第16話『ラビットの喪失』
「…とまあ、今のラビットは俺を避けているんだ…」
「「「…」」」
話し終えたヒロトは、憂鬱げな表情のまま、俯いてしまった。
「これをいうことで、たのしみはきえるけど…ひみつはいつか、ぜったいにバレるものだから」
「…ああ、いつまでも突き通せる秘密なんてあり得ねえ」
他の9人も、バーギラを責めなかった。
逆に変えようのない真実を突きつけられ、反論も述べられなくなった。
「何か理由の心あたりってあります?」
リゼレスタが聞いてくる。
「ちょっ…リゼレスタはん!」
「その質問はさ…」
「えっ…あっ…!もしかしてプレミ!?──ヒロトさん!?」
「…はぁ…」
「うぇ!?」
急に溜め息をつかれリゼレスタは驚くが、どうやら説明してくれるらしい。
「…確証はねえが、鬼神のオーラが消えた俺に幻滅したかもしれねえな…消えてから2日は優しく接してくれてたんだけどなぁ」
「ええ!?でも不自然じゃないですか?」
クレアがヒロトにそう言うと、ヒロトはそれに反応を見せる。
「だよなぁ尼野」
「え?ええ…」
クレアの見解では、ヒロトは原因を究明するため、ずっと悩んでいたらしい。
「ずっとライバル関係を続けてきたんだ…俺ならどんな理由があっても去りしを追うつもりは無いがな」
窄みきったヒロトの背中を見て、他の皆も彼の心中をお察し刷るのだった。
「…じゃあさ──」
クレアがヒロトにさらに問う。
「ラビットさんは、ヒロト君を避けるとき、どんな感じだったの?」
「っ!」
ヒロトは、クレアからの思いがけぬ質問に驚愕することとなった。
「…むぅ…」
クレアの質問に、ヒロトはラビットとはちあった朝を思い返す。
記憶が確かならば、あの顔は…──
「悲しそうだった…?」
「いや…」
「辛そうだった…?」
「違う…──あの顔は…」
クレアに言われて初めて、この事実に傷つくことになった。
「恐れていた…」
全員信じられずという様子。
マーニとキサクも食い付いてくる。
「えっ!?なんでなん!」
「俺だってわかんねぇんだ」
「思い違いやあらへんの」
「…もしかしたらそうかもしれない…だけど今になって思い返すと、ラビットの恐怖した顔が、脳裏にベッタリと張り付いて剥がれねぇんだ」
「「…」」
アシュも違和感を覚えたかこう切り出す。
「そもそもヒロトの何を恐れるんだ?」
「ありえないよな…?オーラも今や無いし」
サルマも便乗する。みんなこう言うが、ラビットには特殊な事情があるのだろうか。
「ラビットさんが、ヒロト君を嫌がってるとしても、困っていたら手を貸してあげましょうよ」
「ああ、そのつもりだ…」
ヒロトにとって、彼女に受けた恩に報いるため、やれることはすべてするつもりだ。その思いは変えるつもりはない。
※職員会議
──カツ…カツ…
ラビットは、テンカと一緒に部屋へと戻っていく。
「そのロケットは、お前に渡しておく…──つうか、元はといやあムーン家の血を引くお前のモンだ…」
「…ありがとうございます…」
彼女は先程から、ロケットの両親の顔に釘付けになっていた。
ラビットは、ムーン家の事件の解決の資料として、両親の写真一つさえ残されなかった。
両親の顔を見たのは、これで2年ぶりとなる。
カッ…
ラビットが足を止めた。
「…どうした」
テンカが振り返ったとき、ラビットはこちらを見つめていた。
「言ってくんねえと始まんねえぞ…」
「…わたくしは初めに蓋が外れているのを見たとき、きっと炎の燃える屋敷で倒れた屋根や柱で、都合よく上だけが紛失したものだと思っていました」
ラビットの注目は、写真から蓋の外れた部分に移る。
「この蓋はホック状になってますね…」
「…やっぱりえらく勘がいいんだなぁ」
上の蓋のホックも、下の穴を一切傷付けず外れていた。
これが何を意味するか、分からぬものは無いだろう。
「…間違いない…これは人為的に外されたんですね…!」
「ああ、ご明察だなラビットのお嬢」
「でも、なぜこんなことを…」
テンカは憶測を語る。
「そのタイプはムーン家の特注タイプだ、遺品の倉庫から裏に回って高値で取引されても可笑しくねえ…」
「…」
「…なあ、俺からも質問させてもらうぜ」
「?」
ラビットは、テンカと目を向けあった。
「ちと野暮かもしれねえが…──もし俺の推測が正しかったとして、誰かがそのロケットを盗んでいたとしたら…」
「…え?ふふ…変なこと聞きますね──」
表情を急に綻ばせるラビット。
テンカは気になって、彼女を凝視する。
「…許さないに…決まってるじゃないですか…」
「…」
その声は、ラビットから何の抵抗もなく顕れていた。
「…あれ?わたくし…何を言って…」
「…なんにも言ってねえよ…お前は」
092号室に到着した。
ラビットが部屋に入ったのを確認して、テンカは廊下を戻るのだった。
「(面倒くせぇー…)」