レオンハルトの意思
レーアが翔太たちを見据えると、ゆっくりとした口調ながら、力強くはっきりと答えた。
「わたしの考えはただ一つ。どんなに厳しく絶望的でも、茨の道を進みたい!」
その決定にふたりの従者は頭を垂れて「御意」と承諾をし、翔太は「分かった」と答える。
「これでオレたちの方針が決まった。で、レオンハルトはどうする?」
「私のことか?」
訊き返すレオンハルトに「他に誰がいる」と問い返す。
「ウィントレス・改の躯体を2機引き渡してくれたんだ。これで前王との約束は果たされただろう?」
「そうだな」
「だから。契約上これから先の道中に、アンタが連れ添う義務は生じない」
「それで?」
面倒臭げに質問を返すレオンハルトに、翔太は敢えて「それでも」と前置きをする。
「自分勝手な希望を言えば、これからもアンタに機動甲冑の面倒を見てもらえると嬉しい」
「それだけか?」
「ついでに、この身体の面倒も診てもらえると助かる」
この世界で使ってる翔太の身体は義体、いってしまえばヒトサイズの装甲のないパワードスーツのようなもの。中の構造がどうなっているのか不明だが、相当な精密機械であることは容易に想像できる。
メンテナンスができる人間がいるいないでは、行動に対する安心感が天と地ほども異なってくるのだ。
事実上ナの国がが消滅した現在、レオンハルトの行動を縛るものは何ひとつしてなく彼の善意に縋るしかないのである。
名目上トップを張るレーアもまた同じ考え。
「こんなことを言える立場ではないことは重々承知しているけれど、わたしからもレオンハルト殿にお願いします。どうかここに残って、我々に力を貸してください」
レオンハルトに向かって言うや、深々と頭を下げたのである。
これに驚いたのはレーアの家臣であるクリスとガイアールのふたり。
「姫さま、なんてことを!」
「しのようなことは、お止めください!」
口を揃えて君主に相応しくないと、レーアの行為を諫めたのである。
が、当人は「治める国のない王女の価値など如何ほどのものか」と気にする素振りなど毛ほどもない。
それどころか「そんな役に立たないプライドなど、ドブに捨ててしまいなさい!」と辛辣に扱き下ろす。
「なりふりなど構っている余裕が何処にあると? わたしたちにはレオンハルト殿の知力が必要なのよ。そのためなら幾らでもひざを折るし、泥水だって啜って見せるわ」
そう言って頭を下げる主君の決意に感化されたのか、クリスとガイアールも「我々からも」と雁首揃えてレオンハルトに頭を下げる。
一同揃っての懇願がこそばゆいのか、レオンハルトが苦笑いをしながら「気持ち悪いから、よしてくれ」と掌を左右に振る。
「前にも言った通り、私は前王と思惑と利害が一致したからであって、客分としてここにいるに過ぎない。だから身の振りかたは誰かに頼まれてではなく、自分の思った通りを貫かせてもらう」
そう言われたらレオンハルトの行動や判断を停める術は今のレーアにはない。半ば諦めたように「……そうですか」と小さく呟くと、譲渡された2体の真新しい機動甲冑を見つめる。
「お父さまとの契約で高性能な機動甲冑を2体も手にれることが出来ただけでも、レオンハルト殿と縁を結んだ価値があったというものでしょうね」
自分を納得させるかのようにウィントレス・改が入手できたことを強調するレーアに、レオンハルトが「勝手に話を勧めないでくれるかな」と横やり。
「言っただろう? 私は自分自身の思い通りを貫くと」
「ええ。だから、レオンハルト殿を召し抱えることはできないのでしょう」
レーアが問うと至極当然のことながら、レオンハルトが「ああ、ムリだ」と即答。
「私は誰の家臣になるつもりは無いからな」
「まあ、そうだよな」
レオンハルトの性分からして、束縛は嫌がるだろうなと翔太は理解している。
「正直なところ、今まで行動を共にしてくれたのだって、奇跡みたいなモノなんだしな」
残念だけどしかたがない。そう言ってこの話を閉じようとしたら、当のレオンハルトから「この話はまだ終わっていない」とクレームを付けられる。
「家臣になる気は欠片もないが、姫さまの旅に帯同するのはやぶさかではない。いや、積極的にそなたらに付き纏いたいかな」
「はあ?」
意味不明な意思表示に翔太のみならず、レーアと家臣の二人も揃っての大合唱。
「どういうことですか?」
意味が分からないとばかりにレーアが訊くと「どうもこうも、言ったままだが」と、まるで煙に巻くようなふざけた言い回し。
「オレたちに同行する、真意を訊きたいのだけれど?」
注釈を付けるような翔太の質問に「ああ、そういうことか」と何故か得心。頭の回転が良すぎるがゆえの語彙力不足のようで「自分が作った機動甲冑の出来栄えを見ないでどうする!」と鼻息高く理由を口にする。
「それに、だ」
レオンハルトが翔太の前に立つと、予告もなしに目元を覆う仮面を外す。
「何ッ! 人形?」
翔太の正体にガイアールが驚き、レーアとクリスが「ああ」と納得するように頷く。
「こんな面白い事例まであるのだ。付いて行かなくてどうする!」
理解が追い付かず口をパクパクさせるガイアールを放置して、レオンハルトが遠足を前にした小学生のように興奮しまくり。
「私自らが手をかけた機動甲冑が、巷に溢れかえる数モノの粗悪品に負けるとは思わぬ。とは言え、数にモノをいわせて寄ってたかって攻められると些か分が悪かろう。状況を鑑みるに、そのような戦になる公算は高く、やむを得ないとはいえ多勢に無勢で負けるのも胸くそが悪い。ゆえに若干の智謀は手伝ってやろう。
しかし何よりも私が見てみたいのは、そこにいるショウタの存在と、機動甲冑ではない鎧を纏わぬ人型人形の使われかただ。貴公は特例であろうが、その存在は正しく有用。今後百年の計を考えるに朽ちさすには惜しい存在!」
聞いている皆が引くほどノンストップで己の好奇心をまくし立てる。ほぼほぼ妄想の垂れ流し、マッドサイエンティストそのものな言動ではあるが、その中にひとつだけ「おや?」と思えることに翔太は気付いた。
コイツ、将来この技術が義手や義足に応用できると言外に語ってやがる。
「何とかと紙一重だけど、天才は天才てとこか」
レオンハルトの先見の明というか、次代を見据える鑑識眼の高さに翔太は舌を巻く。
「そこはかとなく貶められたような気もするが、一応は私が同道する理由も理解してくれたようだな」
「利害の一致。だな?」
「そうだ。それとキミのこともガイアール殿に説明がついたのではないか?」
見ればレーアがガイアールを相手にアレコレ説明している模様。納得したかは別として、この問題も解決したとみて良かろう。
「ならばオレが四の五の言う理由は無いぞ」
翔太の宣言に続くようにレーアも「わたしからは是非に」と即答。むろん家臣二人に異議などなく、満場一致でレオンハルトの同道が決定。
「当然の結果ではあるが、せっかく認めてくれたんだ。もうひとつ持参する手土産をこの場で披露しよう」
そう言うとレオンハルトが一同を再び地下工房に連れ込み「ブツはこれだ」と隠し扉を開ける。
と……
「これは!」
今までの機動甲冑とは異なり、黒光りするフォルムの機動甲冑が2体鎮座していた。
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