謁見……だよなぁ?
ナの国の城には公式な謁見に多くの家臣を侍らす〝広間〟の他に、重臣たちのみで謀や政を執り行う会議室とも呼べるような小部屋がいくつかある。
その中のひとつ。極秘裏に他国の使者や間諜と密談するための部屋に、翔太は謁見のために呼び出されていた。
「貴公が我が娘レーアに仕えることになったという『カノウ・ショウタ』に相違ないか?」
パーセルの問いに翔太は「その通りです」と答え、西洋寄りの文化ゆえに「ちなみに」と注釈を添えるのも忘れない。
「オレの国では家名が前で名前が後ろになです。もっとも先祖代々由緒正しい庶民だから、家名で呼ばれるより『翔太』と名前で呼んでくれるほうが有難いです」
翔太の申し出にパーセルも「左様か」と頷く。いくら精神だけの転移だとはいえ、オフィシャルだろうが何だろうが堅苦しい苗字呼ばれなど御免被る。
「ではショウタに改めて申し付ける。娘が見出した恩義に報いるよう、レーアの盾となり矛となって仕えるのだ」
パーセルが重々しく職責を告げる。
事前にレーアから聞いた通りだと、ここで片膝をついて頭を垂れ「はい」と頷けば謁見は終了する。翔太としては待遇が変わるでもなく、堅苦しいことはさっさと終わらせたいので言われたとおりにするつもりだった。
ところが、それを良しとしない御仁がいた。
重臣として翔太の謁見に臨席した、筆頭騎士のひとりデーディリヒであった。
「お待ちください!」
膝をついて返事をするだけだった翔太の前に立ちふさがり異議を申し立てる。
「如何にレーア姫が直々に見出したとはいえ、この者はどこの馬の骨とも分からぬ出自の曖昧な輩。どのような思惑があるにせよ、下級歩兵も経ずににいきなり姫さま直臣のはどうかと存じますが?」
意見具申の体を取っているが、明らかな不満。そして不審がそこにあった。
言われた当人である翔太は、経緯を鑑みるに「だろうな」と彼の主張が分からなくもないと思ったが、メンツをつぶされた格好のレーアは目が吊り上がっての不機嫌モード。
「デーディリヒは、このわたしが直々に召し上げた翔太に不満があると申すのか?」
デーディリヒを睨みつけながら、支持しない理由を問いただす。
「そりゃ胡散くさいからだ」
デーディリヒの尻馬に乗るように、脳筋のマニッシュとオルティガルムも否定に追随する。
「お館さま直々の謁見だというのに仮面と兜を被ったまま。そんな無礼な恰好で臨む輩が姫さま直臣など、今の今まで見たことも聞いたこともない!」
理由を訊けば納得の内容ではあるが、だからと言って素直に同意するわけにもいかない。何せこちらには、仮面を脱げない事情があるのだ。
「子供のころ大病を患って、顔に見苦しい痘痕が残っちまったんだ。却って不快感を与えてしまうので、素顔を晒すのはご勘弁いただきたい。これはレーア姫にも事情を話して、お許しを得ている事柄なんだが」
事前に打ち合わせた〝プロフィール〟を語って、仮面を被っての臨席は許可を得ていると説明する。人形チックなこの顔は人工ゆえの所産、仮面でも被らないと誤魔化しようがない。
「ええ、その通りよ。わたしが「被るように」と命じたし、お父さまにもその旨を奏上しているわ」
レーアが翔太の言を援護し、パーセルも「その件は儂も。聞いておる」と追随した。
「故に、その指摘は見当違いも甚だしい。文句を言うならちゃんと調べてからしな」
翔太が反論すると、脳筋2人が茹でだこのように顔を真っ赤にしながら歯切りする。
一方、デーディリヒは「なるほど」と独り言ちただけで顔色一つ変えていない。
「仮面の件はそれで納得するとしても、出自の件はまだ質されていませんが?」
仮面など些事に過ぎぬと言わんばかりに、最初の質問に終始する。
「べつにオレは騎士になるんじゃないんだけどな……」
困ったもんだと呟きながら頬を掻くと、デーディリヒが「そのような詭弁は通用しない」と強弁。翔太の「詭弁も何も、本当にそんな気なんかないのに」を黙殺する。
「姫さまに仕えるということは、〝騎士〟の名を冠せようがしまいが役割としては同じこと」
中身は一緒だと言い張る。
しかし、デーディリヒが皆まで言い切ることはなかった。
その前にレーアが「黙りなさい!」一喝したのだ。
「ここで出自がどうのこうのと言ったら、また話が堂々巡りよ」
暗に謁見の場で「ムダな議論で引っかき回すな」と仄めかすと、その辺の空気を読んだのかガイアールが「姫さまの仰る通り、きゃつが直参であるならば、出自の良し悪しなど真に些事だな」とレーア寄りの発言をする。
「どういうことだ?」
食って掛かるデーディリヒにガイアールが「どうもこうも」と肩を竦める。
「彼の者は姫さまが直接召し抱えたのであろう? ならばきゃつを疑うのは姫さまを疑うのも同義であり、臣下のとるべき道ではない。相応しいか否かを問うのであれば、姫さまを任せるに値するか、その強さを推し量ることのほうが遥かに大事」
出自云々ではなく力量こそ大事と理性的に説いた。
と、一見すれば分別あるようだが、何のことはない。ガイアールもやはり脳筋体質であり、オルティガイムやマニッシュより幾分知恵が回るだけ。
「出自の貴賤などといった形式的なものよりも、ショウタとやらの剣の手並みを見て判断すべきだろう」
「こいつ等、揃いも揃って脳筋か!」
お約束のような展開に翔太は天を仰ぐが、ガイアールが意に介すような素振りは一切ない。
「武の臣下ならば、刀術の優劣を確認するのは当然であろう」
むしろ剣技の披露に身を乗り出すような勢い。
結局のところガイアールもバトルジャンキーでしかなく、ご多分に漏れず〝拳で語り合う〟以外の術は持っていないのであった。
それに対して頭を抱えたくなるのは、相手を務めることを強要された翔太のほう。
「何かにつけて勝負するのは、もう勘弁してくれ」
好きで剣術は習っているが、争いごとを好んだりケンカ好きでは断じてない。当然ながらバトルジャンキーとは相いれる訳がなく、謁見の場を台無しにしたとパーセルが激怒するのを期待したのに「儂もショウタとやらの剣の実力を知りたい」とむしろ乗り気な構え。
翔太にしたら「パーセル。オマエもか!」な気分。
「娘からは類い稀なる剣の使い手だとは聞いてはおるが、やはり実際にこの目で見てみないとな」
せっかくの機会だから、たっぷりと見せてもらうと宣言され、流されるまま御前試合の様相と相成ったのである。
どうしてこうなった?
「やれやれ。オレとしては文明人らしく〝話し合い〟で解決したかったんだけどなあ」
困ったもんだと肩を竦める翔太に「事ここに至っちゃムリでしょう。アイツ等は剣技が優れていたら敬意を表すから、見せつけたほうが早く馴染めるかもね」と達観したレーアが答える。
「結局、試合をするしかないのか?」
「そういうこと」
諦めて刃挽きした訓練用の剣を受け取ると「これで納得してくれよ」とデーディリヒに念を押す。
「オレと互角以上に亘り合えたら認めてやるとも」
翔太の売り言葉にデーディリヒが買い言葉で受けて立つ。
唐突に始まった模擬試合は両者引き分けで幕を閉じたのであった。
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