理由はコレよ
「い~い、翔太。アンタの価値は、間違いなくウチの筆頭騎士たち以上なんだから」
パーセルとの謁見を渋る翔太に、レーアがきっぱりと言い切った。
「翔太は剣技も優秀ではあるけど、それだけだったら外様の翔太を呼ぶほどではないわ」
「だろうな」
拗ねるでも奢るでもなく、事実としてレーアの言を素直に受け入れる。
その場で勝負こそ付いたものの、翔太とナの国の筆頭騎士たちとの実力に大きな違いはない。敢えていうなら彼らは〝実践慣れ〟しているのに対して、翔太は〝試合慣れ〟をしているというところだろうか。
そうした前提だからこそ剣技のみの綺麗な試合だったので勝てただけで、もし実戦のような蹴りや殴りなど制約なしで何でもありの状況ならば、経験の差で筆頭騎士たちに軍配は上がっていただろう。
「腕に多少の自信はあるにせよ、他の連中と比べて剣技が突出してるでもない。若造だから政治や経済の事だってまだ勉強中の身な上に加えて政治形態も全く違うぞ」
その程度の青二才が政の役に立つとは到底思えない。
「だから、レーアがそうまでしてくれる理由がオレには分からない」
出資に対してリターンの割が合わないのでは? と問うと、意に反してレーアが「翔太が思う以上に、アンタには価値があるわ」と翔太を評価する。
「翔太の住む〝ニッポン〟という国が、この世界のどこよりも進んだ文明を保持している。技術は言うに及ばず経済も、少なくても100年以上の開きがあるわね」
機動甲冑のような〝謎テクノロジーの例外〟はあるにせよ、ナの国を含むこの世界の文明水準は概ね中世ヨーロッパレベルでしかない。
ネットやテレビ・ラジオは言うに及ばず、大量交通機関もなければ重化学工業の片りんも見せていない。せいぜいが繊維や食品加工といったなどの軽工業が、小規模ながら産業となりつつあるといったレベルである。
クリスに憑依する形で街中を見た翔太も肌感覚で理解するが、それをそのまま口にするほど短慮でもない。
「日本はオレたちの世界でも10指に入るくらいの先進国だったんだ。行ったことはないけど、裸で狩りをするような民族もいるそうだから、平均すればそれ程の差はないと思うけど」
奢らないよう謙遜の言葉を口にするが、レーアは「でも翔太は、その進んだニッポンの住人でしょう?」と真に受ける様子はなし。
「ならば100年の開きに間違いはないわ」
改めてそう断言すると、だからその優れた文明を享受している翔太にも価値があるのだという。
「その筋の専門家でも無いのにか?」
文明がどうのこうのと言われても、当の翔太はただの高校生。知識なんてホンの聞きかじり程度でしかなく、専門的な分野に至っては皆無に等しい。
しかしレーアは翔太の自虐的返答など意に介さず「だから良いのよ」との謎回答。
「凌駕し過ぎた技術や思想をその筋の専門家が説明したら、複雑怪奇に難解すぎて誰も理解なんてできないわ。その点素人の説明だったら概念だけだから、何となくは理解することができるのよ」
レーア曰く「素人の大雑把な解説だからこそ良いの」とのこと。
「発達具合に格差があり過ぎるから、専門的に込み入ったことを言われても理解が追い付かない。その点翔太の説明なら素人でだいたいの事しか言わないから、わたしでも凡そのイメージを持つことができるわ」
「地味にディスられているような気がするけど……ていうか、オレ。そんな小難しい話をしたことがあったっけ?」
記憶にないと首を捻る翔太に、レーアが「何を言ってるの?」と呆れ顔。
「アンタ、普段いつも話しているじゃない? 「やれ、どこそこの店の期間限定販売が美味しい」とか「これこれでアクシデントがあって、学校を遅刻した」とか。他にもごまんとあるんだし、口にしていないなんて言わせないわ」
それ。ふつうの世間話!
突っ込もうとした矢先「そうですね~」と、クリスまでもが話に割って入ってきた。
「翔太さまは時々意味不明な単語を連発なさいますが、よくよく聞いてみるとそれがあちらの世界での文明の所作なんでしょうね?」
「すまほとか? あいしーかーどとか? だっけ。単語だけを聞けば何のことかさっぱりだけど、話の前後を聞くにつけ非常に便利な道具であることが分かるわ」
「話しの中にスマホやICカードのことが混じっていたかも知れないけど、オレは開発者どころかサービスする側でもない単なるいちユーザー。せいぜい知っているのは使いかただけだ」
それ以上の詳しい説明を求められても困るとばかりに予防線を張るが、レーアから「そんなオーパーツ。原理を知ったところで、こっちの世界じゃ再現なんてできないわ」と張るだけムダだとぶった切られる。
「そもそも役に立つ知識はそこじゃないから」
「と、言うと?」
翔太が尋ね直すと「使い道ね」とレーアが答える。
「この世界の誰も思いもつかなかった思想や技術、それをいち早く名の国に取り入れることができる。それがナの国にとって先々どれだけの利益を生むことやら」
異世界物でありがちなマヨネーズやリバーシなどのように即物的な効果はないが、フランチャイズシステムやメンテナンスの思想など、現代日本では常識でもナの国では想像すらしていなかった先進的思想を翔太が持っているという。
ゆえにパーセルの謁見を行うに値するというのだ。
力説するレーアの言で理由は分かったが、理解したのは理由だけ。正直に言ってそんなモノには付き合いたくない。
パーセルとの謁見の話題が出た途端、ナノセコンドの素早さで「全力でお断りします」と拒否したのも当然の成り行きだろう。
「その程度の知識で良いのなら、レーア、オマエが直接話をすればいいだろう」
親子なんだし。と付け加えて転嫁しようとしたら「ふ~ん。良いの?」とレーアが意味深にニヤつく。
「お父さまに謁見するとなると、その姿だとさすがに色々と具合が悪いから、アンタの意識を男の身体に移し替えようと思ったのだけど」
翔太の返事が不服だと「謁見をしないのならば必要ないわよね」と言うや、クリスに男の身体を片付けろと命じる。
「おい、待て。なぜ、そうなる?」
当然翔太は喰ってかかるが、対するレーアは動じることなく「そりゃ、そうでしょう」と当然の対応だと言ってのける。
「翔太さまがお館さまに謁見しないということは、すなわち姫さまの部屋に居つくということになります。そうなると男の身体で同室など言語道断、万が一の露呈をも考えればその身体でいていただく必要がありますね」
噛んで含めるようにクリスがレーアに代わって説明する。
レーアの立場上、たとえ人形の様な身体でも男と同室はNG。謁見しなければ意識の移し替えはしないと断言したのである。
「男のプライドを人質にしやがって……」
呻く翔太にレーアが追い打ちをかけるように「せっかくの美少女。今着ている侍女服より、もっと華やいだ装いが良いわね」とクリスに着替えを用意しろと命じる。
「どのような装いが宜しいですか?」
「もちろん。夜会でも映えるドレスを着てもらいましょう」
既に用意していたのか、衣装箱から取り出したドレスは胸元が大きく開いたレースたっぷり仕様。
これを着せられるなんて、はっきり言って拷問だ。
「さあ、どうするの?」
レーアの最後通牒に、翔太はガックリとうな垂れると「謁見させてもらいます」と答えたのであった。
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