デートふたたび 2
年頃の女に人並み以上の経済力と経済観念(締り屋、またはケチとの蔑称もアリ)が加わるとどうなるのか?
結果は言わずもがな。
買い物に付き合わされた日には、付き添う男は疲労困憊でヘトヘトな目に遭うのが世の常だ。
翔太もこの世の理に漏れることなく、あちらの店此方の店へと引っ張り倒され振り回されて、お昼を前にして精も魂も使い果たしていた。
一方、その疲弊をもたらした元凶たる玲香は、お疲れな翔太とは対照的に気力体力共に満々。
「次はどこへ行こうかな?」
などと、フロアマップを片手に思案を巡らせるアグレッシブぶり。ゾンビもかくやというほどに生ける幽鬼と化した翔太とは真逆に、元気はつらつに生き生きと輝いていた。
「どんだけ買うんだよ!」
「わたしが納得するまでよ」
「買って直ぐ帰るのならいいけど、買うまでの吟味が長いだろう?」
「当たり前でしょう。買い回りや比較検討とか、お店でイロイロ見て回るのがお買い物の醍醐味なんだから」
それどころか、まだまだ堪能が足りないと主張するありさま。
「買い物の醍醐味はどうでも良いから、少し休ませてくれ」
朝から買い物ぶっ続けに、せめて休息を与えろと懇願する。
当然ながら「えーっ」と玲香が難色を示すと、翔太は「どこのブラック職場だ」と待遇を非難。
「工場の流れ作業だって、2時間も仕事をすれば、5分10分の休憩時間が入るぞ」
労働待遇の実例を交えて当然の権利を主張するが「移動中は買い物をしていないから、その間に休憩できるでしょ」と謎理論を展開して、翔太の主張をすげなく却下。
代わりに「午前中の慰労にご褒美をあげるわ」とさらに新しい店へ翔太を引っ張る始末。
「ご褒美だったらそれに昼メシくらい食わせろ!」
既に時間は昼の12時を回っているのだ、エネルギー補給に食事を要求するのは至極当然のこと。しかし玲香の返事は「ダメよ!」の却下であった。
「ご飯なんか食べたら、お腹がポッコリと出ちゃうじゃない。お昼は次の店が終わった後よ!」
こめかみに怒りマークを付けながら玲香が力説し、翔太を引っ張っていった店はというと……
「ランジェリーショップだとー!」
「ええ、そうよ」
立ち止まったのは、ショッピングモールの中でもひと際華やかなメインストリートの一角。
大きなショーウィンドーにカラフルな下着姿のマネキンが並ぶ、まごうことなき高級ランジェリーショップであった。
「新しいブラとショーツがそろそろ欲しかったからね。せっかくだから寄って行こうかと」
ついでなんだしと玲香が立ち寄る理由を説明する。もちろん街中に買い物に出かけたのだから、ついで買いはごく普通な考えなのだろうが、同行する相手のことをこれっぽっちも慮っているとは思えない。
どういうことか?
つまり、こういう事だ。
「いや、しかし、それはだな……いろいろとマズくないか?」
玲香がランジェリーショップに立ち寄ると宣言した直後。
羞恥にしどろもどろになりながら、翔太はショップへの同行が気まずいと訴える。
「どうして?」
キョトンとした表情で理由を訊く玲香に「オレだって男だぞ」と翔太は声高に主張。言外に〝目のやり場に困る〟と匂わせたのだった。
ところが……
「アンタも男なんだから、女の子の下着や下着姿に興味あるんでしょう? 今日はそれを合法的に見せてあげようと言っているのよ」
下心を煽って「どうだ、嬉しいだろう?」とでも言いたげに、早く店に入ろうとばかりにグイグイと迫ってくる。
そりゃ翔太だって健全? な男子高校生。
つまりは思春期真っただ中で、異性への興味も欲望も俄然あるお年頃。女性の下着姿に性的興奮を覚えるし、生身の女体は言うに及ばずセクシーなランジェリーにだって欲情をする。
しかも同行している相手は些か自己中な性格はさて置き、芸能人並みに美人な女子高生の南条玲香である。
人格性格はビジュアルに映らないのだから、観る分には十分以上に眼福な存在。想像するだけでもおかずになる羨まけしからん相手である。
だがしかし!
「興味より羞恥心のほうがデカいわ! 辺り一面女ばっかりで、場違いな雰囲気がプンプンして居心地が悪すぎる」
カップルすら出入りしない店内に入店など、異分子どころか珍獣を見るような胡散くさい視線に苛まれること必至。それなりに図太い神経の翔太でも、さすがにノーダメージでは耐えれない。
という翔太の抵抗は徒労に終わることとなる。
「グダグダ言わずに入るの!」
往生際に悪さに業を煮やした玲香が、翔太の腕を掴み強引に入店したのである。
そこから先は、ひとによっては桃源郷、翔太にとっては艱難辛苦な拷問の場。
薄々予想はついていたが、ショップ店員の「あら、南条さん。お久しぶり」の挨拶から、玲香がこの店の常連かつ上客であることが判明。資産家令嬢なんだから、高校生でも高級店を使うことはおかしくはない。
「高級店でも実用品は売っているもの」
「ならオレは外で待つから」
「ダーメ。荷物持ちは同行してナンボよ」
逃げないように掴んでいるのが、客観的には甘えているように見えるのだろう。ショップ店員が「ふふふ」と微笑ましく笑う。
「デートの最中?」
カン違いも甚だしい質問を投げかける。
「違うから!」「あはっ、分かります~っ?」
真逆の返事がユニゾンで流れると、長年の経験かヨイショする相手が分かるのだろう。ショップ店員が「やっぱり」と高い声を上げて玲香にすり寄る。
「下着屋に来て、照れる彼氏なんて初々しいわ。せっかくだから思いっきりかわいいのを選びましょう」
「ええ、ヨロシク」
「彼氏サンは、ちゃんと感想を言ってあげてよ」
「だから、オレを巻き込むな!」
翔太は断固拒否しようとしたが、翔太のヒエラルキーはここでは最弱。
「うん、それはムリ」
ひと言のもとに却下されると、衆人環視のなか下半身には嬉しく精神には最悪な羞恥プレーが、小一時間にわたり延々と行われる羽目となったのである。
「どうよ。眼福だったでしょう?」
目一杯試着と物色を繰り返して満足げな玲香が、踊り場の休息スペースで缶コーヒーを飲みながら黄昏ている翔太に訊いてきた。
「今、オレに感想を振るな」
たぶん今は口を開けば、愚痴と文句しか出てこないだろう。
玲香が眼福という言葉にウソ偽りはなく、この小一時間目の保養にはなった。
スレンダーながら出るところはしっかり出ている玲香のスタイルは素晴らしく、下着越しとはいえ見るだけならヘタなグラビアよりもずっと価値がある。しかもモニターや写真越しではなく生なのだ。
だがその代償として翔太の精神力は、これ以上ない程ガリガリと削られていったのである。
他にカップルでもいれば違ったかも知れないが、店内にいた男は翔太ただひとり。そうなると目の保養よりも目のやり場に困るのが正直なところ。
加えて他の女性客から「誰だ、コイツ」的な視線に晒され居心地が悪いこと悪いこと。まるで針の筵に座らせれているようだった。
店員さんから「彼氏さんが羨ましい」的なことをさんざん言われまくったので出歯亀扱いはされずに済んだが、だからといって周囲から浮いていることに変わりはない。
「男として大事なものをどんどん奪われていった気分だ……」
目の保養と引き換えには少し高すぎやしないか?
率直な気持ちではあったが、同時に言ってはいけないNGワードでもあった。
「へーっ。そういうこと言うの? わたしとの買い物に?」
玲香の顔色からからかいの色が消えると、みるみる間に不機嫌のオーラに纏われていく。
マズイと思ったが既に手遅れ。玲香からは表情が消え、能面のような無機質さすら漂おうとした刹那。
「加納じゃないか。こんなところで何してるんだ?」
階段の上階から、いま会いたくない筆頭のイケメン。八重樫が面白いものを見つけたような顔をして、翔太を呼びつけていた。
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