デート! 2
これも付き合いといえば付き合いなんだろうが、レーアの長い買い食いが終わり、やっと翔太たちは城下の街を離れて壁の外に出た。
「スゴいわね。街中じゃないのに馬車が揺れない」
郊外に向かう馬車の車中で、馬車の乗り心地が俄然良くなったとレーアが驚きの声をあげた。
「本当にビックリです。馬車は速いけど揺れるから苦手だったのに、城下を過ぎても舌を噛むような揺れが全くない」
「舌を噛むって、どんな乗り物だよ?」
オフロードバイクじゃあるまいしと翔太が呆れるが、レーアとクリスが「馬車は揺れるの!」と主張を止めない。
「馬車は走ると揺れるので、壁や椅子に身体をぶつけてしまいます。だからぶつかっても痛くならない様に壁を柔らかくして、更にたくさんのクッションを車内に持ち込んでいるのです」
それでこんなフカフカのクッションがいっぱい置いてあったのか。壁や天井もクッション貼なのは、高級感を出すのではなく実用だったのだと納得。
「わたしは乗ったことがないけど、乗り合い馬車なんてもっとタイヘンよ。椅子も板張りだから、降りたときには身体中が痛いから」
「特等席ならクッションを貸して貰えますが、ないよりマシといったところですしね」
2人の愚痴を聞いているだけで分かる、絶対に乗りたくないヤツだ。
そして馬車がメチャクチャに揺れる原因も、しっかりと分かった。
「馬車の乗り心地が良くなったのは、街道を整備した副産物だな」
前方の御車席のほうを指さすと「ほら、こんな感じ」と答える。
翔太の翳す手の先。隣国へと繋がる街道は、余裕で馬車がすれ違えるほどに幅が広げられ、舗装こそされていないものの路面が固く踏み均されており轍などの凹凸が一切なかった。
「城下周辺を除けば街道なんて言いながら道幅は狭い、轍だらけで路面がうねって通り難いと散々だったからな。幹線道路としてどうかと思ったから、機動甲冑を土木作業に使って道幅を広げて路面を均したんだ」
本当は舗装もしたかったんだけどな、と小さく呟く。
アスファルトの凡その材料は知っていても、どこで調達できるかは分からない。石畳みを敷き詰めるにしても、都市部ならともかく街道の隅々となると予算も材料も足りない。魔法じみたチート無しなら、これでも頑張ったほうだろう。
実際、未舗装とはいえ道の平たん具合は依然と雲泥の差。車輪が轍にとられなくなったので移動速度が速くなり、悪路脱出のようなことが無くなり荷の積載量も増えることとなった。
乗り心地向上はそのオマケ。狙ったわけではない。
「でもまた。どうして、街道を整備しようと思ったの?」
副産物のセリフが気になったのか、レーアが街道整備を思い立った理由を訊いてくる。
「ああ、それな」
先の長雨からの災害復旧が1番の目的だが、それとは別に翔太的に我慢ならない理由がもうひとつあった。
「前にクの国と模擬戦をしたことがあっただろう?」
翔太が問うと昔を思い出すように「そうね。あのときの活躍をきっかけに、翔太を隠すのを止めたのよね」と答える。
いや、ほんの数か月前の話なんだけど……
「その模擬戦と街道の普請がどのような関係にあると?」
脱線しそうなところをクリスがフォローしてくれたので「問題はその行き返りだって」と街道普請に話を戻す。
「あの試合、開催した場所が国境にある平原だっただろう。試合そのものより、往復の道中のほうが厳しかった」
しみじみと回顧すると、レーアも共感したのか「あぁ」と頷く。
「あの時も長い時間馬車に揺られて、降りたら足元がフラフラしたわね」
「なるほど。道が酷くて行き帰りの道中が辛かったので、普請をして歩きやすくしようとした訳ですね」
クリスがまとめようとしたが、翔太は「合っているけど、ちょっと違うな」と若干の異を唱える。
「道が酷くて道中が辛かったのは事実だけど、街道を整備した本当の理由は、荷馬車に積んで機動甲冑を運べるようにするためだ」
どうだ! とばかりに大々的に力説するが、理解が追い付かないのかレーアもクリスも呆けるようにポカーンとしたまま。
「機動甲冑はヒトよりもずっと速く歩くことができるのに、何故わざわざ荷馬車なんかに載せる必要があるの?」
再起動したレーアが最初にそう尋ねるのも、この世界の常識なら至極もっともなこと。対して翔太は「ずっと歩いていたら疲れるから」と即答。
「肉体的には疲れないよ。でも狭い機動甲冑の中に押し込まれて、何時間も同じ動作の繰り返しは精神的にキツくてストレスが溜まっちまう。いざ戦いになったとき、そのストレスが致命傷になることもあるから、現地までは荷馬車に積んで移動させたほうが良いんだ」
いつぞやテレビで見た戦車輸送のトレーラーや、SFアニメでの機動兵器の陸送車両を思い浮かべながらイメージを語る。
「あって欲しくはないけれど街道を整備したことで、有事の際には完全武装を施した機動甲冑をいち早く都心や郊外など国の隅々に送り込む事ができる」
万一の際の防衛システムの一環だと説き、現実世界のアウトバーンなどの実例を交えて説明すると、理解力の早いレーアが「凄いわね」と感嘆する。
「もしも隣国と戦になっても、複数の機動甲冑を城下から国境まで、僅か1日で送り込むことができるのよね。だったら斥候さえ上手くできれば、国の奥まで引き入れることなく、いち早く迎撃をすることも可能ということよね」
「災害や事故が起きても迅速に対応ができるし、レーアの言うような事態でも対処が可能。だから、もしどこかの国がちょっかいをかけてきても、手痛いしっぺ返しを食らうだけ。それでナの国に手を出すのを思い留まらすことができれば、整備した甲斐があるということだな」
若干物騒なレーアの解釈に「守り重視なんだからな」とクギを刺すが、果たしてどこまで守ってくれるのやら。
「強い相手にケンカを挑むやつはいない。それが翔太さまの言う抑止力ですね」
「ちょっと違う気もするけど……概ね、合っているかな」
クリスもなかなか物騒。というか、この世界ではまだ穏便なほうなのか? 異世界怖ぇーな。
それはそれとして……
「馬車の乗り心地から話が大きく脱線していないか?」
そもそも「最近わたしを蔑ろにしている」という不満から始まったお出かけである。城下での爆食いはある意味予想の範囲内だったが、郊外に出ての道路普請の話が不満解消になるのか?
どうなんだろうと杞憂する翔太に対して、レーアの答えは想像の斜め上だった。
「全然。これからのことを考えると、むしろ「良くやってくれたわ」と称賛するほどよ」
満面の笑みで手放しで評価し、クリスも「姫さまは本当に喜んでおいでです」とレーアの言葉にウソ偽りがないと保証する。
「まあ、そう言ってもらえると嬉しいけど……」
災害復旧で〝せっかくの機動甲冑、何故使わない?〟のついで的なノリで始めた道路普請なんだけど、どこがレーアの琴線に触れたのだ? 首を傾げる翔太にクリスがクイクイと指を立て「姫さまがまた自身の機動甲冑にお乗りになるからですよ」と大っぴらに耳打ちする。
「なるほど。お転婆が再燃したのか」
納得する翔太の横でクリスが「うん、うん」と頷き、対照的にレーアが「なっ!」と絶句しながら顔を真っ赤に火照らす。
「ちょっと、クリス! アンタ。何、バラしてるのよ!」
守秘義務を違反したとクリスを叱責するが、叱られた当人は「何を仰いますやら」と澄まし顔。
「今日のお出かけはそのための魔晶石の買い付け。それを当の翔太さまと一緒に行くのだから、もはやバラしているのと同じこと。早いか遅いかだけではないですか」
性格なんぞ今さら隠せるものでもないでしょうにとまで言われて、ぐうの音も出ずに唸っている。
「確かに今さらだな」
余計な一言を口にして、翔太はレーアから本気のグーパンチを浴びされる。
口は禍の元ということを実地に学習した翔太であった。
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