レオンハルトふたたび
見渡す限りの天空を黒い雲が深く立ち込み、真昼だというのに夕方のような薄暗さが辺り一面を覆いつくす。
「鬱陶しい空気だよな」
翔太の愚痴を助長するかのように、空から雨が延々と降り続いていた。
「本当にいつになったら降り止むのかしら?」
「まる3日降り続けですものね」
レーアが毒づくとクリスもまた相づちをうつ。
雨は一向に止む気配を見せず、レーアたちを半ば強制的に部屋に縛り付けているのだ。
気まぐれな天気が相手だ。1日くらいなら「ちょうど良い骨休め」と思うこともできる。好きでない刺繍に向き合うのも止む無しと思わぬでもない。
しかし3日も続けばフラストレーションも振り切る。
そもそもレーアは我慢強い性格では無いのだ。大人しくジッとなんか出来やしない。
「何日も雨が続くと身体が鈍るは確かだな」
フラストレーション云々はさておき、身体が錆び付くことには翔太も同意する。
稽古と違い訓練なので練兵場は閉じていないが、さすがに王女が雨の中で剣を振り回す訳にはいくまい。
翔太も仮そめの身体故に雨の中では余り使ってくれるなと注意されている。
濡れて壊れるようなものではないが、あとのメンテナンスが面倒だとのこと。
ならば無用な手間を避けるべく、大人しくするのが翔太の基本スタンス。
しかし身体を持て余しているのは激しく同意する訳で。
「いっその事、謁見の大広間で訓練が出来れば、まあまあ剣が振れるんだけどな」
城で一番広い部屋を稽古場に使えないかな? と考えてしまう。まあ、ムリだろうけど。
「槍とかを使うと、流石にマズイでしょうね」
翔太と同じ考えを持ったのか、レーアが「そうね」と少し考えた後にムリっぽそうだと答える。
まあ、そうだろう。
謁見の間は家臣を集めての謁見や論功賞詞、あるいは他国からなどの賓客を迎える場である。
城内でも一際豪華な装飾を施している部屋ともなると、刃物を振りかざすのがよろしく無いのは子どもでも解る。
「ちょっと言ってみただけだからな」
部外者の戯言レベルの思いつき。言うのはタダくらいの気持ちの発言だったのだが、何故かレーアは 「うーん」と唸ったまま思案を止めようとしない。
「訓練用の刃を潰した剣でも、勢いが余って調度類を壊しちゃうと、いくらわたしでも庇いきれないし」
いちばんヤバいのはレーア、オマエだ。というセリフは腹の中に仕舞って「確かにそうだ」と肩を竦めながら翔太も頷く。
結局泣く子と天気には勝てないのが分かっただけであった。
そんな非建設的……早い話がどーでもいいことを喋っていると、ドアが開いてクリスとは別の侍女がレーアの私室に入ってきた。
「失礼します。お館さまより姫さまとショウタ殿に召集の命がありました」
侍女が恭しく一礼すると、2人を大広間に連れてくるように命じられたとのこと。
「また、何かやらかしたのか?」
大広間に向かいながら、トラブルを引き起こした疑念をレーアに向けると「失礼ね」との文句が帰ってくる。
「ちゃんと引き際はわきまえているわよ」
「やらかすこと前提じゃないか」
ドヤ顔で胸を張るレーアに呆れる翔太に向かって、お付きのクリスは「これでも成長なされました」とため息をつきながらしみじみと語る。
「以前にはお転婆が過ぎて、御前会議一歩手前までに至った事もありましたから」
「はあ?」
何をどうしたら、そんな一大事になるんだ? それはそれで気になるが、翔太が詮索するよりも早く「知る必要なんかないわ!」とストップをかけられた。
そんなにスゴイことなのか? とクリスにアイコンタクトすると、間髪入れることなく深々と頭を垂れて頷いた。それも2回も。
「お察しください」
クリスが答えぬところを見ると、そうとうヤバい案件だったのだろう。ただ分かるのは首を突っ込まぬほうが吉、さわらぬ神に何とやらである。
「言っておくけど、一歩手前で〝未遂〟なんだからセーフよ、セーフ。事件にはなっていないわよ!」
「中身は知らんけど、間違いなくアウトだろう」
問題ないと喚くレーアに、もう手遅れだと断じる。
「親に諫められるどころか、断罪一歩手前までいった大ごとがノーカウントになんかなるか」
「ぶぅ」
拗ね顔が可愛かったが、可愛ければ赦す類いのモノじゃない。
さらに突っ込もうとしたが、結局この話はそこで有耶無耶に。玉座から国王のパーセルが「よく来た」と声をかけてきたのだ。
「貴公らを呼んだのは他でもない。会わせたい客人がおるのでな」
「わたしと」
「オレに?」
理由が分からず訝るレーアと翔太に、パーセルが上機嫌に「そうじゃ」と頷く。
「此度、わが国にとって有益なるものと縁を結ぶことができた。そヤツを紹介しようと思う」
勿体ぶりながらパーセルが手を広げた先にいたのは、痩身で見るからに神経質ぽい男の姿が大広間にあったのだ。
「レオンハルト!」
予期せぬ客人に驚くレーアに「コイツ、誰?」と訊くと「アンタなその身体を作ったヤツよ」と早口で捲し立てられた。
機動甲冑の発明者にして、翔太が今使っているヒトサイズの〝機動甲冑じゃない人形〟の製作者。ついでにいうとこの手の天才にありがちな、清々しいまでの生活破綻者だとレーアが手短に説明する。
聞けば聞くほど典型的なマッドサイエンティスト、これ以上ないほど国を始めとする組織とは相いれない人物だと確信する。
「そんなヤツが何故ここに?」
「知らないわよ! というか、出不精なアンタがウチで仕官するだなんて、どういう風の吹き回し?」
登城どころか外に出ること自体が珍しいのだろう。レーアがレオンハルトの登城を皮肉るが、当のレオパルトはどこ吹く風。
「用があるから来たまでだ」
偏屈な顔そのまに、知るかとばかりにソッポを向く。
「わたしに断りもなく?」
「そなたに断る理由がどこにあると?」
「もう! ああ言えばこう言う!」
馬耳東風なレオンハルトにレーアがキレて地団駄を踏む。というか、こんな関係でよくも交渉なんかできたな。
その事にむしろ驚きながら「話しが一向に進まない」と苦言を刺す。
「結局、俺たちを呼びつけた理由は何なのですか?」
翔太は自分の興味以外に関心のないレオンハルトと、ヒスを起こしてまともな会話ができないレーアを斬り捨てると、自分たちを呼びつけたパーセルに単刀直入に理由を尋ねた。
「それだがな」
今だ真横でギャアギャア言い合っているレーアに苦笑を浮かべると、パーセルが「些か間が抜けた場になったが、皆のモノ喜ぶが良い」と居ずまいを正し勿体つける。
「偉大なる発明家であり稀代の錬金術師でもあるレオンハルトが、わが国の技術指南に就いてくれると先ほど申し出てくれたのだ」
大広間全体に届くような大声を張りあげると、鼻の穴をムンすと広げてパーセルが大戦果だと自慢したのである。
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