第15話『夕暮れに差し当たり』
「…日もとうとう沈んで来たか…」
「だな…」
窓から外を見て、ヒロトはコウとそう言った。
結局一人も欠けることもなく、部屋に残っていた。
「私たち、別に帰る理由ないけど…」
「だよね」
3組の3人も言う。
「まあ…意地でも拘束すっけどな!」
「ウェーイ!」
「パリピみてえなノリでイキんなよリゼレスタ」
「ひどくないですか」
そんなやりとりがあった中、みんなの表情にも笑顔がもたらされる。
トコヌイやアンリーナ、バーギラも、楽しそうな彼女の様子を見て嬉しそうだ。
「リゼレスタがこんなに楽しそうなのを見るの初めてやぁ」
「こいつ、陽キャとは絶対につるまないってずーっと言ってるのに」
「だってこの空間居心地いいんだもん!」
「かんきょう…てきごう」
10組もそれに頷く様子だ。
マーニとコウが同意してくる。
「そりゃそうやろぉ、何だか変に照れくさいけど、ヒロトって何かそういうのあるよなぁ」
「なんだか初対面でもうまく馴染めたよな!」
「へへっ、なんだよ“そういうの”って──みんなわかるかぁ?」
「「「めっちゃわかる!」」」
「えっ!?わかんの!」
どうやらヒロトの知らないところで、彼のイメージは膨らんでいるらしい。
「まあ!悪い気はせんが!がはは!」
「「「あははは!」」」
結局ヒロトは他の言いたいことはわからなかったが、悪い気はしなかったらしく笑っている。
「ヒロト君、ホントいい人になったよね」
「あ、尼野!いや…照れちまうっての」
笑いに包まれる10組の中、一人、バーギラはヒロトの様子に違和感を覚えているらしい。
「──…」
「ん?どうしたバーギラ」
彼女はヒロトを見つめている。
「…ヒロト…すこしきになることがある」
「え?どうした」
その反応を見てから、バーギラの脳内の疑惑が確信に変わった。
「なにか…かくしてるよね」
「は…はぁ?」
他のメンバーは状況の変化に困惑している。
「ど…どうしたのバーギラちゃん」
「…そ、そうだぜらしくない──」
アンリーナに便乗するヒロトの言葉に、バーギラがこう重ねる。
「ラビットは…さいきんどうしてるの」
「っ!?」
ヒロトは強く動揺したかに思えた。
「確かに最近会ってないなぁ」
「どうしたんだろ…」
気付けばそんなやりとりも始まった。
「さっきからずっと、ようすがへんだった」
「流石、野生の勘つうのは恐ろしいな…」
ヒロトは重たげに溜め息をつく。
ラビットのことを忘れようと徹していたが、まさか彼女の勘に最初から見抜かれていたとは。
そんなヒロトも、ラビットはやはり忘れられずという様子だ。
バーギラを責めることはなく、ヒロトは逆にみんなにひっそりと、今のラビットとの関係を教えることにした。
「一応教えとくか、いずれバレることだしな…」
「え…何この展開…」
※その一方…
「あ…うぁ…ぅう…」
会議室の席に座らされ、ラビットはテンカの運んできた箱の中身を見せられる。
すると突如、泣き始めてしまった。
箱を受け取り、その中身を拾い胸に押し当てたかと思うと、もうすでに泣き崩れていた。
その手に強くと握られているのは、黒ずんだ金属…──その形を見るに…
「「「…」」」
教員達は、ラビットに対して何の声もかけはしなかった。あのグンメティでさえもだ。
それは、目の前のたった一人の少女の慟哭が、本気であると信じて疑わせなかったためである。
だが、グンメティが声を掛ける。テンカに。
「テンカ、あれは何…──?」
「あれか…あれはな…」
ラビットの手に握られているのは…──
「…ロケットだ」
「ロケット…?ジェット機の破片?」
「違えよ、パカパカ開く装飾品だよ──それとこいつは、ムーン家の遺品だ」
ラビットがなぜ涙したか。
その黒ずんだロケットに、両親の写真が写っていたこと。
そして、開閉の蓋の役割を持つ、上部分が外れてしまっていることだった。