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デート! 3

 翔太の余計なひと言にレーアのグーパンチが炸裂する。


「まったくもって、ひと言余計。いい加減女性の扱いかたを覚えなさいな!」


 生身の身体ではなくレオンハルト謹製の木偶人形体なので、全力で殴られても痛くはないが、手加減なしの重いパンチはたたらを踏むに十分な威力。


「オマエの何処にお淑やかの要素があるんだ? 完全に姫さま詐欺だろうに!」


 グーパンはさすがにやり過ぎだろうと言い返すと「何よ!」から始まる罵詈雑言の嵐。ボキャブラリーで勝てる相手ではなかった。

 瞬く間にやり込められると、そこに追い打ちをかけるようにクリスが「翔太さま」と割って入るのだから、翔太に口ケンカで勝てる見込みなど万にひとつもない。


「さっきのアレは、淑女に対して少々お言葉が過ぎますね」


 言葉使いこそ侍女らしく丁寧だが、話の中身は翔太に対する叱責オンリー。しかも感情を交えず正論で追い立ててくるのだから、ひと言の反論も叶わず「ぐっ!」と唸ることしかできない。


「とまあ。出自の点があるとはいえ、騎士の身分ともなれば、さすがに看過できないかと?」


「そういや、オレ。騎士の身分にされていたんだ」


 城で国王パーセルが翔太をレーナ付きの騎士に任じたことを思い出す。


「ですので、姫さまは翔太さまの主ということになります。その事実を鑑みて発言をして頂かねばなりません」


 クリスが上下の関係をピシャリと言い渡すと「ふふん、そうなのよ。だからわたしを敬いなさい」とレーアが得意げに胸を張る。

 雇用主と従業員という超えられない壁に「うぬぬ」とうな垂れる翔太をさらに追い詰めるようにクリスが「そういう訳で」と小言を続ける。


「姫さまの思惑は翔太さまの指摘通りとは思いますけど、そこは見て見ぬふりをするのが紳士だと存じますが?」


 諫めるようなクリスの小言だが、翔太に諫言するように見えて何気にレーアをディスっており、これに気付かぬほどレーアも間抜けではない。

 すぐさま「クリス、ちょっと!」と詰め寄る。


「アンタこそ、わたしにケンカ売っているでしょう?」


「はて。姫さまの被害妄想では?」


 しかし相手のほうが一枚上手。のらりくらりと躱されて、クリスにいいようにあしらわれてしまった。

 一瞬、悔しさにほぞを嚙んだが、そこは王女たるもの所以か即座に「まあ良いわ」と気持ちを切り替える。


「問題は魔晶石よ。わたしがもう一度ウィントレスに搭乗するためには、どうしても新しい魔晶石が必要なの」


 言外に「わたしの魔晶石をアンタが使ったから、こうなったのよ」と訴えているのがアリアリと分かるので、原因さておき翔太としても苦笑いで応じるしかない。

 大きく話が脱線してしまったが、そんなことよりも、だ。


「とにかく今日の外出の目的がその魔晶石の買い付けなんだろう? オレは余所者だから全然知らないのだけれど、その石はどこで採れてどこで買うことができるんだ?」


 デートと託けたレーアの外出の真の目的。せめてその行先と詳細な情報くらいは知りたいものだ。


「どこで採れるかまでは、わたしも知らないわね」


 レーアに訊いてみたが、採掘場所に関してはもっともな答え。その筋の専門家でも無いのに、知っているほうがむしろ意外だ。

 じゃあ全く分からずか、と思ったら横からクリスが「ナの国に魔晶石が採れる山はないと聞きますが」と補足説明を始めてくれた。


「魔晶石自体はそれほど珍しいものではありません。特殊な灯具に詰めてビタリーを注げば輝きだしますから、城や屋敷の照明に使われています。ただ魔晶石も灯具も少々値が張るので一般庶民は使っていません。城を除けば重臣の館か裕福な商店くらいでしょうね」


 意外にもクリスの説明は細かく丁重で、翔太の疑問のほとんどを淡々と説明してくれた。

 しかしながら、ひとつ理解をすると新たな疑問が湧いてくる。魔晶石が富裕層までとはいえ広く浸透しているのなら、敢えて購入する必要があるのだろうか?


「余分がどれ程あるのかは知らないけど、城に予備があるのなら新しい魔晶石なんか買いに行く必要なんかあるのか?」


 翔太の疑問にレーアが「あんな屑サイズの魔晶石は使えないわよ」とバッサリ。相も変わらず紋切り型で、ロクな説明もないどころか皆まで言おうとしない。

 呆れたクリスが「それだと説明になっていませんよ」とフォロー。


「灯りに使う魔晶石はこれくらいの大きさなんです」


 指で輪っかを作り「ほら」と見せてくれたサイズが500円硬貨くらい。対して「機動甲冑の駆動に使うとなると、最低でも私の拳と同じくらいの大きさが必要です」と手を握って実演。レーアの雑過ぎる解答をしっかりと補足してくれた。


「なるほど。それだけ大きさが違ったら、流用なんてとてもムリだな」


 納得したという感じで翔太が肩を竦める。


「だから、この私に相応しい飛び切りの魔晶石を買い付けるのよ」


 三段跳びのような論法でレーアが胸を張る。


「なるほど……ねぇ」


 経緯は分かったし理由も納得した。

 要は同じ魔晶石でも照明などに使うふだん使いと、機動甲冑の駆動に用いるものはまったくの別物だという事。言ってみれば同じダイヤモンドでも研磨用の屑ダイヤから、工業用ダイヤモンドや観賞用の大きなものまで用途によって異なるのと同じ理由だろう。

 それは理解したし納得できたのだが、翔太として理解できないというか腑に落ちないところがひとつある。


「買い付けだったら出入りの商人にでも声をかければ良くないか?」


 高価な商品であればなおの事。百歩譲って相手の店に出向くとしても、店どころか人家もおぼつかない郊外に出て行く理由が見当たらない。


「あー」


 口が重く歯切れが悪いレーアよりも早く、気が利き過ぎるクリスが「それはですね」と火にかけたハマグリよりも緩い口が開いた。


「城に来てからの吟味では、お館さまが魔晶石を選んだ後になってしまいます。久々にご自身が駆るウィントレス用に魔晶石。どうせならいちばん良いものを載せたいと、城に来る前に承認を捕まえて目星を立てようという、駄々子まる出しの意地汚い思いからの外出です」


 得意満面にクリスが語るレーアの思惑を聞いた途端、翔太は「はぁ?」とおおきな声を出してしまった。


「つまりは何か? 自分のお気に入りの魔晶石をいの一番に見つけて確保するためだけに、わざわざこんな町外れにまで繰り出したってことか?」


「端的に申せばそういう事になります」


 翔太のボヤキにクリスが軽く一礼して肯定すると、ダシにされたレーアが「何勝手に決めつけてるのよ!」とむくれる。


「遠出したかったのは、前から言っていたでしょう! ここのところお城に閉じ込められたままで、イロイロ溜まっていたんだから!」


 口を尖らし抗議するレーアに、翔太とクリスも「そんなことを言っていたな」「仰っていましたね」と同意はした。こんな性格でも王女は王女、貴人として外出の制限が掛かっており、レーアにフラストレーションが溜まっていたのはよく知るところ。

 翔太は単純に「箱入り娘みたいで大変だ」程度の認識だったが、四六時中一緒にいるクリスの考えは一味違う。


「もちろんそれも理由のひとつでしょうが……」


 勿体ぶったように言葉を区切ると「本当のところは」と、ふたたび火にかけたハマグリよりも緩い口が開いた。


「本当のところは無理やりにでも口実を作り、モガ! ウグッ! ブフォ!」


 しかしながら最後まで言い切る前に「お黙りなさい!」と、レーアによってその締まりのない口は塞がれ封印されてしまったのである。


「いいこと! 今の一部始終はゼッタイに忘れなさい!」


 烈火のごとく喚き散らすレーアの勢いに圧され、翔太は「はい」と頷くのであった。

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