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仮面の男、爆誕

「ヒトを模した人形とはいえ、この世界で初めて〝まとも〟な身体になったな」


 男性体に意識を移された早々。

 翔太は感慨深げに新たに得た己が体を撫でまわる。


 思えばこの世界に召喚されて最初に宛がわれた身体が、機動甲冑という謂わばパワードスーツのようなモノ。次いで街中を出歩けるようにと、状況に応じて侍女の身体を〝共有〟させられた。そして最後に「おもしろいから」という理由だけで女性型の〝機動甲冑じゃない人形〟に押し込められたのだ。いい加減にしろと怒りを顕にしても、世間は許してくれるだろう。

 その後なんだかんだと紆余曲折があり、国王パーセルとの謁見を条件に、やっとのこと男性型の〝機動甲冑じゃない人形〟を宛がわれたのであった。


 まっとうな身体で機嫌の良い翔太とは対照的に、身体を与えた側であるレーアの表情は今ひとつ冴えない。


「四肢というか身体の動きは翔太がしているだけにまあ自然だけど、顔の表情にはどうしても〝人形臭さ〟が出てしまうわね」


「そうなのか?」


 ピンとこない翔太の顔にレーアが指をビシッと突きつけると「そこよ、そこ」だと断言する。


「喋りに合わせて口は動いているから大声を出さなきゃ大丈夫だろうけど、目は瞬きはおろか瞳が欠片も動いていない。いくら創りが精巧でも人形だと判ってしまうというか、勝手に動く人形なので気味が悪く思えちゃうわ」


「何気にえげつないことを言うな」


 ヒトにその人形の身体を押し付けてこの言い分である。えげつないにも程があるが、確かに目の表情が固定がゆえに人形臭いのは事実であった。


「それなら瞳と瞼を動かせるようにすればいいだろう」


 そうすれば万事解決だと翔太は主張するが、言った傍からレーアが速攻で「ムリね」と一蹴。


「レオンハルトも精々努力してくれたけれど、口を動かせるようにするのがやっとだったようで、瞳を動かすのはムリだと言っていたわ」


 魔晶石を媒体としてビタリーという謎物質で動くだけあって、特に動力源などがある訳ではないのだが、目や口が稼働可能にするにはパーツが別部品になっている必要があるそうだ。

 製作したレオンハルト曰く、比較的大きな顎関節は何とかなったそうだが、瞳や瞼の筋肉は構造が複雑すぎて再現が不可能だったとのこと。


「遠目からなら誤魔化せるでしょうけど、お父さまの間近で謁見ともなると色々と支障が出るわよね」


 困ったとため息をつく。


「妙案があるぞ。謁見を取りやめるんだ」


 そうすれば万事上手くいくのだが、言った早々秒でレーアから「ダメよ」と却下。


「アンタをその身体に移し替えるのに、どれだけの費用と労力がかかったと思っているの? 今さら取りやめなんて絶対に認めないわよ」


「だったらこの状態で会うしかないだろう」


「それもダメ」


「なら謁見じゃなくて、内々で会えば良いのでは?」


「お父さまはナの国の国王なんだから、謁見も済ましていない相手といきなり会えるわけがないでしょう」


「だったらレーア皆に説明しろよ」


「それが出来たら苦労しないわよ」


 アレもダメこれもダメと、言っていることが支離滅裂。

 じゃあどうしろと言うんだ? 

 無理難題に翔太がキレようとしたところ、まるで見計らったかのように「それでしたら」とクリスが意見具申。


「翔太さまに〝仮面〟を被ってもらい、目元をお隠しになっては如何でしょうか? 無論そのままお館様に謁見すれば不敬になりますので、姫様自ら仮面を被る理由をお話になる必要がございますが」


 いつの間に用意したのか?

 オペラマスクを一回り大きくしたような仮面を掌に載せてクリスが「いかがです?」と訊いてくる。しかもご丁寧にも戦ではなく館で被るような美装兜まで用意している周到さ。

 その見事なまでのタイミングの良さにレーアが「ナイス!」と唸ったほど。


「素晴らしいわクリス、お手柄よ。この仮面を翔太の顔に被れれば、人形臭さをかなり緩和することができるわね」


 そう言うや否やクリスから仮面を受け取ると、本人の承諾も取らずにレーアが翔太の顔に被せてくる。


「ちょっと待て。視界が狭くなる」


「いいえ、待たない」


 いきなり被せるなと意思表示をしたくらいでレーアの行為が止むはずもなく、マスクのみならず美装兜までもが「これで良し」のセリフとともに被されてしまった。


「如何です?」


 仮面を提案したクリスから、手鏡を渡されて具合はどうかと尋ねられる。


「こんなふざけた格好で人前に出るのか? オレ」


「似合っているわよ」


「我ながら、良い仕事をしたと思います」


 レーアとクリスが褒めちぎるが、そんなわけがあるか! 

 道化を思わせる派手な姿に、翔太は「目立ってどうするんだよ」とガックリと肩を落とす。

 さもありなん。

 頭に仮面と美装鎧を付けたその姿は、某機動戦士に出てくる赤い〇〇の方のパチモンとも言えるいでたちなのだから。

 本物そっくりならまだしも、いかにもなパチモン。

 フェイク。

 模造品。

 二番煎じ。

 いや、そんな甘い代物ではなく、劣化コピーが最も適切な表現だろう。


「これで通常より3倍速く動けるのなら、この格好にだって多少なりとも価値もあるだろうけど」


 せめてもの願望を口にするが、世の中そんなに甘くはない。


「マスクを被っただけで3倍も早く動けるなんて、そんな便利で都合の良い道具がこの世の中にあるとでも?」


「お子ちゃままる出しな、甘い願望ですね」


 言った端から2人からキツイ現実を突きつけられ、再び「だよなあ」と深く肩を落とすがクリスが「そんなことよりも」と軽くスルーする。


「翔太さまのおバカな願望よりも、翔太さまが「城内でそのマスクを被り続ける必要がある」合理的な理由を考えることが優先かと」


 クリスの奏上にレーアも「そうね」と大きく頷く。


「そんな都合の良い〝理由〟なんかあるかい!」


 早々にギブアップで投げ出した翔太とは違い、レーアとクリスは小声で「あーでもない、こーでもない」と頭を捻る。

 奴隷紋を隠すといった無難な線から、悪魔人絡みなトンデモ案件まで出るわ出るわ下らない理由が。


「いっそのこと「神父様が神の啓示を聞いた」ってのはどう?」


 いや、それ、悪魔絡みと大差ないぞ。

 にもかかわらず2人して「妙案かも」と考えてだんだんと歪なほうに飛んでいきそうな気配。もういい加減にして欲しいと「だったらオレが考える」と宣言。


「オレが仮面を被るのは「顔に醜い痘痕があるから」という理由で良くない?」


 理由などシンプルなほうが良い。

 これでどうかと問うてみたら「何だか無難すぎるような気が」とレーアがいまひとつ乗り気でない様子。


「神の啓示や悪魔の紋章よりも、よっぽど現実的だろうが!」


 たいがいにしろと咆えると「もういいわよ、それで」と投げやりな返事。


「お父さまも「その辺りが無難だろう」と仰っていたし」


「とっくに話が付いているじゃないか!」


 翔太はとことんおもちゃにされているだけであった。


 そして程なく、謁見の儀が挙行された。

 

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