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デート!


 いつものように翔太が異世界で目を覚ますと、町娘姿に扮したレーアが眉間に深いシワを刻みながら、両腕を汲んで仁王立ちをしていた。


「遅い!」


 頭ごなしに文句を言うや「今日は出かけるのだから、もっと早くコッチの世界に来なさい」と理不尽極まりない要求。


「向こうの世界で寝ないとコッチには来れないのだから、そんなタイミングよく来ることなんて出来るか!」


 床に入る時間はまだしも、寝入る時間などコントロール不可能。ムリを言うなと反論したが、レーアは「うっさい!」と一蹴。


「出来る出来ないじゃなく、やるの!」


 弁明を一切聞くことなく、ただひたすら命令するのみ。


「何だよ。このワガママ娘は?」


 困り果てて侍女のクリスに視線をやると、秒で首を左右に振って「期待には沿えない」の意思表示。


「姫さまの命です。従ってください」


 その上でクリスもレーアを全肯定。どこまでも理不尽に出来ていた。


「て言うか、いきなり何なんだよ?」


「最近翔太は、わたしを蔑ろにしているわね?」


「はぁ?」


「だから、最近わたしを蔑ろにしているでしょう!」


 いや、ソレ叫ぶようなことか? 

 というか、オレこの国に相当ボランティアをしているぞ。


「流れた橋の修繕から街道整備の提案まで、めちゃくちゃ尽くしていると思うけど?」


 翔太提案の機動甲冑を利用したインフラ整備は急ピッチでナの国に行き渡り、それこそ奇跡というべきレベルで国力は増している。

 以前の小さいながらも農商のバランスが取れた国という評価が、今や小さな大国という評価にジョブチェンジするのも時間な問題だろうというほどの発展ぶり。ソレもコレも翔太の助言があっての賜物。感謝されても文句を言われる筋合いなどどこにもない。

 しかし……


「それがどうしたの?」


「へっ」


「国のためだろうが何だろうが、ここ最近わたしは何処にも出かけていないのよ!」


 そんなのは関係ないとばかりに、レーアが唇を尖らして不満を口にする。訊けばネトの大河が増水して橋が流されて以降、外に出るのは危険だからという理由で、パーセルから外出禁止令を課せられたのだそうだ。


「城という名の牢獄に繋がれて何日経ったことやら。退屈で退屈で気が狂いそうなのよ」


 フラストレーションが限界まで溜まっているのだろう、頭を掻きむしらんばかりに揺らしながらレーアが「キーィ」と唸る。

 元々破天荒でアクティブな少女だ、半ば軟禁状態で館に引き留められるのは苦痛なのだろう。だからといって不満の矛先をこちらに求められても困るのだが、レーアは翔太にストレス一切合切をぶちまける気満々。


「だから、わたしを外に連れて行きなさい! これは命令よ!」


 命令というかレーアの強引すぎる押しに負けて、翔太は渋々「はい」と承諾するのだった。






「脅迫する勢いで「お出かけ」を懇願するから城から出てきたけど……レーアは何処に行きたいんだ?」


 城から城下街へと下る道すがら尋ねてみると、レーアから返ってきた答えは「別に」とまさかの目的地なし。


「どこに行くかは、ホストである翔太が決めるべきでしょう」


 それどころか行先もプランも全部翔太に丸投げという、言い出しっぺにあるまじき行為に出たのである。


「何故そうなる!」


 当然翔太は反発するが、レーアから「アンタは男なんだから、行先くらい決めて当然」とプランニングは男の仕事だと強弁。


「そうですねー。こういうことは殿方が行ってこその甲斐性ですし、翔太さまの男気をあげる又とない機会だと思いますが?」


 さらにはクリスまでもが、これはチャンスだと主張する始末。まあこの世界も含めて世間一般には、デートのエスコートは男が主体になるほうがスマートなのだろう、言わんとすることは恋愛ごとに疎い翔太でも分からぬではない。

 だがしかし!


「城下だろうが郊外だろうが、オレにとってナの国はアウェーだぞ! 見るところ食べるところ、どこに行くにしたってオマエ等のほうが詳しいだろうに」


 異邦人、エトランジェたる翔太がナの国に疎いのは自明の理。対してレーアはナの国の王女。王族だからといって国の隅々まで知っている訳ではないだろうが、少なくとも翔太よりは遥かに詳しいはず。

 指摘すれば考える素振りもなく「まあ、そうね」と即答。


「姫さまは事あるごとに〝視察〟と称して城下の出かけてますからね。下手をすればその町や村の長老よりも詳しく知っているかと」


 クリスが追加情報を付け加えると「余計なことは言わなくても良いの!」とレーアが小声で唸るが、さんざんレーアに引っ張りまわされた翔太にしてみれば〝今さら〟感もひとしお。

 もっとも声に出したらロクな結果にならないことも学習したので、空気を読んで要らぬことを口走ったりはしない。


「そうだろう、そうだろう。だからレーアのうっぷんが溜まってるのなら、解消できそうな所へ行けばいいんだ。オレはそのための護衛の役割、ガイドなんかできないんだから、そう考えたほうが万事うまくいく」


 言葉選びを慎重に行いレーアに「好きなことをすればいい」と囁くと、満更でもなかったようで「そうね。今日は護衛がいるのだからノビノビできるわね」と機嫌よく語る。


「だったら街で好きなだけ買い食いをして、それから翔太が関わったネトの橋と街道も見てみたいわ!」


「それくらいならお安い御用」


 瞳をキラキラさせて要望を言うレーアに翔太は安請け合いするが、見込みが甘かったと後悔するのはその後のこと。






 レーアのお転婆を甘く考えていた翔太は、さっそく破天荒の洗礼を浴びることとなる。


「ちょ、オマエ! 仮にも王女が、どんだけ食うんだよ!」


 街に出たとたん、それまでの枷が外れたようにレーアが一直線に屋台に駆け込むと「串焼き5本! エールも付けて」と、どこのオヤジだ! と言いたくなるようなオーダー。もちろんそんなのは序の口で肉巻きからシチューは言わずもがな、あげくデザートのクレープに至るまでオマエの胃袋はブラックホールか? と思える勢いで次々と消えていく。

 それでさっきのセリフに戻るのだが、レーアの返事は「満足するまで!」とどこまでも欲望に忠実。

 結果、僅か30分余りで「満腹~っ♪ 満足~っ♪」と花丸の笑顔でお腹をさすっていた。

 仕草こそ可愛いがやっていることはオヤジそのもの。見かねたクリスから「もう少し慎みを持ってくださいませ」と小言が出るのもさもありなん。所作に王女の品格など欠片もなく、そこいらのクソガキと何ら変わらないのだから。


「はしゃぐ気持ちは分かりますが、王女というお立場をお忘れなく」


 ここまではっきりとクギを刺しているにもかかわらず、レーアが「ムリ!」と即答するのだから、クリスが頭を抱えるのも分かるというもの。


「屋台があって料理がある。これは食べなきゃダメだし、料理がわたしを呼んでいるの」


「それは空耳だと思うけど?」


 翔太のツッコミにも「そんなことないわ!」と反論。


「串焼きから「姫さま、いかがです?」と声がかかっているでしょう? つまり、串焼きがわたしを呼んだのよ」


 謎のムチャ理論を展開するが、そんな訳があるか!


「呼んでいたのは屋台のオヤジだろう!」


 ツッコミを入れるのは、もはや今さらを通り越してデフォルト? 膨れたレーアのお腹と反比例するように翔太のライフが削られていくのは半ば必然だったのだろう。


「衣食足りて礼節を知るってのは至言だな」


 しみじみそう思う翔太であった。

 


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