姉弟子介入……茶々入れともいう
「翔太クンが引っ越しをしたのって、女の子のところでしょう?」
キレイなお姉さんに擬態する姉弟子が、翔太の引っ越し先をズバリ言い当てた。
「な、な、な、何故それを!」
「知っているのかって? それは私がキミの姉弟子だからね」
いや、それは理由にならないだろう!
この強かな姉弟子は〝美人〟という武器を最大限に使い、あっちこっちから情報をかき集めて大学内で見事な立ち回りを演じているのである。しかも面倒見がいいことから同性の敵も少なく、むしろ姉御肌でブイブイ言わせているとか?
早い話が「抗うだけムダ」という相手なのだ。
「もういいです。そのことについては聞いても徒労に終わるだけだし」
「うん。良く分かったわね」
「そりゃ、付き合いも長いですから」
いいようにオモチャにされたとは、思っていても口には出さない。口は禍の元なのだから。
「賢明な心掛けだ。無謀な挑戦は己を破滅に導くだけだからな。嵐をやり過ごすには頭を低くして耐えることだ」
ナイスアシストとばかりに道場主の周作が割って入ってくるが、残念ながら彼は場の空気をまるっきり読んでいなかった。
結果。口は禍の元という翔太の懸念を、身を持って体験することとなる。
「お父さんは黙っていて!」
知恵に一喝されて「はい」と周作がすごすご引き下がる。いったい何をしにしゃしゃり出たのだろう。というか、道場以外での埼玉家のヒエラルキーが痛いほど良く分かっただけのような気がする。
周作によって引っ掻き回されてしまったが、それで有耶無耶にしてくれるほど知恵は甘くはない。
下手な下策を打つより正攻法。翔太は「あー、それで」と頭を抱えながら改めて知恵に尋ねる。
「引っ越しの情報を知って、知恵さんはオレから何を強請ろうかと?」
翔太の弱みを握って何を強請りたいのかは分からないが、この愉快犯は状況を楽しんでいることだけは間違いない。能力的に勝ち目がない以上、不本意ながら知恵が知りたい事がらの一部を開示して、お茶を濁す以外にやり過ごす方策はないだろう。
そう思って訊いてみたら「強請るだなんて失敬ね」と唇を尖らされた。
「お姉さんとしては、せっかく翔太クンに春が来たんだから、全力で応援してあげようと思ったのに」
悲しそうに顔を覆って「しくしく」と泣き真似をする。もっとも、しくしくの発音が明瞭かつしっかりなので、どこまで本気なのか分かったものではないが。
「あんなに素直で良い子だった翔太クンはいったい何処に行ってしまったの?」
「何処にって? オレは何も変わっていないけど」
「ウソよ!」
涙声でキッと睨みつける。
「出会った頃の翔太クンは、こんな捻くれた高校生じゃなかったわ。もっとキラキラした瞳をしていて「知恵姉さん」て慕っていた初々しい少年よ」
しまいには記憶を捏造する始末。ここまでくると「好きにしてください」としか言いようがなく、無条件降伏を受諾するに等しかった。
そして彼女が勝ち取った成果は「翔太クンの服を見立てに、買い物に行くわよ」であった。
さらに付け加えられたセリフがコレ。
「翔太クンたら顔はそこそこなのに、服装のセンスは壊滅的に悪いんだもの。せっかく彼女ができたのに、身だしなみがそんなのだと嫌われちゃうわよ」
翔太の上着の袖を摘まんで、知恵がブーブーと言いたい放題に批評をするが、余計なお世話だ!
……と、言えたらどんなにスッキリするだろうか。
言われるままに連れ出されて「そんな訳で翔太クンの服を見立てるわよ」と出かけてきたのは、郊外のショッピングモール。
……の、隣にあるワークショップだった。
「ええと、知恵さん」
「なーに?」
「服選びにお出かけしたのに、何故にワークショップにオレたちがいる訳?」
「そりゃ、服を買うからでしょう」
知恵がきっぱりと言い切るが「だから、それが何故にワークショップなんですか?」と声を大にして訊きたい。
服飾関係ならば買うにせよ見立てるだけにせよ、専門店かデパートやスーパーの衣料コーナーに行くのが一般的。スポーツ用品店やアウトドアショップなどの衣料というニッチな選択肢もあるにはあるが、この場合は半ば決め打ちした特殊な事例だろう。
翔太の質問に
ワゴンに山積みしている機能性下着を手に取りながら知恵が「そりゃ、安いからよ」と即答。理由を説明するとばかりに、機能性下着の隣に陳列してある靴下を手に取ると「ほら、見て」とプライスタグを翔太に指し示す。
「この靴下なんて生地と縫製はしっかりしているのに、お値段がスーパーの衣類コーナーより2割以上も安いわ。いっぱい服を買うんだから、少しでもお安い店で調達しないとね」
と、理由は如何にも合理的。
財布のヒモに余裕のない高校生、ましてやひとり暮らしの身の上ではブランド品など夢のまた夢。服を買うにもバリエーションを持たすために着回しは絶対条件で、なおかつ調達先も比較的リーズナブルな店でなければならない。
知恵が選んだこの店は品ぞろえが豊富で、そのどれもがお手頃価格と、なるほど金銭面では合格点に値する。
しかし、しかしだ! 品ぞろえの大半はガテン系の現場作業に適した衣装に著しく偏っている。
「いくら安くてもニッカポッカや安全靴なんかは遠慮します」
ガテン系ファッションにコーディネートされた姿を想像して盛大に首を振ると「お茶目な妄想は止めて」と笑われた。
「まったく、いつの時代の発想なの? 今どきのワークショップはお値段手ごろで、センスと機能性のバランスが取れた普段着がいっぱいあるわよ」
「マジで?」
驚いて訊き返すと「当たり前でしょう」と呆れられ、知恵が「ちゃんと証拠を見せてあげるわ」と翔太の腕を掴んで引っ張っていく。
赤白黒に紫と7色に映えるニッカポッカがディスプレーしてある店頭から奥に進むと、そこはユニ〇ロやしま〇らに引けを取らないカジュアル衣料が並んだ一角。
「どうよ」
単に店をチョイスしただけなのに、胸を逸らすようにふんぞり返って知恵がドヤ顔でキメてくる。
「ガテン色が欠片もない」
陳列こそディスカウント店ぽくファストファッション店のように洗練されていないが、商品の質は高そうで決して劣ったものではない。さらに値段は同等かむしろリーズナブルといっても良く、隠れたお買い得店といっても差支えなかろう。
「ここで選べば問題ないでしょう。何なら今からコーディネートしてあげるわよ」
バッグから財布を取り出すと「軍資金もたんまりあるし」と、お札がぎっしり詰まった中身を見せつけながらほくそ笑む。
「どんだけ持ってきてるんです!」
銀行口座でしか見たことがない札の塊。少なく見積もっても平均的サラリーマンの月収程度は入っていそう。にもかかわらず「全財産じゃないわよ」とサラリと言ってのける。
「翔太クンの月謝を資産運用したら笑っちゃうくらいの運用益が出たからね。ま、利益還元ということでお姉さんに任せてみなさい」
両手をわさわさしながら品定め。
もっとも男の着せ替え人形など見ても楽しくないので、この先は割愛することと相成った。
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