第08話『生徒会長カリン』
夜は明け、魔法学園の新しい一日がやって来た。
朝食を食べ終わった10組は、満腹の腹を擦りながら食堂を出た。
ヒロトの隣のコウとキサクはやはり、彼の食べっぷりには驚きが隠せない様子だった。
「お前やっぱり朝もたっぷり食うのな」
「パン5升にグラタン12杯ってお前…」
後ろの10組のみんなも苦笑していたが、パン1升とグラタン2杯でダウンしたマーニはいささか悔しそうであった。
食事が終われば学校中で、1000人を越える生徒の大移動が始まる。
廊下はすでにいっぱいの生徒でごった返していた。
「おっ、10組じゃねーか」
恐らく中等の生徒らしいヘラヘラした生徒が、5人の群れをなして絡んできた。
「お子ちゃまは気楽でいいねぇ。お前らの授業は何だぁ?」
10組のみんながビクビクするなか、ヒロトだけは面倒くさそうに頭をかいていた。
「何だ?キサマのその態度は」
5人のうちの一人がガンをつけてくる。大人しくしたらしたでガンをつけられるとは何事か。
──呆れているヒロトだったが、その両方に割って入るように女生徒がやって来た。
「やめておきましょう…7組のみなさん」
「あ?誰だてめえ」
7組らしいそいつらは彼女の顔を睨むが、途端表情が変わった。
「しっ…シーズさん!?」
彼女は大人しそうで色気のある見た目でありながらも、5人にちょっとした微笑みをむけた。
それだけで、5人はなぜか一目散に逃げ出した。
「──何だったんだあいつら…」
最後の最後まで釈然としない様子のヒロトだったが、そのシーズという少女へヘコヘコする10組のみんなが目に入った。
「「「ありがとうございました!」」」
「おい、ヒロトも!」
だが、そういう態度をとるみんなの心がわからなかった。
「誰だその人?」
「誰だって…生徒会長のカリン=N·シーズさんだぞ!?」
「生徒会長?」
「おはようございまーす」
無礼を働かれたというのに、とうの本人は気にせず笑顔であいさつしていた。
そのカリンという少女は胸ポケットのスケジュール帳をとって開いた。
ブルンと揺れた。
「10組のみなさんは、20分後に魔物に関する授業があるので、教室に向かうように!いってらっしゃい!」
手を振るカリンの親切そうな人柄に安心しつつ、ヒロト一向は教室へと向かっていった。
──コウとキサクは早く歩くヒロトに追い付いて猛抗議する。
さきほどのヒロトの態度には、よっぽど寿命が縮んだ思いだったらしい。
「おいヒロト!さすがに今の態度はまずいだろ。彼女が親切だったからいいけど、生徒会長なんだぞ」
「知らなかったんだよ」
「「…」」
呆れた様子の二人だった。
3人がちょうど曲がり角に差し掛かろうとしていた。
「おはようございます」「おはようございます」
曲がり角の向こうからは、多くの生徒たちの挨拶が聞こえてきた。きっと誰か有名人が通っているんだろうが、ヒロトは関係ないとその曲がり角を通ろうとする。
すると、ヒロトはその曲がり角で誰かと鉢合わせてしまう。
「あっ…」
「えっ…」
よりにもよってラビットである。最悪だ。
彼女の表情には、ヒロトの体力への恐れと、昨日のヒロトの発言に対する怒りが混在していた。
ラビットは額に少し脂汗を浮かべつつも、ヒロトを睨み付けた。
「「えっ…」」
コウとキサク、そして周囲の生徒はその状況に唖然とした。
名家のお嬢様が、目の前の青年を少し恐れぎみである。みんな正直信じられなかっただろう。
そして彼女は、ヒロトに敵意はあまりないのを感じ取って、ヒロトの横を通っていった。
昨晩のインパクトの件が帳消しになっていたのを内心喜んでいるようにも見えたが。
「…ラビットさん、ちょっと怯えてなかった?」
「だな…誰にだろ」
「「「お前だよ!」」」