第07話『コウの部屋に』
ヒロトはコウの部屋のドアをノックした。
「コウ、ヒロトだ。いるかー?」
「ちょっと待ってろー。俺も呼びにいくつもりだった」
中に入れてもらうと、コウだけではなくキサクもいる。制服からラフなジャージに着替えているらしい。
「どうしたんだヒロト」
「いや、俺の部屋が別のやつと同じになってて」
「え?何でそんなことが…──で、誰と一緒なんだ?」
「ラビットとかいうお嬢様だ。生憎、シャワー中に押しかけて大いに恨みを買った」
コウとキサクは、驚きに目を見合わせた。
「いやヒロト、ムーン家の嬢さんのハダカなんて見たら大問題やろ!」
「そうだぞヒロト!何てうらやm──けしからん事を!」
「今、なんと言った!」
何やら口を滑らせたコウにキサクが食い付く。
だがヒロトは、いつかの少女も言っていた『ムーン家』という言葉が何を意味するか、さっぱりわからなかった。
「なあ、ムーン家って何だ?」
二人はそういうヒロトを珍しそうに見る。
「ムーン家を知らんって…結構な世間知らずやな…」
「エリート魔術師を代々配属してきた、世界で4番目に有名な家名なんだぞ」
「…うーん。この世界に来たばかりだから、聞いたことねえな…」
「「この世界…?」」
「いや、忘れてくれ」
ヒロトは前言撤回しつつ、床に寝転んだ。
「…ったく、何で俺はこんな学校に…」
ヒロトはため息をついた。
「え?入りたくて来たんやないん?」
「…生憎な。二人はどういう目的でここに?」
まずはキサクが答え、次にコウが答える。
「うちも目的はあってな…」
「俺もだ」
ヒロトにはわからないことが多すぎたが、聞けば聞くほどキリがないと自重した。
「大体、ここはどういうやつなら来れるんだ?」
「そりゃあ、魔法さえ使えりゃあ誰でも来れるだろ」
ヒロトはコウのその答えに、肩を大きく震わせコウに顔を近付けた。
「い…今何つったよ!?」
「え!誰でも来れるだろうって…」
「その前だよ!」
「魔法さえ使えりゃ──」
そこまで聞いて、ヒロトは大声をあげた。
「俺、魔法使えねえんだよぉおおおッ!!」
「「はぁああーっ!?」」
信じられないという様子に、二人は驚いた。マンガならきっと目が飛び出るだろう。
「変じゃねえか!?お前のやってることは、男子が女子便所に入ってるみたいなことなんだぞ!」
「例えが生々しいんだよ!」
二人がやり取りをするなか、キサクがヒロトにいう。
「光なら出せるやろ?ほら、指先にピって」
キサクが魔法を実践してみせる。指先に小さく光が灯された。
ヒロトも試してみる。指先に意識を集中させ、呻きながら力んだ。
「ぐっ…──うぉおおおーっ!!」
ヒロトの様子に、二人は「もしかしたら…」と注目する。
すると、ついに何かが出た。
「はぁああーっ!!」
──ブッ
その場の二人は、鼻をつまんでズコーッと倒れた。
※夕食へ
夕食のバイキングコースを食べるヒロトを見て、コウとキサクら10組は言葉を失った。
「ど…どんだけ食うんだお前」
恐ろしく盛られたキャベツのクリームパスタ、シーフードパエリア、丸焼きチキン。
ギャル◯根も驚愕するほどの食いっぷりに、コウは困惑して声を漏らした。少食なキサクは、すでに開いた口が塞がらない様子だった。
「ヒロトめぇー!負けてられんぞ!」
自己紹介の一件のこともあってか、マーニはなぜか対抗心を燃やしてパエリアをかきこんだ。
サルマは何やら嫌な予感がしたが、それはぴったりと的中し、彼女は喉にパエリアを詰まらせてしまった。
「んんーっ!んんーっ!」
「マーニ!水やっ!」
キサクから水を受け取って、マーニはようやく落ち着いた。
一方、アシュはつつましくパスタを口に運んでいた。
落ち着いたマーニは、周囲をみて言った。
「そう言えば、先生は?」
※
一方、097号室では──
ガチャ…ガチャガチャガチャガチャ
ラビットは食事に向かうときでさえ、厳重にも部屋の鍵を閉めていた。
だが、その鍵を開けようとするものがいた。
「ちっ…」
興が冷めたのか、それは舌打ちをしてドアを離れた。