め手3倍の法則から当て嵌めても、500も軍勢があれば圧勝できるのだ。そこに1万もの兵力の投入など、どれだけそろばんを弾いてもペイすることはない。


「金にモノを言わせるなど、大国のクセして品が無いな。どうせ攻めるのなら、もう少し優雅に出来ないのかね」


「優雅な砦攻めですか? そんなことができたら兵隊なんかやってないでしょう」


「全くだ」


 アグリの軽口にマクベールがつられるように嗤う。殿を引き受けた時点で既に覚悟は出来ているのだ。

 彼らがやるべき仕事はただ一つ。

 オウの国の軍勢を少しでもここで足止めさせて、ナの国が応戦準備が整うまでの時間稼ぎ。


「では最後にひと足掻き、やってみましょうか」


「了承しよう」


 マクベールの許可を受けて、アグリは兵たちに「バリスタを前に出せ!」と命じる。

 アグリの命令を受け、建築以来一度も開けたことがないという武器庫の大扉がギシギシと軋み音とともにゆっくりと開くと、蔵の中から台座に載った巨大な弓が3基ほど姿を現した。


「これは?」


 初めて見る弩弓に驚くマクベールに、アグリは「万一のために配備された、虎の子の兵器ですよ」と自慢げに胸を張る。


「武器庫のゴミとして朽ちる予定だったんですが……おかげ様で日の目を見ることになりましたな」


 イヤハヤ困ったと言いながら頭を掻くと、マクベールが「ククク。そうだな」と笑いながらアグリの三文芝居に付き合う。


「良いんじゃないか。使わずにゴミにしてしまったら「税のムダ使い」と民から誹りを受ける。良い使いどころができたと敵軍に感謝しよう」


 マクベールのお墨付きをもらったことで「そういうことだ!」と声を張り上げる。


「出し惜しみは無しだ。ありったけの弓を持ってこい」


 倉庫に保管してあるバリスタ用の弓を取りに行かせると、残った兵に命じてすぐさま射的の準備を始める。


「良い心掛けだな。で、目標は何にするのかね?」


 門外漢のマクベールの質問に「もちろん。向こうさんの機動甲冑ですよ」とアグリはニヤリと笑いながら答える。


「的がデカいから当たりやすい。普通の弓なら機動甲冑に敵わないだろうが、バリスタならば射抜くことも可能。そして当てれば大金星」


「なるほど。それは狙うしかないな」


 マクベールが得心し、アグリが「でしょう」と目じりを下げる。

 正にそれが合図だったのだろう。


「ザコは無視しろ! まだまだ遠くて奴らの弓はこちらに届かん、その間に機動甲冑を徹底的に屠るぞ!」


 アグリのかけ声とともに3基のバリスタから大矢が放たれた。

 空気を切り裂く音とともに飛ぶ矢は、放物線を描きながら敵陣のど真ん中で降下軌道に。その内の1本が引き寄せられるように降下すると、オウの国の機動甲冑の腹に突き刺さる。

 頑丈な機動甲冑とはいえ、屈強男子の腕の太さはあろうかという大矢で射抜かれたのだ。重力落下のスピードも加わる矢の威力に敵うはずもなく、指で突かれた人形のようにそのまま仰向けに倒れていく。

 そして響く、砦側の歓喜の声。


「大金星。当たったではないか」


「自分で言っといてなんだけど、ホントに当たるか? スゲーやこりゃ」


 もちろんアグリとマクベールも大興奮。ふたりして拳を固めて喜び勇んでいた。


「ヨシ、この勢いでドンドン撃て。きゃつ等の矢は未だこちらに届かぬ、今が好機だ!」


 アグリの号令に3基のバリスタがフル稼働する。次々と射られる大矢は空気をつんざき敵陣のど真ん中へ五月雨のように降り落ちていく。

 何しろ的はデカくアウトレンジ攻撃で撃ち放題なのだ、撃てば必ずといって良いほど敵兵に命中する。のみならず強力無比な弩弓は、僅か5分の間に何と7騎もの機動甲冑を屠ることに成功したのである。


「おおっ、良いねえ。入れ食いだねえ」


 面白いように敵軍を屠るバリスタの攻撃にアグリも上機嫌。連続ヒットについつい気持ちが大きくなったが、残念ながらアウトレンジによるチートタイムは長く続かなかった。

 ヒュン!

 耳をつんざくような強い風切り音がしたかと思うと、物干し竿のような巨大な槍が頭上を飛び去ったかと思うと、轟音を立てながら向かいの建屋に突き刺さったのである。


「何ごとだ?」


 そんなことを言う間もない。

 巨大な槍を投擲された建屋は無残にも壁が崩れ、瓦礫と化した壁材がもうもうと土煙をたなびかせている。

 それはまるでミサイルが建屋を直撃したような態。だが実は、この被害の要因は大型の槍が巡航ミサイルのようなモースピードで飛んだ、質量兵器による物理的なダメージによるものであった。


「敵、機動甲冑が槍を投擲!」


 櫓に立つ兵からの報告にアグリは「これが機動甲冑の投擲か!」と驚く。

 接敵しなければどうってことないなどと、甘い幻想を抱いていたがとんでもない!

 槍1本投げられただけだというのに、建屋を半壊させてしまうほどの攻撃力。恐らく投石機で直撃させても、こうも見事に壁が崩れたりはしないだろう。

 こんなモノが直撃で当てられたら、あっという間に部隊は壊滅、防波堤の役目もロクに果たせず屍を野に晒すこととなる。


「機動甲冑に矢を集中させろ! 絶対に近づけさせるんじゃない!」


 負けるにせよ野垂れ死には真っ平ゴメンと、アグリは機動甲冑に的を絞れと射手に命令。併せて斉射のインターバルを詰めろと檄を飛ばすが、命令が実行に移されることはなかった。彼我の距離が詰まり機動甲冑による投擲が可能になるや、オウの国側も虎の子のバリスタ目がけて集中攻撃を仕掛けてきたのである。


 ガン! ガン! ガン!


 信じられないほどの高速で槍が飛び、バリスタを目がけて次々と突き刺さる。

 その威力や凄まじく至近距離を飛ぶだけで肌が裂け鮮血が迸り、僅かでも触れてしまえば衝撃で手足が捥がれるほど。加えて圧倒的な数の差から槍の投擲も面包囲のじゅうたん爆撃の様相となり、射手が次々と倒され、遂には最強兵器のバリスタも台座を潰され3基とも破壊されてしまった。


「アイツ等、加減てモノを知らないのか!」


 アグリの悪態を聞いたのか、それとも槍が尽きたのか。一時的の収まった攻撃の後、砦の広場は瓦礫と骸の山。代官マクベールもひき肉と化しており、五体満足な兵はアグリを足しても10人といないだろう。


「まったく。やってくれたよ」


 地獄絵図のか佇むアグリは、迫りくる鬨の声にハッとする。万に迫る敵軍はもうすぐ傍までやって来ているのだ。


「最後にひと花……やってみるか?」

 

 剣を持ち直したアグリが次に見たのは、雨のように降り注ぐ無数の矢だった。






 馬に跨り山を下る最中、レノーイは鬨の声を大音響を耳にした。


「急がないと!」


 鞭を入れ、凶状を知らせるため城へと急ぐのであった。

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