第13話『職員会議とラビット』
「さあ、ラビットさん、座って?」
「えっ、ど…どこに」
「どこってあそこよ」
ちなみに2席空いている。
2人の先生の間の席と、楕円のテーブルの一番端の、リズレと向かい合うような席だ。
「うふふふふ」
グンメティは笑って、先生の間の席に入っていった。
その行動によって、ラビットが座れる席は1つに絞られてしまった。
「まあまあ、座りたまえよ」
グググ…
リズレが魔法の力で椅子を机から引き出した。ここに座れということだろう。
「…はい」
ラビットはとにかくそこに座って、そこで一気に様変わりした視界の情報に驚いていた。
学園長リズレに向かい合うだけでなくその周り8人にも注目されているようだ。
「ねえちょっとみんな怖い顔しないでよ、ラビットさん怖がっちゃってるでしょ〜」
グンメティがそう言うと、周りは少しだけ緊張の空気を緩めるように徹した。
「──いやぁ、ごめんな。今日の話は、結構真剣なものでね」
「…は、はあ」
一組の担任であると同時に、ラビットの担任でもある、ガンダー。
時には10組の旧担任の代役も務めていた程に、できる先生である。
いつも笑顔を絶やさないが、先程までの表情は真剣な色味を帯びていた。
「──大丈夫だよ。ラビットさんには質問に答えてもらうだけだからね」
「──今すべき謎の解明には、ラビットちゃんの証言が必要なんだ。別に無理にとは言わないけどね」
バウンサーとルキャミスが言う。
前者は活発な話し方だが、後者は落ち着いた様子だ。
「そうだよね、秘密はできるだけ守ってもらっていいよ」
「でもどうしても話してほしいこともありますけど…」
「その時はその時ですよ」
女性とは見えても男性のワンターマ。
アンリーナたちの担任のニュイェール。
冷静なイケメンのミラード。
「…あれ?」
ラビットは違和感にかられた。
「テンカさんは…?」
彼がなぜか居ない。
彼は割と重要な役割の筈だが…。
「ま、じきに来るよ」
「…?」
グンメティの返答にも違和感を感じていたが…。
「──じゃあラビット君、早速だけど質問を始めるよ」
「…はい」
リズレがまずは質問をするらしい。
「元気かい?」
「え…いいえ…」
「…だろうね…相当追い詰められているらしい…──悪夢を見たと聞くけど」
「はい」
テンカに悪夢について伝えたことがあった。情報はリズレだけか、いや教員全員に回っているらしい。
「…あの夜の夢です…」
「なるほど…」
ラビットの語る“あの夜”で、教員に何のことかわからぬ者はない。
言うまでもなく、ムーン家の悲劇のことだ。
「…君はあの夢で、少年の背後から出る、巨大な人形の何かを見たんだね…?」
「…はい」
あの夢で、その事件当時の年齢に若返っていたラビットの前に、一人の少年が現れた。同い年くらいの少年の背中から、巨大な影が現れたというのだ。
これも、ラビットがテンカに語ったことだ。
…だが不思議なことに、ラビットの救出にも関わったリズレも同様、あのとき巨大な影を見たというのだ。
「じゃあ、次の質問だけど…──」
リズレは次の質問を聞こうとしていた。
だが…。
「…」
「…?」
なかなか切り出さない。
他の教員と目配せまでして、言いづらそうにしていた。
「どうしたんです」
「じゃあ、私から言っちゃうね」
何食わぬ顔で手を上げたグンメティが、彼女らしくこう言う。
「この質問は、ちょ〜っと無粋かもだけどね…」
「…?」
グンメティを止める者はない。
彼女は一気に切り出した。
「最近弥上ヒロトくんを避けているらしいけど、今回の夢で彼を疑ってるの?」
「なっ!?」
ラビットは驚愕に顔を歪ませた。
「そんなことあり得ません!」
彼女は机を叩いて立ち上がってそう叫んだ。
その様子には、教員も全員驚いていた。
「…──!あ…いや…これは」
ラビットは、今になって我に返る。
急に自分が抑えられなくなったのだ。
「いや、いいんだ」
リズレがそう言う。
他も気にした様子はないという様子だ。
…むしろ、待ち望んだ返答だという様子だ。
──ガチャ…
その空気を断つように、ドアが開いた。
「来たね…」
リズレがそう言うので、ラビットはそこを見る。
「…よう」
テンカがドアから入ってきて、ラビットの方へ歩いてくる。
そしてその手には、何やら箱が握られていた。
「テ…テンカ先生…」
「…ラビット様よぉ、この中のモノに見覚えがあるんじゃねえか?」
テンカに箱を渡される。
ずっしりと重い…──どうやら中に何かが入っているらしい。
「…何があるのだろう…」
──パカ…
箱を開けると、そこには…
「…ッ!」
ラビットはしばらくそこに佇んで…後に…──
「…うぅ…ぁあ…」
「「「…」」」
…教員達のいる中で、涙を流し始めた。
その箱の中にあったのは…。