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デートふたたび

 まるでデジャヴを見ているようだった。


「アンタ、最近わたしのことを蔑ろにしているでしょう!」


「はあ?」


「だから、最近わたしのことを蔑ろにしているでしょう?」


「えっと……」


「もう一度言うけど、最近わたしのことを蔑ろにしていない」


「その?」


「まだ聴きたい? 最近わたしのことを蔑ろにしているわよね」


 朝。

 リビングに顔を出したら、いきなり玲香から恨みがましい文句を突きつけられたのであった。

 無論、完全な言いがかりであり、黙って看破などできない。


「朝晩、ちゃんと飯は作っているのだが?」


 料理がまるでダメな玲香に代わり、彼女が外食する時以外、朝夕の食事は翔太が担っていた。 

 いや、最近は朝夕のみならず、昼の弁当も割と頻繁に作ることが増えている。

 何でも女子のなかで映える弁当が流行っているとかで、見栄を張った玲香から「誰よりも可愛い弁当を作れ」とムチャなノルマまでも課せられているのだ。

 マンションの家賃代わりなので甘んじて受けているが、時間の皺寄せは如何ともしがたく、自由にできる時間はドンドンと減っている。

 しかし玲香にはそんな理屈は通じない。


「ご飯を作れば良いだなんて、それだと給料を稼げば義務を果たしたとのたまわる父親と同じじゃない!」


 自分勝手な理詰めで、翔太の放置プレーを非難するのであった。

 翔太もまた「勝手なことを言うな!」と反論ができないお人よし。

 結果。


「なら、どうすれば良いんだ?」


 つい条件反射的に訊き返してしまう。

 するとその言葉を待っていたかのように、玲香が「言ったわね」と口角を上げニンマリする。


「今日は一日わたしに付き合いなさい!」


 指をピシリと突きつけられ、何故か玲香とデートする事が決定したのである。

 いやいや。どんな理屈でとツッコミのひとつも入れたくなるほど、本当にデジャヴを見ているような成り行きだった。





 そんなこんなで、出かけたのは良いのだが……



「それで。わざわざ貴重な休日を潰させて、オレを何処に連れて行くのかな?」

 

 マンションを出て駅へ向かう道すがら、翔太は玲香に何処に行きたいのかを訪ねる。

 翔太自身は別にどこかに出かけたいなど欠片も思っていない。出来ることならマンションで身体を休めるか、さもなくば道場で竹刀を振るっていたいのだ。

 故に玲香任せにしたいのだが、返ってきた答えはまたもやデジャヴ。

 露骨に顔を歪めると「えーっ」と心底嫌そうな声を出してきた。 


「デートの行き先くらい、エスコートする男が決めるものでしょう?」


 さも当然とばかりに言い放つ。


「誘ったのはオマエのほうだろう」


 翔太からしてみれば至極当然な言い分であるが、古今東西この手の真理が女性に通用することは極めて稀。

 ましてや相手は歩く唯我独尊な玲香である。正論など地平線の遥か彼方に置いてきた女。


「ア・ン・タ・が決めるの!」


 ふん! と鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 コイツも投げっぱかよ!

 ブルジョワ階級の娘ってのは、そんなヤツばかりなのか?


「せめてある程度の希望を言って貰わないと、全然トンチンカンな方向に行ってしまうぞ」


「何、ソレ。ダサ!」


翔太の対応を玲香が腐すが、スキルがないのに見栄を張ってもロクな結果にならない。


「あゝ、そーだよ!」


 素直に開き直ると、翔太は玲香の行きたいところへ道々することで話を付けた。

 果たしてそれは本当に良かったのか?


 端的に言おう。

 とんでもない選択ミス、間違いだった。


 考えるのが面倒臭いからと、玲香の勝手にすれば良いと行き先を丸投げをしたばかりに、翔太はあちらこちらに引きずり倒される羽目に陥ったのである。





考えが甘かった。甘すぎた。荷物持ちがここまで苦痛だったとは……




「ヨシ! 次の店に行くわよ」


 ショッピング街で意気揚々に拳を掲げる玲香を尻目に、両手いっぱいに紙袋を抱えた翔太は意気消沈。


「……もう勘弁してくれ」


 反論する声にも元気など欠片もなく、まだ昼時だというのに一日を終えたかのように疲労困憊。

 無罪放免で開放してくれと弱音を吐くが、もちろん玲香が許してくれるはずもなく「ダメよ」と秒で拒否。


「今まで蔑ろにされていた分をキッチリ補填してもらうわよ」


 責任は翔太にあるとばかりにピシッと指を突き付ける。


「口は禍の元かよ」


 行き先を玲香にお任せをしたばかりに、ショッピングの〝お供〟に駆り出されてしまい、延々と付き合わされているのである。

 無論、ただ付き従うだけでは済まない。強引に引っ張られたとはいえ〝デート〟と銘打っていることから、各々の買い物先では玲香から〝服や装飾具の評価〟を求められる。

 いわゆる「似合っている?」と訊いてくるヤツである。

 美少女なのだからもちろん似合っているのだが、テンプレートのように「似合ってるよ」ではダメなのだ。どこがポイントでファッションセンスが良いと具体的に指摘せよというご無体な要求。服なんてユニ〇ロかしま〇らで十分と考えるヤツにはハードルが高すぎる。

 それだけでも十分〝苦痛〟なのだが、玲香の場合は他の高校生と違い、資産家令嬢だけに余計にタチが悪い。単なるウィンドーショッピングに終わらず、商品が買えちゃうのである。

 そしてもっと困ったことに、玲香はお嬢様でありながら経済観念がしっかりしている。ゆえにバーゲン品やファストファッションなどを吟味しながら買い込んでいくので買い物に時間がかかる。

 その両方が合体すると、じっくり買い物をしてお持ち帰りの商品が増えるという、荷物持ちには最悪の展開が待ち構えているのであった。

 


「これで5店目だぞ。さんざん買い物をしたのに、まだ行くのか?」


 精根使い果たし、疲れはもはや限界突破。ウンザリしながら尋ねる翔太に玲香が「当然」と即答。


「今日は1日ショップ巡りするの!」


 疲れなんかないとばかりに、鼻息荒く高らかに宣言するのであった。


「マジかよ……」


 女の子の買い物にかける執念を舐めていた。

 まだまだ苦行が続くのかと、ゲッソリとする翔太に対して玲香が「大丈夫。ちゃんとご褒美を用意してあげるから」と意味深なウインクをするのが不気味なほど。


「だからしっかり荷物持ちするのよ」 


 そう言って顎先で山のような買い物袋を玲香が指す。


「いやいや、その文脈が支離滅裂なんだが」


 何処をどう意訳したらあちこち引っ張り倒すのがご褒美になるのか、膝を突き合わせて問いただしたい。

 すると翔太の心の声を読んだかのように、玲香が「買い物を心底楽しめたらご褒美になるでしょう」と言い募る。


「どこをどうやったら、荷物持ちで楽しめるんだ?」


 重くはないが嵩張るから地味に大変なのに。と、心の中で毒づく。


「要は買い物に付き合うのが〝しんどい〟と感じるから苦行に思えるのでしょう?」


「そんなこと無いわよ。諺にもあるでしょう「人生い楽ありゃ苦もあるさ♪~」って」


「アホ。そりゃドラマの主題歌だ」


 妾腹とはいえ筋金入りのお嬢様なのに、何で古い時代劇なんか知っているんだとツッコミたくなる。


「細かいことは良いのよ。意味が通じたらOKでしょう?」


「ハイハイ、そうですね」


 疲れるから軽く聞き流していると、何故か玲香が「そろそろ集中力が切れたかな?」と意味深なセリフを独りごちる。

 そば耳を立てる気力もない翔太は聞き流していたが、目と顔の表情が相当にやつれていたのだろう。玲香が顔色を伺うようにのぞき込むと「ま、いっか」と再びの独り言。


「疲れてきたみたいだから、ご褒美をあげるわ」


 だからソレ、どういう意味だ?

 脈絡のない玲香のセリフに、翔太はますます首を傾げるのだった。

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