機動甲冑 八面六臂
ネト河架橋の橋台復旧に翔太の進言した機動甲冑を投入したところ、その能力は現場に居合わせた誰もが度肝を抜かれるほどに圧倒的だった。
「早い、早すぎる! 2日とかからず河の水を堰き止めるなど、ネトの大河がまるで小川のような扱いでは無いか!」
「堰き止めもさることながら、石積みの仕上がりが尋常じゃない。それが僅か1日で済んだのだぞ、いったい誰が信じるのだ?」
何しろ人海戦術に頼り大量の人夫を使って数ヶ月を要する橋の復旧が僅か3日で終わったのだ。圧倒的などという言葉では言い表せないほどの差を見せつけたのである。
先ず河水の堰き止め。
崩落した橋台を撤去し、新たな橋台の石組を作る上でも、簡易な堤を造って周囲を川水から切り離さなくてはならない。だがそれは、言うわ易しの大工事。
橋台付近の一部分だけとはいえ、濁流となった大河が対象となれば容易ではない。大量の土砂と人夫で数ヶ月がかりで行うのが常だ。
ところが……
「この麻袋に砂を詰め込むので?」
「そうだ。中にどんな砂を入れても構わないが、数は大量に作ってくれ」
訝る土木職人に向かって、翔太は山のように用意した座布団大の穀物用の麻袋に砂を詰めて〝土嚢袋〟を作れと指示を出したのだ。
「そんなやり方をしていたら、そりゃ時間もかかるだろう。ただ単に河に砂を撒いていたんでは、撒く度に水に流されてしまって効率が悪いんだ」
そう。
堤の造成に時間がかかる最大の理由は、この効率の悪さにあった。
凡その〝あたり〟を決めたらその周囲に石を投げ入れ、次いで隙間を埋めるべく土砂を撒いていくという原始的な方法で、計画性も何もない。
少し考えれば分かるが最初に投入する石の類はともかく、常に水が流れている河川に土砂を撒いたらその大半は下流に押し流されていくだけ。ましてや増水し半ば濁流と化しているところに投げ入れた土砂など残るほうが奇跡だろう。
レオンハルトから橋梁復旧の流れの説明を受け、工事を取り仕切る職人頭から実際の手順を聞いた途端「何て非効率な」と呆れ、土木には素人ながらも工期を詰める切り札として土嚢袋の投入を提案したのである。
その効果は歴然。
「河への投げ入れは機動甲冑が担う。みんなは土嚢に土をじゃんじゃん詰め込んでくれ」
翔太は引き連れた人夫に檄を飛ばし、ひたすら土嚢袋を作らせることに専念させると、振り向きざまにガイアールたち筆頭騎士に「次いでオレたちだが」と別の仕事を割り振る。
「橋台から10メートル。じゃなかった、10メトルほど離れたところを中心に、人夫連中が作った土嚢袋を積み上げて仮堤を造るんだ」
「おいおい。石を積まないのか?」
従来の方法を使わないのかと尋ねるガイアールを「異物が入ると脆くなるから」と突っぱねると、河底に土嚢を山形に投げ入れるように指示をする。
人手だと途方に暮れる量だが機動甲冑の有り余る力ならば土嚢を積むことなど造作ない。
その結果。
「これは、信じられないくらいに効率的だ」
工学的なことに知見の有るレオンハルトが「信じられない」と感嘆する。
機動甲冑を投入することで作業開始から僅か2日で、土嚢で簡易的に積み上げたものながらも、流出した橋台跡を囲むように仮設の堤が出来あがったのである。
次いで行われた橋台の復旧でも、目を見張るものがあった。
ネト河に架かる橋梁の橋台は頑丈な石積みではあるが、その構造は日本の石垣でいうところの〝野積み〟に近いモノであった。
形も大きさも異なる天然の石を適時組み合わせて、パズルのように積み上げていく。それはそれで高い技術が必要だろうが、増水した濁流の前には野積みの石ではやはり脆い。
「おそらくは河の流れが一気に強まって、橋台の積み石を崩したのだろう」
周囲の地形を観察しながらレオンハルトが崩落の推論を述べるが、今しなければならないことは原因の究明ではない。
「それはまた後で調べてもらうとして、先ずは橋台の復旧だな」
周囲を堤で覆って基礎が露になった橋台を見ながら、翔太はレオンハルトに再建プランを出せと促す。
レオンハルトも同じ考えも持っていたのだろう。周囲を見回し「そうさのう……」と少し考えると、
「街道を早く直すため取り急ぎなら原状復帰でも良いのだが、橋台のあるここは河の流れが激しくなる場所でもある。また長雨になったら崩されて元の木阿弥は避けたいよなぁ」ここまで崩れてしまったのなら、石の詰み方も根本的に変えて、丈夫なものにした方が良かろう」
石を四角形で形を統一しておけば隙間なく積み上げることだ出来て、此度のような河の増水や地震などの自然災害にも強い。折角だからそこまでやろうとレオンハルトが提案したのだ。
「そりゃ、せっかくだからね。出来ることならやったほうが良いとは思うけど……」
翔太としても否はないが、それをするには越えなければならない大きなハードルがある。
「そんな石材が何処にあるんだ?」
石を積むこと自体は機動甲冑の持つパワーで大幅短縮できるだろうが、それもこれも積み石という素材があってこそ。石場から切り出してくるような時間の余裕などあろう筈もない。
翔太の当然な指摘をすると、レオンハルトが「ううむ」と唸る。
「いくら復旧を急ぐとはいえ、少しの増水ですぐに崩れるような石積みには抵抗がなあ……」
技術者の矜持からか、言いよどむレオンハルトに「石は何とかなるだろう」と助け舟を出したのは、意外にも脳筋騎士のマニッシュだった。
「事情が事情だ。城に保管している石材と城下に下る道の石を使えば良い、急を要すること故お館さまも否とは言うまい」
心配無用とばかりにドンと胸を叩いたのである。
「しかし、それでは形がまばら。形が歪なままでは、前の橋台と変わらぬぞ?」
良案と認めつつもレオンハルトが形状不一致の懸念を示すが、マニッシュの提案はブレることなく「心配するな」と力強い。
「何のための機動甲冑だ? 俺たちが刀でぶっ叩けば石くらい簡単に切れるだろう。形を揃えるなんざ朝飯前だ」
安請け合いまる出しながら、やってみたら言葉通り。脳筋騎士のマニッシュとオルティガイアが奇声を発しながら石を叩き割り、必要な石材を驚くべき短時間で揃わせたのであった。
「スゴッ……」
これには提案した翔太までもが驚いた。橋のたもとにはブロック状に切り揃えられた石材が、見事な小山を形成しているのだ。
「積み上げる順番はレオンハルト。オマエが指示を出せ」
「ああ。ここまでお膳立てされれば、昼寝しながらでも指揮できる」
その言葉に嘘はなく、ぬかるんだ足場での石積みも、機動甲冑にかかれば何のその。
数十人の人夫が足場を組みながら人海戦術で積み上げていくところを機動甲冑の桁外れな力が存分に発揮され、4騎の機動甲冑がたった1日ですべての作業を終わらせたのであった。
「なるほど。機動甲冑にはまだまだ力を発揮させる場があるのだな」
現場に居合わせた筆頭騎士らは実体験から、機動甲冑の底知れぬポテンシャルを確かに感じ取るのだった。
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