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魔晶石

「私が移動のための〝足〟を供しよう」


 レオンハルトが用意したのは、翔太が住む世界で見かけるようなトレーラーの牽引部であった。

 当然ながら、この世界では見かけることのない異質な存在。


「コイツを引くため馬が何処にもいないが?」


 引き馬がないと尋ねるガイアールにレオンハルトが「そんなものはない」と即答。


「でしたら、馬以外の別の獣を使うのですか?」


 代わって訊いてきたクリスの質問にも「足というくらいなのだから獣の類は必要ない」とぶった斬り。


「この私が馬や牛などを用意するとでも思っているのか?」


 しまいには機嫌を損ねて「あん?」と怒気を込めて訊き返す始末。

 騎士ということもあって肝の座ったガイアールはともかく、か弱い? 少女でしかないクリスはレオンハルトの迫力に「ひいっ!」と小さな悲鳴をあげたほど。


「金と権力があれば誰でもできるようなことを……この私がするとでも思っているのか?」


 それはそれでスゴイことなんだけど……とは言わぬが花。

 レーアが曖昧に苦笑いで切り抜けると、レオンハルトの視線が〝オマエはどうなんだ?〟と言わんばかりに、お口にチャックを決め込んでいる翔太に向かう。


〝アンタに常識なんか求めちゃいない〟

 

 口にこそ出さないが、翔太はレオンハルトの才能をそう評している。

 ふつうの人間の発明品なら翔太も同じような発想をしていたかも知れない。だが産業革命以前の科学技術しか持たないこの世界において、パワードスーツのような機動甲冑を持ち込んだ奇才の作である、見た目だけな訳がない。

 しかも翔太の世界のことも度々訊いており、新しい技術や思想の習得にも貪欲。

 

「つまり、コイツ自身が動力を持った車両なんだろう?」


 見た目だけでなく機能もトレーラーヘッドと同じと予想すると、レオンハルトの表情が緩み「さすがだな」の誉め言葉。


「ショウタの世界にある〝トレーラー〟なるものに範を取って作ってみた、謂わば馬代わりのゴーレムのようなモノだ」


「てことは、このずんぐりむっくりした鉄の箱みたいなものが荷車を牽くと?」


 ガイアールの疑問にレオンハルトが「その通り」と答える。


「まあ、この私自らが手をかけたのだ。当然のことながら走りも力も〝馬並み〟ではなく〝馬以上〟なのは言うまでもない」


 ここ一番で吹聴するようにドヤ顔で自慢すると、さも「オレ、偉いだろう」と言わんばかりにふんぞり返る。

 ウザいといえばこの上なくウザいが、翔太はだんだんレオンハルトの性格というか扱い方が解ってきたような気がする。

 レオンハルトは翔太たちの世界基準でいえば、ダビンチやアルキメデスをも凌駕するようなとてつもない科学者・技術者でありながら、承認欲求の塊みたいな性格なうえにしかもヨイショにおそろしく弱い。

 つまり幼稚園児の鼓笛隊のように〝上手に煽てたら〟元気よく太鼓を叩いてスペック以上の仕事をしてくれるのだ。ナの国のような小国の技術顧問になってくれたのも、高待遇でを餌に三顧の礼で迎えただけでなく、パーセルが煽て上手だったのだと今なら確信できる。


「そうだな。高性能なのは見ただけで分かる」


 レオンハルトの自尊心を煽るように答えてやると「そうだろう。そうだろう」と鼻高々。


「10騎以上の機動甲冑を載せた車を牽いても、襲歩で駆ける馬の倍以上の速さを出せる。しかも生き物ではないから疲れ知らず、積んだ魔晶石の力が尽きるまで、丸1日でも走り切ることすら可能だ」


 説明を聞いて〝まんま、トラックと同じだなあ〟と感想することしきり。

 最高速度こそ劣るものの、魔晶石を搭載バッテリーだと考えれば、エネルギー効率や動力のコンパクトさではこちらに軍配が上がる。


「それなら、なおさら魔晶石が必要だよな。ここにずっといても敵に見つかるリスクが増えるだけだし、載せるモノを乗せたら早いところ出発しよう」


 レーアはもとより翔太の提案に異論を唱える者もおらず、レオンハルトが用意したトレーラーに車を繋ぎ変えると、一行は一路魔晶石を取り扱う商人の許へと移動を開始したのであった。





 魔晶石。

 

 一見するとやや濁りのある半透明な鉱石のような物体であり、十数年前まではムダに固いだけで宝飾的価値のない屑石だと思われていた。

 その概念が一変したのが、今からおよそ10年ほど前。とある錬金術師が魔晶石が一定の条件下で発光することを発見したのである。


「発見と称しているが実際には〝発明〟だな。ただの魔晶石は相変わらずの屑石だからな」


 移動の道すがら。

 レオンハルトが翔太をはじめとする全員に、魔晶石の詳細をレクチャーしていた。

 元は翔太の「魔晶石って機動甲冑の動力以外、何に使っているんだ?」という素朴な疑問に、ガイアールがせせら笑ったことから始まった。


「オマエ、ホントに無知だな。魔晶石は部屋の明かりから砦の篝火まで、それこそ明かりと名のつくモノほとんどすべてに使われる、ありがたい鉱石サマだろうが」


 こんなことは知っていて当然とばかりに、翔太を小ばかにするように魔晶石の使い道を説明。レーアとクリスが「うん、うん」と頷きながらガイアールの説明した通りだと示唆する。


「それまで灯りといえば蠟燭や松明に頼っていたものが、あっという間に魔晶石のランプに取って代わられたのよ。それがどれだけスゴイことかは、言うまでもないわよね」


 そのくらいなら翔太にでも分かる。夜も活動可能となれば、文化にせよ産業にせよ発達するのはむしろ当然。電灯の普及が近代文化を推し進めたのと同じことなのだろう。

 しかしレオンハルト曰く「そんなものは結果にしか過ぎない」と心底どうでもいい様子。


「この発明が画期的だったのは、魔晶石にビタリーを纏わせるとエネルギーが生じるということ。明かりはその応用というか副産物だな」


「世の中を一変したのに、ついでだと?」


 ガイアールの呻きを「そうだ」とぶった斬り。せいぜい「世界が変わったことは認めるがな」と付け加えるだけ。

 レオンハルトにしてみれば照明による一大革命はあくまでも〝ついで〟のスタンス。


「つまり、偶然かどうかは別にして、魔晶石はエネルギーの塊なんだ」


 ウラン鉱石みたいなものかと呟いた翔太に「それだ!」と飛びつく。


「この中ではショウタがいちばん理解しているようだな。さすがは異なる世界の人間だけはある」


「多少は理解できたって、所詮はオレもただの高校生だからな。概念が何となく分かるだけで、何故ビタリーを循環させるとエネルギーが出るのか、原理も構造も分からないよ」


 翔太は謙遜するように答えるが、レオンハルトがガイアールたちを指差し「連中は概念すら理解できていない」とピシャリ。

 理解できていないのセリフにレーアがムッとした表情を見せたが、実際問題理解には至ってないようで顔をプルプルさせるだけ。王女を侮辱しているとクリスが食ってかかろうとすると、何故かレオンハルトが「話しは最後まで聞け」とけん制。


「残念ながら私も知っているのは概念だけで、原理と構造を把握している訳ではない」


「理屈は知らないけど、使いかたは知っている状態?」


 翔太の言にレオンハルトが「まあ、そんなところだ」と正直に答える。


「だから不本意なれど魔晶石を買い付ける必要があるのだ」


 その表情に若干の不信感があることを翔太たちは気付いていなかった。



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