換装
「そうとなったら「善は急げ」よね」
男の尊厳を守るため渋々ながらパーセルとの謁見に同意した翔太に、レーアが早速にでも作業に取り掛かるわよと宣言をする。
もちろんレーアが直接携わることはなく、侍女のクリスが主人の意を汲んで支度するのだが、それでもあれだけ渋っていたのがウソのような変わり身の早さだ。
「現金なことで」
あからさまな態度の違いに苦笑するしかないが、仮初とはいえ女の身体に押し込められた状態から脱せるのだ。扱いに文句などない。
とはいえ「準備の邪魔だから、そこに座ってジッとしていて」はないだろう、捨て置かれたポチ状態に翔太は「オレは部屋のオブジェか」と愚痴ってしまう。
それと気になる点がもうひとつ。
「ところで。どんな方法で入れ換えをするんだ?」
ウィントレスに憑依にしろクリスの身体に居候にしろ、目覚めたら精神だけがこっちの世界に転移しているのだ。そこには〝睡眠〟という行為が介在しており、この世界で意識を保ったまま他の身体に意識が移動したことはただの一度もない。
準備をクリスに任せて同じく暇していたのだろう。向かいのソファーに座るレーアが「ああ、それね」と翔太の疑問に答えてくれた。
「前に言ったかも知れないけど、この世界に呼ばれた際の翔太の意識は魔晶石に宿っているのよ」
翔太も思い出したのか「そんなことを言っていたな」と首を縦に振る。
「気付いてました? わたしが翔太さまに身体をお貸ししている時は、常に魔晶石を携行していましたよ」
作業の途中ながらもクリスも話に加わり、その時の状態を翔太に説明した。
「え、そうだっけ?」
「魔晶石を介してなんだから当然よ」
そうでなければクリスの身体を動かすどころか感覚すらないと言い放ち、クリスもまた「その通りです」と首を縦に振る。
「最初に行った〝実験〟の時以外は、帯で背中に括りつけていたので分かり辛かったかも知れませんが」
クリスが指で自分の肩甲骨辺りを指して「ここに背負っていたのです」と説明する。
「そう言えば、常に背中を引っ張るというか、突っ張るような感覚があったような……」
翔太はクリスが着用するブラジャーの感覚だと思っていたが、まさかそれが背負子の感覚だったとは。
「違和感の理由が男女の身体つきや服装の違いだと思ったわけね」
なるほどねとレーアが得心する。
「そうなんだ。クリスの胸がとても大きい……あわわ!」
クリスの胸が爆乳だから言いかけて、それがセクハラ発言と気付いて慌てて口をつぐむ。幸いクリスからの抗議はなかったが、視線が心なしか冷たいような。
「胸の話はともかく、私が身体をお貸しするときは魔晶石を携行していて、今の〝機動甲冑じゃない人形〟でも同様に魔晶石が躯体内に収められています」
「胸のおかげで話が少しずれちゃったけど、要は翔太の意識が宿る魔晶石を移動させれば、同時に身体の入れ換えが出来るってことよ」
「これみよがしに胸胸って言うな」
さりげなくディスにくる2人に翔太は少しキレる。
「話を整理すると、この身体に収まっている魔晶石をアッチの男の身体に入れなおしたら、オレの意識も一緒に移動するで合っているのか?」
要点を押さえて訊くと「ええ、そうよ」とのお返事。
「クリスにはそのために必要な道具を用意してもらっているわ。準備が整い次第作業に執りかかるから」
そこでいったん話を区切ると、何故か嬉しそうに「だから……」と言ってニタリと嗤う。
「その身体から魔晶石を取り外す必要があるので服を脱いで」
「はあ?」
「聞こえなかった? 魔晶石を取り外すから服を脱いで頂戴!」
強い口調でレーアに命令されて、半ば条件反射的に両手で胸元を隠そうとする。
悲鳴こそあげなかったが女の子らしい仕草を見せたことで、レーアの悪戯心に火が付いたのか「ほ~お」と興味津々にすり寄ってくる。
「可愛らしいことをしてくれるじゃない。そんな仕草をされたら、是が非でもひん剥きたくなるわね」
舌なめずりまでして寄ってくるレーアに、翔太は生れてはじめて恐怖を感じると、立つこともままならぬまま半ば本能で後ずさる。
「まて、まて、まて! 仮にも一国の王女が、女子高生の苛めみたいなことを実践するんじゃない!」
王女たるもの己の立場を考えろと翔太は自制を促したが、当のレーアは「それは違うわ」と真っ向から全否定。
「王女だからこそ国益を考えた行動に出るのよ。という訳なので、早速始めましょうか。とう!」
どう考えても自己中な理論を振りかざしながら、レーアが翔太の服をたくし上げる。
その手慣れた速さは昨日今日取得したスキルではない、あっという間に丸裸にされてしまったテクニックに翔太は戦慄を覚えるほど。
「ほ~ら、まる裸」
「わあ、凄いわ。って、当人に断りもなくセクハラをかますな!」
生身だったら性犯罪確定の行為に翔太は咆える。
幸か不幸か女性体とはいえレオンハルト作の〝機動甲冑じゃない人形〟は感触こそ人と大差ないが、謂わば〝自律駆動するマネキン人形〟みたいなもの。故にいかにキレイな見目であろうと性的興奮は一切ないが、それでもマナーあって然るべき。
「何言ってるの。その身体から魔晶石を取り出すのに、邪魔な衣服を脱ぐのは当然かつ必要な行為でしょう?」
王族にとって服の着脱は、お付きの侍女が行う仕事。この手の行為に羞恥心の欠片もないレーアには理解できない感情の様で「恥ずかしがる必要が何処にあるの?」と言わんばかりに首を傾げる。
そこまであっけらかんに言われると、文句を言うだけムダ。
真理を悟り諦めた翔太は、大きくため息をつくと「なら、さっさとやってくれ」とレーアの前に胸を晒した。
「最初からそうやって素直になれば良いのに」
従順な振る舞いだとレーアが鷹揚に頷くと、翔太の胸を2度3度、一定のリズムで突っつく。傍から見たら百合の花が咲くような行為にも見えるが、レーアが言うには魔晶石のハッチ開錠コードとかで、複数回突くと背中から「パチン」というような音が聞こえると、髪の毛をかき上げるように翔太の背中がパカッと開く。
「こちらの身体も扉を開放しますね」
続いてクリスが男性体の背中を複数回強く押して、女性体同様に背中のハッチを開放させる。
「同じ扉を開けるのに、ずいぶんと扱いの差があるようだけど……」
「そりゃ、そうだろう。レオンハルトは〝男〟なんだから」
不用意に開かないようロック機構を持たせただけでも僥倖なのだろう、察しろと言わんばかりのレーアのセリフに「なるほど」と翔太も頷く。
とにもかくにも、これで準備が完了。
「クリス。後は任せたわよ」
「承知いたしました」
恭しく一礼したクリスの手によって、女性体のボディーから魔晶石が取り外される。
瞬間。電源の切れたモニターのように翔太の意識がブラックアウトしたかと思うと、間髪入れずに漆黒から視界が復活する。
「乗せ換えが終わりました」
クリスが再び一礼して後ろに下がるとレーアが「これで満足でしょう?」と偉そうにふんぞり返る。
条件付きながらも翔太がこの世界で自由に動ける身体を貰った瞬間であった。
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