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「今すぐ動かせる機動甲冑としては、このウィントレス・改の躯体が2機ある」


 ガイアールが試乗に満足して降りたところで、レオンハルトが自身の館にある稼働可能な機動甲冑の数を口にした。


「少なすぎる!」


 その数の少なさに、当然ながらガイアールが愚痴を吐く。


「王の国に大攻勢をかける旗印にせねばならぬのに、使える機動甲冑が2機しかないとはどういうことだ?」


 そして矛先がレオンハルトに向かうが、聴いていた翔太は「いやいや」と、不満も顕わなガイアールとの間に割って入る。


「大攻勢も何も……城から逃げのびたのは、侍女のクリスを含めてもたったの5人だぞ。万を超える相手にどんな大攻勢を仕掛けると?」


 逃げおおせるのが精いっぱいで、反攻など夢のまた夢。

 翔太でなくとも多少でも〝現実〟を見ることが出来る者ならば当然の考え。しかしながら忠誠心MAXな筆頭騎士の考えは違っていた。


「確かに、ココに居るのは姫さまも含めて僅か5人ではあるが、城から逃げおおせた者は他にもいるであろう。それらの者たちを集めて十分な武器を与えれば、反攻の狼煙となりうることは必定」


「うん。ダメだこりゃ」


 精神論に終始するガイアールを「分かった、分かった」と適当に宥めると、翔太は訊く相手を間違えたとばかりにレーアのほうに向き直る。


「これから、どうしたい?」


 前置きなしのストレートな問いにキョトンとするレーアを見て「ちょっと端折り過ぎた」と頭を掻く。


「オレたちは国王サマの計らいで何とか逃げおおせることが出来た、けど人数は半ば部外者のレオンハルトを入れても5人きり。だから酷いことを訊くようだけど、レーアはこれからどうしたい?」


「どう……って?」


 戸惑いながらレーアが訊き返す。って、おい!

 これだけかみ砕いて言ってやったのに、理解できないか? 

 いささか鈍過ぎやしないかと呆れつつも、乗りかかった船だとため息をつきながら「この先いくつかの選択肢がある」と、翔太は説明に指を折るべく掌をかざす。


「ひとつ目は、この機動甲冑を手土産にナの国と交流のあった他国に亡命する」


「ウィントレス・改を手放すというのか!」


 秒と置かずにガイアールから文句がきたが、翔太は「最後まで話を聴け!」と一喝。


「レーアが単身亡命したって、相手からしたら「面倒なヤツがきた」と厄介払いされるのがオチだ」


 辛辣な翔太の言葉にクリスが「そんな!」と異を唱えたが、当のレーアは「そうでしょうね」と達観。


「国を奪われた王女に如何ほどの価値があるのか? わたしが逆の立場なら体よく追い出すか、自国の保身のためオウの国に売るかのどちらかを行うでしょうね」


 のみならず、意外にも自身の境遇までもを冷静に見ていた。


「うん。オレもそう思う」


 レーアの予想と自分も同じだと言ったうえで、翔太は「でも……」と亡命に突破口があると案を示す。


「ウィントレス・改があれば、話がぜんぜん変わってくる。これだけ高性能な機動甲冑があって、なおかつ優秀な騎士がセットで付いてくるのなら、高待遇で亡命を受け入れてくれると思う」


 翔太が持論を展開するとレーアが「そうね」と納得をし、レオンハルトに至っては「ウィントレス・改を欲しがる輩は、ナの国以外にもごまんとあるさ」とまで豪語する。


「そのためだったら亡国の姫君を匿うのも、必要経費として割り切るところもあるだろう」


「聞いていて不愉快なこと甚だしいけど、現実としてレオンハルトの言う通りになるでしょうね。残念ながら」


 ドヤ顔で叩くレオンハルトの大口に、レーアがしかめっ面で同意すると「姫さまを、そのような目になど言語道断!」とまともやガイアールが激昂。


「仮定の話だから落ち着けよ!」


 その都度エキサイトするオッサンに苦慮しながら「続きがあるんだから黙って聞け」と話を続ける。


「ふたつめは一切合切を諦めて、どこかで隠遁する」


 ドロップアウトの道を提示したら、今度はクリスが「姫さまに隠棲をせよなど、以ての外です!」と言ってブチ切れる。


「だ~か~ら~。それも選択肢のひとつであって、ヤレと命令している訳じゃない!」


「口にすること自体が不敬です!」


 噛みつくようにヒステリックに喚き散らすクリスの横で、当のレーアが「そういう道もあるわね」と妙に納得。


「俗世と袂を分けて教会に入るのも、身の振り方のひとつではあるわね」


 出家して修道女となるのも悪くないと答える。

 そんな主のドロップアウトともとれる発言に、当然ながらクリスが「お待ちください!」と真っ向意見。


「ショウタの意見などに惑わされないでください! 姫さまにはお館さまの無念を晴らし、ナの国を再興するお役目があるのです!」


 口から泡を飛ばす勢いで翻意を促すクリスに、レーアが「そういう道もある。と言っただけでしょう」と落ち着けとばかりに窘める。


「それと翔太を咎めるのもお門違いだわ。彼は最初から「いくつかの選択肢」と言ったはずよ。実際に選ぶのはこの〝わたし〟なんだから、最後までちゃんと聴きましょう」


 レーアの真っ当な物言いに反論の余地がないのか、それとも主の方針に逆らう訳にはゆかぬのか、レーアに窘められたクリスが渋々ながらも「はい」と言って振り上げた拳を下げる。


「クリスもガイアールも、わたしのことを想って怒ってくれているのは良く分かる。でも今はそんなどころじゃないし、これからのことを決めるうえでも翔太の意見は貴重だわ」


 フォローするように家臣ふたりに労いの言葉をかけると、レーアが「因みに、この他にも選択肢はあるの?」と残りの道を訊く。


「あと、もうひとつ。いや、厳密にはふたつだな」

 

 そう言ったうえで翔太は「ただし!」と前置きを入れる。


「これを選べば茨の道は必至。為政者として王道だけど、ハードモードだから、正直お勧めはしない」


「何を今さら。最初のふたつだって、それなりに茨の道よ」


「なら言おう、やることはシンプルだからな。オウの国の国王を襲って、ナの国を奪い返す」


 翔太の発言にガイアールとクリスの目がテンになり、レオンハルトが「なるほど。見事なくらい茨の道だな」と大いに納得する。


「絶望的なほど戦力差があるからな。ガチで戦いを挑んだら瞬殺まっしぐらなんで、夜陰に紛れるなどして戦いを避けつつオウの国に乗り込む。そして相手の喉首に一撃をかけるんだ」


「……本気で言っているのか?」


 翔太の言い放った言葉を黙って吟味した末、ガイアールがゆっくりと口を開く。


「本気だ」


「上手くいくとでも?」


「成功するかしないかで訊かれたら、奇跡が起きればひょっとして? って、ところだな」


 ただの高校生が政治的駆け引きや軍略に詳しいはずもなく、いちおうは高等教育も受けているので達成の困難さも理解している。ガイアールの考える〝在野に散らばるナの国の生き残りを集めて再蜂起する〟よりはマシだというだけ、いってみれば成功率がゼロパーセントから1パーセントに増えた程度である。

 しかし翔太の言動に何かを感じ取ったのだろう、ガイアールの回答は「オレはその案に乗ろうと思う」であった。さらには侍女のクリスまでもが「私もガイアール殿と同じ考えです」と答える。


「最初、亡命だの隠棲だの言いやがったので苛立ったが、要は姫さまに〝全ての道を示したうえ〟でお覚悟を問うためだったのだろう。そこまで言ってくれたショウタをオレは信じる」


「私も同じです」


 いやいや、そんな大そうな考えなんか無いのだけど。

 思ったことを口にしただけなのに。とは、もはや言えない。


「後はレーアの考えひとつだ」


 ズルいとは思いつつも決定権をレーアに委ねる。


「わたしは……」


 いきなり重い決断を迫られ、レーアが暫し慟哭した。

 が、それも束の間、彼女は翔太たちを見据え、ゆっくりと、はっきりと、力強く答えたのだった。


「わたしの考えはただ一つ。どんなに厳しく絶望的でも、茨の道を進みたい!」


 その決定にふたりの従者は頭を垂れて「御意」と承諾し、翔太は「分かった」と答えるのであった。


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