前言撤回。ひょっとしたらヒモかも知れない……
あけましておめでとうございます。
今年もご愛顧のほど、よろしくお願いします。
引っ越しと同時に持ち物の断捨離をするのは、わりとよく聞く話である。だが引っ越しに際して片っ端から持ち物を処分する〝捨捨捨〟をさせられるとは思わなかった。
「アレは要らない、コレも不要ね」
とまあこんな具合に引っ越しの荷物を玲香に勝手に吟味させられ、身の回りの必需品を除く大半の品物が断捨離の名のもと、再びトラックの荷台に載せられ回れ右。
「なにもかも勝手に処分して。オレを破産させたいのか?」
どれもこれも安物とはいえ合計すれば結構な金額、再び買い揃えるには少々負担が大きすぎる。
翔太の悲痛な叫びを一身に浴びても、断捨離を決行した玲香の面の皮は鋼鉄製。翔太の財布が断末魔の悲鳴をあげようが「部屋に合わない。センス悪すぎ」と一刀のもと、これっぽっちどころかミクロン単位ですら傷ついていない。
「家具は備え付けのものがあるし、電化製品や空調機器にしても同様の理由から必要ないわ。さすがに学校の制服や教材は捨てちゃダメだろうけど、必要なものは概ね揃っているから何ら問題はないと思うけど?」
理詰めというか有無を言わせぬ胆力で押し切られ、翔太には「肯定」以外の選択肢が用意されていない。
結局、泣く子と玲香には勝てないと翔太が折れたのだが、部屋に一歩足を踏み入れた途端、場違い感が否応なしにも襲ってきた。
「ブルジョアかよ」
「世間的にウチは金持ちという扱いになるわね」
天を仰ぐ翔太のボヤキを玲香が否定しない。そりゃそうだ。
自称息女とはいえ、そこは日本有数の資産家令嬢なのだ。そりゃブルジョアに決まっている。
使っていない部屋があるからと翔太を引き入れる辺り、相応に広いマンションだとは思っていたが、予想を超えた豪華絢爛ぶりに叫ばずにはいられない。
部屋数こそ3LDKとふつうの分譲マンションと大差ないが、個々の部屋サイズがまるで違う。高級マンションと庶民の住むアパートを比較するのが間違いだろうが、それにしたって違いがあまりにも有り過ぎるのだ。
何せ「ここがアンタの部屋ね」と、宛がわれた翔太の居室が畳換算でおよそ8畳。前のアパートの広さもそれくらいだったが、あちらはキッチンにユニットバストイレも含めた部屋全体。対してこちらは翔太に供される部屋のみの広さである。
当然、主である玲香の私室はさらに広く、10畳の洋室に加えてウォークインクローゼットまである豪華っぷり。それとは別に床の間まで付いた8畳の和室があり、リビングダイニングに至っては換算する気も失せてしまう。
いち高校生のひとり住まいに、いったい何平米の専有面積を使っているのかと問い返したい。
「この階にはわたしが入居している部屋しかないから、専有面積は300平米とか言ってたかな?」
「いちいち答えなくてもいい!」
エスパーか! おのれは?
「それよりも、ひとりでこんな広い部屋に住んでいたのか?」
「バカ親父曰く「迷惑料」だって」
意味が分からず口あんぐりであ然とする翔太の疑問を質すように、困ったものだとばかりに玲香が肩を竦める。
「認知してもらったとはいえ家がアレだからね。いろいろと軋轢があるのよ」
人差し指を掲げてくるくる回しながら「お家の事情ってやつね」と自虐的に呟く。
巨大財閥の長である南条家は、当然ながら相続する権利や財産も莫大なものとなる。もちろんその大半は次代の長となる長子が相続することになるのだが、他の兄弟とて資産継承の権利は有していおり、非嫡出子とはいえ玲香も法規上その中に該当する。
「上の兄たち……有体にいえば正妻から生れた兄弟は、グループ企業の社長や役員になって、南条の家を盛り立てていくことになるわ」
そういう形で継承をさせて、一族の地位を揺るぎないものにすると同時に、財産や権利が外に流出させない側面もあるのだという。
「謂うところの「同族なんちゃら」ってやつか」
「そういうことね」
肯定すると同時に「もちろん「使えない」と判断されたら、捨扶持をを与えられて容赦なく排除されるわよ」と財産継承が楽でないことも付け加える。
同族の特権で入社の敷居や出世のスピードは優遇されているが、能力審査も相応に厳しく、能力不足でダメの烙印を押されたら、瞬く間に閑職に追いやられて生涯飼い殺しだという。
「まるでどこかの悪の組織のような……」
「比喩としては間違っていないわよ」
我ながらトンデモ発想を肯定されて「マジかよ」と呟いたのは内緒だ。
「そんな家系だから子供のころはともかく、大人になるとけっこうギスギスしているのよ。序列争いでね」
表立っては何もないが、裏では足の引っ張り合いは日常茶飯事。蹴落とすためには手段を択ばないという。
「怖ぇ~っ」
「ホント、ドロドロしたイヤな世界よ」
半ば自嘲気味の玲香の説明を受けて、彼女が言った「軋轢がある」ということの意味をイヤというほど納得させられた。
それはそれとして。
「大金持ちが故のドロドロした世界があるのは分かったけど、それと「迷惑料」がどう繋がるんだ?」
翔太が持ち出した根本的な疑問に「ああ、それね」と、さっきまでのドロドロさがウソのようなあっさりとした口調で玲香が答える。
「わたしが女で妾の子というイレギュラーな存在だから、員数外扱いをされてその特権は適用されないという訳」
非嫡出子でも南条家のご令嬢。世が世なら政略結婚の駒にも出来るが、今のご時世そんな人権無視な行為がまかり通るはずもなく、下手をすれば財産を食いつぶす厄介者にジョブチェンジするやも知れない。
「だから母さんが亡くなって南条の家に引き取られることになったのだけれど、お家騒動に巻き込まれるのなんて真っ平だったから、高校入学を機に家を出てひとり暮らしさせて貰うことにしたのよ」
件のマンションは権利放棄の補償として貰い受けたのだという。
「財産分与の権利放棄で、高級マンションを一室ポンか~」
金持ちのスケール感のデカさに呆気にとられる翔太に、玲香が「何言ってるの。大バーゲンじゃない」とこの程度で驚くなと鼻で笑う。
「マンション1棟丸ごとじゃなくて、たった1部屋譲り受けただけよ。別に強請る気はさらさらないけど、南条の資産からしたら雀の涙どころかミドコンドリアの涙くらいでしょうね」
「その比較が意味不明なんだが」
「安いということが分かれば良いのよ。大学卒業までの学費と生活費も面倒見てもらっているから、現実にはもっと受け取っているけど、それでも財産分与としては破格の安さでしょ?」
そう言われても金持ちと庶民の基準に差があり過ぎるので判断のしようがない。それに悪いがコレは他家のお家騒動、第三者の翔太が首を突っ込む問題ではない。
むしろ翔太が考えなければならないのは、スキャンダルじみた玲香の生い立ちではなく、より現実的なこれからのギブアンドテイクの問題。
「それでオレは家賃をいくら払えば良いんだ?」
メシを作るの自分のついで、これで家賃の免除は都合良過ぎというもの。全額とはいわなくても、部屋代分くらい支払うのが男としての矜持だろう。
しかし玲香の返事は「要らないし、そもそもムリよ」とにべもない。
「ここは分譲マンションで、この部屋は財産分与で貰ったもの。そもそも家賃なんて存在しないし、ムリに相場を当て嵌めたらこれ位になるわよ」
「ゲッ!」
声を詰まらせ、秒で翔太が固まる。
それもそのはず。
玲香が提示した金額は、アパートの家賃のおよそ3倍。いかに世間相場でも、貧乏学生の翔太が払えるような金額ではない。
「どう、ムリでしょう?」
訊かれ、ぎこちなく首を上下させる。
「だからアンタはわたしの食事を作ればいいの。それが此処に住む対価よ」
もはや反論の余地もなく、実質的に翔太は玲香のマンションに居候の身となったのである。
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