災害派遣へのプレゼン
1話掲載が抜けてた。
我ながら管理がずさんで申し訳ないです。
「たった今しがた橋が流されたようなところに、生身の人夫たちを復旧工事に向かわせるのは、危険を通り越して無謀だって。それならば機動甲冑で状況の確認をして、その上で復旧工事に投入したらどうだろう」
2次災害を防ぐための提案。
翔太の放った言葉に騎士連中は言うに及ばず、国王パーセルも王女レーアも、果ては技術指南に就いたばかりのレオンハルトまでもが目がテンになる。
災害現場に機動甲冑を持ち込むという翔太の提案は、ナの国の重臣たちには奇想天外を通り越して非常識に映ったようだ。
「堤が切れたかも知れぬような場に機動甲冑を向かわせるなど。キサマ! 何を考えている!」
機動甲冑の提案をした直後。
詳細を言うよりも早く、ガイアールが翔太の案を「ふざけるな!」とばかりに噛み付いてきた。
「戦での策ならばいざ知らず、橋が流され長雨で街道が寸断されている場に貴重な機動甲冑を向かわせるなど。もしもあふれ出る濁流に押されて、大事な機動甲冑が流されてしまったらどうするのだ!」
虎の子である最強兵器を濁流で橋が流され堤が決壊するかも知れない危険な場所に赴かせるなど、言語道断とばかりに激しく非難する。
非難するのはガイアールだけでない。他の重臣たちも同じく「非常識も甚だしい」と罵るばかり。
さらには技術指南に就いたレオンハルトもまた「そんな非常識な使いかたは聞いたことがない」と翔太の意見に懐疑的。
「機動甲冑は戦場での活躍を目的として創った武装。戦いにおいては同じ機動甲冑以外は敵なしだと自負するが、氾濫する河のような自然災害と向き合って使い物になるとは到底思えん。そこの騎士が申すように貴重な財産をドブに捨てるだけではないか?」
適材適所ではないが用途的に不向きな場所に機動甲冑を投入しても意味がないと翔太の意見を否定。足場のおぼつかない場所ゆえに最悪の場合、機体の破損や喪失に繋がりかねない懸念まで指摘する。
理詰めで反対するのはレオンハルトだけではない。翔太の見識に期待すると言ったレーアですら「正気の沙汰じゃないわ」とまで言うあり様。
「刀で畑が耕せないように、機動甲冑が普請の場で役に立たないのは、誰が見ても当たり前の事よ!」
この世界での固定概念なのか、機動甲冑は武具だから工事現場では使いものにならないと主張。ガイアールが声高に「その通り!」と擁護し、他の重臣たちも同意するように頷いている。
「橋の復旧と街道の確保はナの国の大事。荒れた河が相手となると難事にもなるか……集められるだけの人夫を普請に充てよ」
場の空気を読むようにパーセルが命令をだそうとするが、翔太は「待ってくれ!」と話を途中で遮る。どこからか「不敬である!」との怒声も聞こえるが、人命軽視な命令を止めるほうがもっと大事。
「文句があるなら、オレの話を全部聞き終わってからにしてくれ」
「そこまで自信があるのか?」
問い返すパーセルに「もちろん」と答える。
さあ、ここからが本当のプレゼンだ。
気合を入れ直して、もう一度翔太は持論を語りだす。
「刀で畑が耕すのがムリなのは、オレもその通りだと思う」
適材適所を無視するような、そんな非現実的な提案をするつもりはない。
「分かっているじゃない」
やっと理解したかと安堵するレーアに「だから、刀以外の道具をもたせりゃ良いんだよ」と答える。
せっかく〝手が使える〟大型兵器があるのだ。刀から必要な〝道具〟に持ち替えれば適材として適所に投入ができるだろう。
翔太としては戦車の大砲を外してブルドーザーのように排土板を供えて使うようなイメージ。過去にそのような事例も星の数ほどあるのだが、重機どころかトラックすら存在しないナの国においては、思想の範疇にない世界では非常識な考え。
ホッとした顔は瞬く間に眉間に皺が寄る厳しい表情に変化する。
「翔太は自分が何を言っているのか分かっているの?」
遂には「文句は後から」を無視して、レーアが説教に乗り出す始末。
「良いこと、機動甲冑はとても高価な武器なの、それこそ僅か1騎でも小さな城なら建つくらいにね。そもそも筆頭騎士にしか機動甲冑を下賜していないのは、権威付けの意味合いもあるけど、誰でも彼でもおいそれと取り入れが出来ないからよ。そんな大事な機動甲冑を持ち出せると思って?」
無知を指摘するように「分かった?」と訊きながら懇々と諭すが、令和日本の価値観を持つ翔太からすれば、濁流に流されるかも知れない現場に無防備な人夫を派遣する方がむしろ言語道断。半ば「死ね」と命令しているようにしか思えない。
「いや。その方がおかしいだろう」
やり込めようとしたレーアに対して、人命軽視こそおかしいと逆に反論を始める。
「機動甲冑は壊れたら直せば良いけど、ヒトは死んだらそれっきりだぞ」
「えっ?」
令和日本の価値観で人命を説いたら、レーアの目がテンになった。
「それに機動甲冑はヒトより2回り大きくて力もあるから、杭打ちだろうが土嚢積みだろうが並みの作業者の倍以上の成果を発揮するだろう? 使わない手は無いと思うぞ」
土木機械の類がろくに無い、人海戦術が基本な世界に、パワードスーツを投入すれば劇的効果が期待できる。身体のサイズからしてヒトより大きいのだ、力ともなるとその比は10や20倍では聞くまい。
災害現場に重機を使う至極当たり前の事を言っただけなのに、コロンブスの卵を聞いたかのように誰もが驚いて目を見張る。
「戦で使う機動甲冑が、真にそのような事が出来るのか?」
信じられないと言う表情でパーセルが訊きなおすが、翔太からすれば発想に思い至らないほうがそれこそ信じられない。
「手と足があるんだ。ヒトがやれることは出来て当然」
キッパリと言い張る翔太に歓喜したパーセルが「おおっ」と唸るが、筆頭騎士たちの不満は今だ拭えていないよう。
「我ら騎士も機動甲冑も戦場で活躍してこそ真価が発揮されるのだ。そのような普請に使う愚弄は看破できん」
矜持が許さぬと反発するが、それこそ笑止。だったら自衛官や世界の軍隊は災害派遣に何故赴く。
「災害現場も戦場だ!」
力の限り咆えると、騎士たち全員が押し黙った。
「すごい力を発揮するんだろう? その代わりめちゃくちゃ高価なんだろう? だったら元を取るためにも、使える場所でガンガン使わないでどうする?」
だから躊躇なく使おうと言ったところ、レオンハルトが「いやはや、もっともだ」と感心したように手を叩く。
「私も戦で使う事を念頭に置いて機動甲冑を創ったが、言われてみればなるほど納得だ。馬や牛並みの力があり、自由に動く手があるから家畜など比較にならぬほど多様な作業が可能。戦以外も用途がごまんとあるのだな」
「言っただろう。これだって一種の戦いだ」
訂正を求めると「ああ、失敬」と素直に詫びる。
「生死を分けるかも知れぬ災害箇所。戦う相手が違うが、確かに戦場だな」
「ヒトだと見に行くのにキケンな場所でも行けるぞ」
偵察・斥候が可能なら、災害視察にも使えるというもの。
「ううむ。そんな使い方があるとは…… 正に目から鱗だ」
想定外の用途にレオンハルトが意表を突かれたと唸り、応用の広さを聞いたパーセルの決断は早かった。
「館にある全ての機動甲冑を向かわせよ! レオンハルト殿を将に、この件に限り筆頭騎士をショウタ殿が務めるのだ。国の一大事なれば直ちに任に就くように!」
城内にいる臣下に命を出し、翔太とレオンハルトに全権を移譲するや「お前たちも行け」と筆頭騎士4人にも出動を指示する。
「単純な頭数ではワの国に軍配が上がるのは致し方ない事。しかしより有効に機動甲冑を使い、その国力差を詰めることさ可能であろう。此度の災害は不幸であるが、またとない機会とも言えよう」
パーセルの鼓舞するような下命に筆頭騎士の4人が「承知!」と臣下の礼をとる。
これにより翔太とレオンハルトが加わった災害視察の一行は、橋が崩落した現場へと向かったのである。




