だったら最初からそうしろよ
投稿エラーに1週間も気付いていませんでした。申し訳ありません。
「事あるごとにクリスの身体を使わせるのは何かと不便だから、召喚したときにアンタが自由に使える身体を作ったの」
自慢げに答えるレーアの補佐するように、後ろに控えていたクリスが「お確かめを」と翔太に手鏡を渡す。
好奇心の赴くままに「どれ」と鏡の中に映った姿を見てみれば。
「なんじゃこりゃ?」
「アンタの新しい身体よ。こっちの世界で自由に動けるようにね」
鼻の穴を広げてレーアがドヤ顔をかますが、何というか……微妙。
何も知らない素人が厚化粧をしたような、いかにもな紅の入れ方と肌の色。潤いも何もない、大きいだけが取り柄のガラス玉を埋め込んだような瞳。
関節部もジャバラでこそないが、布のようなもので覆った不自然な皺があり、これだとまるで……
「マネキン人形?」
見た目はまさにマネキン人形。
己が意志で自在に動くことを除けばデパートのディスプレーを飾る人形と何ら変わるところがない。
もっともこの世界にはマネキンに相当するディスプレー人形がないようで、翔太の呟きに「何。その「マネキン人形」てのは?」とレーアから逆に質問を返されて「ええと、だな」と逆に説明をする羽目に。
「他の使いかたをしているところもあるけど、衣類売り場で売れ筋やその店一押しの服を着せて飾ってある、販売促進用のヒトそっくりな人形のことだ」
非常にざっくりとした説明ではあるが、レーアは一発で理解したようで「シンプルだけど巧いアイデアよね。それだと服のイメージも掴みやすいし、何より宣伝にもってこいだわ」と手放しの評価だが、今問題にするべきところは生憎とそこじゃない。
「だから、これは何だ?」
「名前は特にないのだけど、敢えていうなら〝機動甲冑じゃない人形〟?」
「だせーし、ビミョーすぎるだろう」
もう少しネーミングセンスを磨けないのかと問い詰めるより先、レーアが「アンタ専用だから名前なんか必要ないわ」と先手を打たれる。
「理由や原因は未だ分からないけれど、この魔晶石に翔太の意識が宿り、持ったり載せたりした人や機動甲冑を自在に動かせる。こんな事ができるのは調べちゃいないけど、古今東西アンタだけでしょうね」
「そうだろうな」
扱き下ろしたような物言いに苦笑するが、そんなヘンな奴が2人もいるとは翔太も思わない。
「だからこそ自由に動ける身体は必要。ウィントレスは大きすぎるし、ならいっそ〝小さなウィントレスを作ればいい〟と思って、機動甲冑の技術者に人間大の甲冑の中身を作らせたのよ」
意気揚々に経緯を語るレーアのアイデアに翔太も納得。
要は機動甲冑のスケールダウン版、装甲を付けていないのは戦場で使う意思がないからだろう。
改めて見てみると肌の質感などはマネキン以上。一般的なディスプレーに用いるマネキン人形がFRP製なのに対して、翔太のそれはしなやかさと弾力もあり人の肌と差が少なそうだ。有体にいって義手や義足に使われる人工皮膚と比べてもそん色ない。
敢えて難癖を付けるとしたら、肌の質感や瞳がいかにも作り物の人形然としたところくらいで、それを除けば生身の人間と変わるところがないほどの出来栄え。
質感こそ最新のアンドロイドに劣るが、機能を考えれば軍配は〝機動甲冑じゃない人形〟のほうが上だろう。
「ああ、正直スゲーと思うぞ」
それは素直に称賛する。しかも言い出してからでき上がるまでの日数も驚異的な短さ。日本の、いや世界中の超優秀な工房に頼んだところで、こんな短時間で作り上げることなど出来ないだろう。その点だけでも、この機動甲冑の技術者が抜きん出た実力の持ち主だと分かる。
それは分かるのだが……
もの凄く分かるのだが……
それはそれとして……
「ひとつ訊きたいのだが」
「何を?」
「この人形の身体はオレ専用と言ったよな?」
「ええ、間違いなくね」
ならば問おう。
「わざわざオレ用に作って、何故に身体を女にする!」
己のたわわに実った胸部装甲を指挿しながら翔太が咆える。
否、巨乳だけでない。銀色にたなびいて腰まで届く長い髪、人工臭いとはいえ切れ長の瞳にぷっくりとした唇、メリハリのあるラインにすらりとした脚と相まって見た目は完全に美少女人形。見た目の印象を例えるならば、レーアを銀髪のピクスドールにしたモノだろうか、実際髪の色を除けば非常によく似た造形で誰をモデルにしたのかが良く分かる。
憤慨する翔太にレーアがケラケラ笑いながら「ああ、それはね」と経緯を語りだす。
「このボディを作ったレオンハルトっていう機動甲冑の技師が「最初に作るのは〝女の子〟でないとモチベーションが上がらない」と駄々をこねたから、仕方なしに1体作らせることにしたのよ」
「……そんな下らない理由かよ」
聞いてガックリとうな垂れる。レーアの「でも、可愛いでしょう」はまったくもって慰めにならない。
「甚だしく不本意だけど、この身体が相当な美形なのは認める。こんな美少女が自分の彼女なら、確かに自慢になるだろうな」
「でしょう」
語尾に音符が尽きそうな勢いでレーアが同意するが、翔太にしたらソレはソレ。
「ああ、年業とはいえこれだけの美少女だ愛でるのなら文句なしだけど、自分がその美少女になって嬉しがるほどオレは倒錯してないぞ」
そりゃそうだ。翔太の性思考はあくまでも真っ当かつノーマル。よって見て愉しむのならともかく、女の身体になっても嬉しくなんかない。
レーア側にそれなりの理由があるにせよ、翔太にすれば関係のない事どころかとんだとばっちり。しかもクリスに憑依させられた時の侍女服とは違い、こちらはレースがふんだんにあしらわれたドレスなのだ。げんなり度は当社比2倍にもなろうというもの。
その空気を察してか、傍に控えるクリスから「翔太さまをからかうのも、その辺りにしてはいかがです?」とレーアに注進が入る。
「そうね。十分に堪能したわ」
いきなりの展開に付いていけない翔太にクリスが「姫さまが最初に仰りましたでしょう? 〝最初に作るのは女の子の身体〟だと」と囁く。
「と、言うことは、どういう事?」
「ちゃんと男の身体も用意してあるわよ。というか、こっちが本当のアンタ専用の身体よ」
そう言って翔太の腕を引っ張り上げて、居間の奥にある控えの間の扉を開ける。
「おおっ!」
これ見よがしに1脚置いたイスに、騎士の服を着せた男性型のマネキンをほうふつさせる〝機動甲冑じゃない人形〟が座って鎮座していた。
「だったら、最初からこれを出せよ!」
「やーよ。そんなことしたってちっとも面白くないから」
そんな理由かよ!
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