ギブ&テイク
レオンハルトが翔太たちを引き連れて再び地下工房に入ると「見せてやろう」と言いながら棚の奥に隠された紐を引っ張る。
と、紐に連動したからくりが動きだして、ギシギシという音を立てながら壁が動き、工房の奥に設えられた隠し部屋が露になる。
「私が手土産に持参するブツは、これだ」
自信満々にレオンハルトが指差す先には、金属が素地のままで鈍く輝く機動甲冑が2体鎮座していた。
「これは……」「なんと!」
見た途端、翔太とガイアール。二人そろって息を飲む。
躯体そのものは従来の機動甲冑とさして変わらない形状。敢えていうならややスリムなフォルムとすらいって良く、防御力より機動性に重きを置いているのが伺えるが、それ自体は目的用途が特化しているだけで目新しさは何もない。
ふたりの目を惹いたのは、機動甲冑の背中に負わされた巨大なランドセルのような物体。フルアーマーな西洋甲冑が背負子を付けているようなショールなデザインなのに不思議と違和感がない。
「背中に付いている背負子みたいなモノは何なのだ?」
好奇心に押されてガイアールが尋ねると、まるで〝待ってました〟と言わんばかりにレオンハルトが「凡人には理解できまい」とマウントを取りにくる。
「アレはビタリーの増幅器。稼働させることで躯体内でのビタリーの循環がさらに活発となり、その結果より一層の機動力を発揮することが出来るのだ」
ドヤ顔でレオンハルトが説明をするが、聞いたガイアールの口はポカーン。理解の範疇を超えているようであった。
違う意味で呆れたのがレオンハルト。
「やれやれ。せっかく凡人にも分かるように優しく嚙み砕いてやったのに、この説明で概要が理解が出来ないのか?」
困ったものだととばかりに首を振ったところに「そんな説明で解かるか!」とガイアールからツッコミが入る。
「増幅器がどーたらとか循環がこーたらとか、訳の分からないことを「あーだこーだ」とこねくり回しやがって。オレが聞きたいのは、あの背負子みたいなのを付けることで、この機動甲冑がどんな風に強くなったのか? ってことだ!」
逆ギレのような嚙みつき様にレオンハルトが「やれやれ」と肩を窄める。
「猿にでも解るようにできるだけ平易にしたつもりだが、これ以上レベルを落として猿以下を相手にすることなど私にはムリだ」
冷静に罵倒するとギャーギャーと騒ぐガイアールを無視して翔太に視線を合わせると「まさかとは思うが」と今度は自分が標的に。
「ショウタもこの内容で理解できないとは言わぬだろうな?」
淡々と理解の程度を訊いてはいるが、言葉の端々にマウントを取ろうという意図がアリアリ。そこまで上から目線で物言いをしたいのかと、呆れを通り越して笑ってしまう。
「背中に負った増幅器はブースターみたいな物だよな? 使用することでパワーアップが図れると言ったが、その効果を得るには何らかの制約か代償が必要じゃないのか? 例えば稼働時間が短いとか、使用できる搭乗者が制限される、みたいな」
そんな都合の良いものがあるものかとばかりに逆質問をすると「これは1本取られたな」とレオンハルトが手を叩きながら苦笑い。
「まさにその通りだ。まだまだコイツは開発途上で、動きこそすれども誰にでも扱えるような躯体ではない」
開発途中だから誰かに機密事項を盗まれたくないのだろう。だから内容を秘匿すべく、わざわざ隠し部屋の中でシコシコと作っていたのか。
そうなると疑問がひとつ湧いてくる。
「作りかけの機動甲冑を抱え込んでいるのに、オレたちと一緒に移動していても良いのか?」
翔太たちに帯同すれば当然ながら開発に没頭することなど夢のまた夢。技術者としてそんな環境が耐えられるのだろうか?
そんな懸念を「心配ない」とレオンハルトが一蹴。
「先も言った通り、コイツは開発途上なので乗り手を選ぶ。私が把握する限りにおいてコイツを動かせる可能性があるのは、今現在だとショウタしかいない」
「んだと! このオレが操れないだと?」
「そう思うなら試してみたらどうだ?」
レオンハルトの挑発にガイアールが「やらいでか!」と乗り込んだが、件の機動甲冑はうんともすんとも反応しない。
躯体の中から「このポンコツが!」と罵る声が聞こえてきても気にする様子は微塵もなく「ほらな」とさも当然のような顔。
「コイツは失敗作か、さもなきゃ壊れているんじゃないのか?」
指一本動かないことに不良品だと断じるガイアールを、レオンハルトが「オマエさんがコイツに拒否られただけだ」と一蹴。そのうえで「ショウタが駆ってみれば分かる」と、実証してみろとばかりに翔太に搭乗を強要する。
「まあ、いいけど」
それで納得するならと翔太が乗り込むと、毛ほども動かなかったガイアールのときと違い、ハッチを締めた途端、一瞬にして動きだす。
「館を壊して生き埋めにされたら堪らん。もう降りて良いぞ」
「これで分かっただろう?」
胸を張ってドヤ顔なのがちょっと癇に障るが、言うことすべてが真実だっただけに「ううむ」と唸るしかない。
「詰まるところ、この機動甲冑を続けて開発しようと思えば、オマエたちにくっ付くしかないのだ」
論より証拠は絶大。さんざん見せつけられたので「理由は理解しました」と皆が頷く。
「わたしたちに力を貸していただけるのですね?」
レーアの念押しにレオンハルトが「そういうことだ」と頷く。
「その代わりと言っては何だが、いくつか吞んでもらいたい事柄がある」
打算尽くめではあるが、情で動いてもらうよりも利が勝っている分だけむしろ安心。翔太とガイアールが頷くと、レーアが代表するように「聞きましょう」と耳を傾ける。
「先ずはこの試作中の機動甲冑にショウタが乗り込んでもらうこと。動いてくれないことには、これ以上の開発を進めることができないからな」
「その機動甲冑が力を発揮するのであれば、わたしから申すことはありません。肝心の翔太はどうなの?」
自分は反対しないと表明すると、レーアが翔太に判断を委ねる。
まあ訊かれる以前にショウタの答えは決まっている。
「現時点での性能がウィントレスよりも高いのだったら、オレがソイツの搭乗を断る理由は無いな」
「この私が手掛けているのだ。増幅器に頼らずともウィントレス・改と同等性能なのは当然のこと、私が狙っているのはそれ以上の機動甲冑だ」
「なら、承知で良いよ」
あっさりと承諾すると、レオンハルトが「それと、もうひとつ」と二つ目の案件を口にする。
「手持ちの魔晶石が足りない。補充をする必要がある」
「そういう理由なら是非もないわ」
拍子抜けするほどあっさりと受理。
「ここも安泰とは言えないしね。方針が決まったのなら、今夜にでも出立すべきだわ」
「ならば私が、その〝足〟の供しよう」
レオンハルトがふんぞり返りながら別の地下室を開けると、そのには翔太が現実世界で見かける車両。
一般に〝トレーラーヘッド〟と呼ばれるトレーラーの牽引部があった。
読んでいただきありがとうございます。
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、何卒ご愛顧のほどお願いいたします。




