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魔法学園と鬼氣使い(ヤンキー)  作者: みっしゅう
第2章『物語の再開! 名家の才女ラビットの受難 力を失いし弥上ヒロトの不幸』
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プロローグ2『ラビットの回想』

 ──魔法学園、セコンディアスペイリア。

 あらゆる若者が魔法のうでみがきあうこの場所では、一人の少女の物語が動いて…──いや、止まっている。

「はぁ…」

 多くの生徒の往来おうらいからはなれた廊下ろうかを歩きながら、少女は一人ため息をついていた。

「(今日もまた、彼のことを考えている…)」

 彼女の名は、ラビット=M·T·ムーン…──エリート魔術師まじゅつしの家系の末裔まつえいにして、この学園トップクラスの才能の持ち主でもある。

 嘆息たんそくらすそんな彼女は、今どのような状況にあるのか──新章開始に先立て、改めて今までの粗筋アウトラインを説明しよう。



 ラビットについてかたるには、彼女の凄惨せいさんな過去を語らねば始まらない。

 かつて2年前、彼女の生まれムーン家は、拍子ひょうしもなくあらわれた高レベルの魔物に寝込みをおそわれ、彼女の両親、召使めしつかい、客人と見境けんきょうなく食いらされたのだ。

 かの絶体絶命の危機ききからラビットが生きていられたのは、意識えながらの彼女の両親に、逃げ道をテレパシーでおくられたからだ。

 両親と召使いにまもられて成長してきた彼女の心を、今回の事件がどれだけ傷付けたかは想像するまでもない。

 ショックによって、2年のブランクをきっすることとなった。

 落ちぶれていると、セコンディアスペイリア学園長──リズレによって、学園に誘われる。

 半信半疑に入学したそこでは、あんじょうデリカシーもなくムーン家の名を向ける者も多くあった。

 正直うんざりしていたところだったが、意外いがいにも、例とことなる男と出会った。


 その男とやらは、魔法も使えずにこの学園に来たとかいう一風いっぷう変わったやつだった。

 道理どうりで最低クラスの10組に所属しょぞくむしろなぜっぱねられなかったか不思議でならない。

 今や4番目に注目を集めているムーン家も知らず、ましてやここに来た理由さえ答えられぬという始末しまつ──そいつの名は、弥上ヒロトという。

 たしかラビットは、指導室での初対面、彼にこんなことを言った。

「…──なぜあなたが生徒として生き残ったのか理解りかいに苦しみます」

 それに彼は、ボソッと返す。

「俺だって…わからねえことだらけなんだよ」

 吐き捨てるように返された言葉を始めとして、出会いはじめは彼への疑問ぎもんも多く…──いや、むしろ多かったのは怒りか。


 その理由としてまず最初にげられるのは、あの097号室での一件。

 シャワーをびていた時、丁度ちょうどそこに押しかけたのがヒロトだった。

 当時印象が最悪だった彼に、ハダカをあますことなく見られたのだ。

 寛容かんようたもって弁明べんめいの場をもうけた結果、二人の部屋の番号が一緒になっていたという。

 許してやろうと思ったが、次のヒロトの一言で心機一転する。

「──…言ってペッタンコだったし。ほぼ見てないと言ってもいいくらいで」

 ラビットは魔法でヒロトを部屋から吹き飛ばした。



 ラビットは過去を思い出して、思わずみをこぼす。

 こんな大事件があったことも忘れていた。

「まぁ…ムネもあのときよりかは…大きくなっている…はずですし」

 彼女にとってもっとしたしい女性からの証言しょうげんもあるし間違いはないだろうと、ラビットは半信半疑で思っていた。

「…」


 ──ラビットは、ヒロトを思うたびに、あの日を思い出す。

 その日というのは、ヒロトのと同じである。だが、ラビットが思い出すのは、北校舎の一件のその次である。

 一件より意識いしきを097号室において取り戻し、2人の関係を進展させる談話が始まるのだった。


 ラビットはヒロトに、北校舎の件を以てこう質問した。

「──その…右腕が再生したこととか…やはり、あの鬼神のオーラが関係しているのですか?」

 ヒロトはその質問にしばらくだまってから、語ることにした。

 ただし、ヒロトは条件を取り付けた。

「──俺には、お前から聞きたい過去がある──…無理に話せとは言わないが、お前が話してくれないと俺も話す気はない。それだけ俺の過去は、おいそれと教えられるものじゃないんだ」

 お互いに隠し事はナシだと、ヒロトはそう言うのだ。

 だが、いい意味で世間知らずな彼にならと、彼女は自分の生い立ちと事件について語った。

 そして全てを語り終えて、真剣に聞いた後でヒロトはこう言う──

「──そうか…お前もつらい過去を歩んできたんだな」

 優しい声音こわいろうように、そう言った。

 その声には、思いがけず、彼女の心はやすらいでいた。

 そして約束どおり、ヒロトの過去が彼自身によって語られる。


「──…日本って国は知ってるか?」

 最初に聞かれた質問に、ラビットは「…聞いたことがありません」と言うのに、ヒロトは何かに納得なっとくしたように、改めて語り始める。

 …8年前、彼はヤクザによって、両親を目の前で撃ち殺された。

 ヒロトは当時8歳、幼く虚弱ながら勇敢に反撃するも、10人以上の武器を持った大人から無情な返しをうける。

 そこで彼の怒りは真っ直ぐになり、胸の奥に眠る危険なものを呼び覚ます。

『──ふははははッ!!』

 ヒロトが鬼神のオーラに目覚めたのは、そのタイミングであった。


 その力はヤクザ達を殺した。…そして、もう一つの犠牲ぎせいまねいたという。

 体の弱さ故にイジメられ気質であったヒロトは、鬼神のオーラにやられた精神のまま、クラスメイトに復讐ふくしゅうを果たす。

 過去にイジメてきた者を男女無差別におそい、最後に一人の少女が残った。

 ヒロトはその少女を襲わなかった。

 なぜか、彼女はヒロトのイジメに加担かたんせず、いつもなぐさめてくれた幼馴染だったのだ。

 彼女に抱きしめられ正気を取り戻したヒロトだったが、雨が降る帰り道、ヒロトは河川敷で、最悪の現場に遭遇そうぐうする…──

「ごめんなさい…ごめんなさい…──うぁあアアアアッ!!」

 ヒロトの豹変による傷心からか、河川敷から身を投げた幼馴染──血を流し骨は折れ、軽くなったその体を抱きしめ、ヒロトは慟哭したという。


 ──そんなエピソードを聞かされ、ラビットはヒロトに疑問を抱く。ヒロトはこのような過去を持ちながら、なぜこうも平静に生きてきたのか…。

 疑問を投げかけると、こんな答えが帰ってきたのを、今も忘れない。

「──クヨクヨしてたって、仕方ねえからな」

 ムーン家の絶滅から2年のブランクをうけたラビットにとって、その言葉を笑顔で放つヒロトは眩しすぎた。



「(あの時から、わたくしたち2人の関係は一気に発展したんでしたね…)」

 生徒会のもとでの修業──ヒロトがオーラを熟練させる一方で、ラビットも魔法の才能を一気に開花させつつあった。

 2人はいわゆる、ライバルとも言える関係であった。

「…その…筈だったのに」

 今のラビットにとっては、ヒロトに何か敵意がある。

 敵とは言っても、好敵手ライバルと言うわけでもない。

 もっと生々しい、なにかである。


 これも、たった一晩の夢が引きずられている。

 燃える屋敷、14歳ほどの自分…──同い年の少年がラビットを嘲笑あざわらう。…そして、その背中から現れる巨大な何か…。

 鬼神のオーラをイメージしてもらえればいい。

「まさか…そんなことは…」

 ムーン家を滅ぼしたのがヒロトなどと、そんなことはあり得ない。ヒロトは当時別世界にいたのだ。

 それに、夢で見た話など全く不毛である。

「…」

 それでも、ラビットはある事実をないがしろにはできなかった。

 ラビットの救出にも携わったリズレも、巨大な影を見たと供述する。

 彼女を中心にして混沌こんとんなぞが血生臭くめぐうずに、彼女は追い詰められていた。


「…ッ!」

 突如、ラビットは背後を振り返る。

 誰もいない…──

 だが、彼女は緊張きんちょうの汗をぬぐい、何かから逃げるように急ぎ足になるのだった。

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