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で、こうなったと


 日本語としては些かどころかかなりの意味不明な表現だが、引っ越し先である玲香所有のマンションで眠りについた翔太は、意識だけが異世界であるナの国の王城で目を覚ますこととなった。


「って、またレーアの部屋か?」


 というか、最近は武器庫に召喚されるほうが稀、ほとんどレーアの部屋に呼び出されているのではないだろうか。

 慣れとは恐ろしいもので、美少女の部屋に呼ばれようが最早ときめくようなこともなく「またか」ですべてが終了、感動も緊張もあったものじゃない。


 それだけならば何時ものことで片付けるのだが、今日の召還は違和感がハンパないのだ。


「来た早々「またか」って、ずいぶんな言い草ね」


 翔太のぞんざいな言い草にレーアが唇を尖らすが、そんなことは些事も些事なので軽くスルー。


「そんなどうでも良い事より、この部屋で視線が低いということは、オレはまたクリスの身体に押し込められたのか?」


 ウィントレスは体高2メートル半と、一般的な成人男性よりもふた回りほど背が高い。ホールや玉座の有る大広間ならばともかく私室の天井はそれほど高くはないので、ウィントレスであれば立てばシャンデリアに頭が当たることもある。しかしながら見上げる天井の高さはかなりあるため、街中に引き回すか何かの理由でクリスの身体に呼び出したのだと思った。

 ところが当のクリスは翔太の目の前にいて「そんな殿方に身体を自由にさせるだなんて気持ちの悪い事、そうそう何度もさせませんよ」と、人差し指を立てながら鼻息荒く言い募る。


「オレだって、好きで女の身体になりたくはない」


 健全な男子としてそれ相応に女体に興味はあるが、愛でる対象であって当然のことながらなりたい対象ではない。


「それはお互い様でしょう。わたしだって好きで貸したりしません」


 クリスもレーアの命令で渋々貸したのだろう。あまり文句を言うのもお門違いのような気がするので「違いない」と軽く返事をするにとどめる。


「だったらオレは、今は誰の身体に憑依させてるんだ?」


 体を借りる相手が誰であろうと構わないが、四六時中一緒になるのだから気が合う相手でいて欲しいのが希望といえば希望だ。

 しかしレーアは「憑依なんて、誰にもさせてないわよ」と翔太の考えを否定。


「あんなこと。クリスだから渋々承諾してくれたけど、ほかの家臣なら「ムリを言うな」って、命じた途端に謀反を起こされちゃうわよ」


「良くて命令拒否のサポタージュ、ことと次第によったら反旗を翻しての敵対も十分にあり得ますね」


 肩を竦めてぶっちゃけるレーアの言に、クリスが「当然です」と補足を交えながら肯定する。


 聞きようによっては酷い言い草だが、自分が逆の立場ならそんな依頼は真っ平ゴメン。

 故にこの件で拳を振り上げる理由などひとつもなく「だけど、オレに用があるから呼んだんだよな?」と事実だけを確認すると「もちろん、そうよ」とレーアが即答。


「元々は偶然だった。ウィントレスをアンタが駆ったら、筆頭騎士以上の剣技を魅せてくれる嬉しい誤算もあった。でもそれだけなら、機動甲冑を動かす時だけ呼べばいい」


「身も蓋もねー言いかただな」


 だが実際のところ、最初期に呼ばれたのは、決まってレーアがウィントレスに騎乗している時のみなことからも、その考えは間違いなくアリアリだったのだろう。


「正直なところ、クリスの身体に憑依させたのだって、その偶然の理由が知りたくってアレコレ試行錯誤した結果だったのよ」


「いくらわたしが姫様専属の侍女でも、最初から何をされるのか知っていたら引き受けはしませんとも」


「それはそれでビミョーに傷つくんだが」


 なんとも困った男心である。

 それはさておき。


「有体に言うと、アンタの剣技だけでならウィントレスに呼ぶだけで十分。だけどアンタの持つ異世界の知識や見識が、ナの国にとって有用なものになると判断したわ」


「いや、オレ。あっちの世界じゃ高校生。頭に「苦」とか「勤労」が付くかも知れんが、緒戦はただの学生だぞ」

 

 話がデカくなりそうだったから慌ててくぎを刺す。翔太に異世界チートなどは欠片も実装されてはいないので、過分な期待をされても困るのだ。

 剣技については多少の自信はあるが、それも〝素人と比較して〟の話。この国の筆頭騎士には通じたが、上には上があるだろうから自惚れる気など毛頭ない。

 唯一得意にしている剣技ですらそうなのだから、知識や見識など言わずもがな。

 いくら科学分野に大きなアドバンテージがあろうとも、その道の専門家でも無いいち高校生の知識などたかだか知れたもの。しかも翔太はお世辞にも優等生とはいえない、落ちこぼれより若干マシな中の下というか下の上といった惨状一歩手前な成績なのだから。

 

「学がないのは喋り方で分かるわよ」


 しっかりとディスった上で「それでも」と言葉を続ける。


「アンタに学がなくとも、話を聞く限りアンタの住む世界はナの国より一歩も二歩も先を行っている。もちろんナの国を卑下する気は毛頭ないし勝っているところもそれなりにあると思うけど、相対的に見たらそう言わざる得ないでしょう」


「ぞんざいな口調の割りには意外に謙虚だな」


「意味がないところで虚勢は張らないわ」


 奢るでも自重するでもなく、ごくごく自然にレーアが肩を竦める。


「今後のことを考えるにつき、ウィントレスのままでは何かと不便だし、それ以前にこの部屋にいるのは不自然極まりない」


 その割には結構いたような気がするが、空気が読める翔太は敢えて反論をせず「そうだな」と首を縦に振る。


「とはいえ毎度毎度クリスの身体を宛がうのも、それはそれで問題だと思ったの」


 クリスが何とも言えない微妙な表情。主君からの命令だから否と言えないが、男に身体を貸すのだ良い気などしないだろう。むろん翔太は一も二もなく「問題だったな」と同意する。


「それれで新たな依り代は、本当にレーアの家臣の誰でもないのか?」


 大事なことなのでもう一度訊き直すと「当たり前でしょう」との呆れ口調。


「今さっき言ったばかりでしょう。憑依なんてさせていないし、ムリに命じたら謀反を起こされるって! アンタバカなの? 間違いなくバカでしょう」


 クドイ、ウザイのオンパレード。大事なことだから2度訊いただけなのに、そこまで言うかというほどの罵詈雑言。

 半ばキレかけた翔太が「じゃあ、今度はどうやったんだよ?」と怒鳴ると「いいかげん気付きなさいよ」とのレーアの応酬に合わせるかのように、後ろに控えていたクリスが「お確かめを」と言って手鏡を手渡す。

 どれと眺めてみてみれば……


「何じゃこりゃ!」


 予想を超える奇天烈さに、目を剥きながら大声を出してしまった。

 それもそのはず。

 例えていうならデパートやファッションビルにディスプレイされているマネキン人形。

 あろうことか、それがいまの翔太の姿だったのだ。



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