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魔法学園と鬼氣使い(ヤンキー)  作者: みっしゅう
第1章『全てはここから始まった! 最強の日本人ヤンキー 異世界の魔法学園に転移!』
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第69話『コウの示す意志と謎』

「俺はずっと、眠るときに夢を見ていたんだ」

 コウは、また特殊な言い回しをする。

「「いた…?」」

 全員は満場一致で、その言葉に引っかかっていた。

「見ていた夢には、共通点があった…──必ずと言っていいほど、一人の幼い女の子が出てくるんだよ」

「お…幼い女の子…?」

「いや…誰がロリコンだよ」

「いや別に言うてへんやん…」

 いつものノリツッコミが通じるなら、今回の話もきっと伝わるだろうと、コウは笑った。


「いやなぁ、この夢にはすごく不思議なところがあって…その女の子に、夢の中で話しかけられんの」

「いやぁその…ごめん全然話が読めない…」

 サルマとアシュが、正直に言う。

「うーん…俺もこの話をどうやって現実的に伝えようか考えてるんだよなぁ…」

 コウの伝えようとしていることは真実だとしても、彼の発言には現実味がなかった。

 不思議な夢の内容など告げられても、それがこの学園に居続ける強い意志に結びつくとは思えなかった。


「しかも…コウって女にモテへんやろ」

「おぉ?なんだキサク…」

「いや…反論するにも声震えてるやん」

 キサクの口から出たたった一言を、コウは精一杯解消しようとしていた。

 ストイックに伝えたキサクは別として、ほかの皆も心の中ではそう思っていた。

 コウに女が依存していたことなど想像もできなかった。

「いや…彼女がいたかどうかなんて関係なくてさ、この話は真実で、あとなんかいろいろあるんだよ」


 コウは、胸ポケットから一枚の写真を取ってみんなに見せる。

「これは…?」

「女の子が映ってるだろ?」

「う…うん」

 その写真に映っていたのは、13歳ほどと思われる少年と少女だ。

 笑顔で身を寄せあう2人は、本当に仲が良さそうであった。

「この2人誰なん?」

「男の方は俺だよ?」

「えっ!」

 マーニは、質問してすぐに帰ってきた答えに驚く。

「えっ!ってなに」

「マジで彼女おったん!?」

「そうだよ!いたら悪いか!」

 キサクは写真を詳しく見る。

「しかもなかなか可愛いし…」

「ああ…──だけど、不思議なのはまた別の話だ」

「「「?」」」


 コウは、そこから少し言い淀む。

「ちょっと、これは言いづらいんだけどさ…」

「?なんや…」

 そして、彼は口を開いて、声を小さく言う。

「俺にはその…ソイツと関係を持った覚えがないんだ…」

「「「はあァーッ!?」」」

 あまりにも想定外の話の展開に、一同は驚愕した。

「いやお前!女との関係を忘れるって何や!」「どないなっとんねんボケっ!」

「いやちょっと落ち着けって!」

 このままでは、コウはただのクズ野郎になってしまう。

 だが、彼にはそんなつもりはサラサラないという様子だ。

「落ち着けってなんや!」

「いやいや聞いてくれ、俺がその女の子のことを捨てたとかじゃないんだよ!」

「…じゃあ何やねん」

 キサクとマーニが落ち着いてくれて、コウは再び語りだす。


「実はこの女の子と触れ合った記憶が、頭の中からさっぱり消えていたんだ…──比喩とかなしに言葉通りの意味で、この女の子の名前も全て知らない…なのにこの写真だけは残り、そこには俺とこの女の子が仲良くしている様子がある…──これはどう考えてもおかしい」

 コウは言う。

 アシュはそれを踏まえて言う。

「…コウの言うことが間違いないとしたら…──」

「えっ…!何か掴めたのか!?」

「全然…」

「「「ガクッ…」」」

 一同の体からは、狙い澄ましたように一斉に力が抜けた。


 だが、コウは更に続ける。

 彼にとって、今回の話をハッタリと片付けるつもりはないと、彼自身の目がそう言っていた。

「そしてさらに不思議なのは、この少女が夢に出てきていて、話しかけられてたってことだ」

「夢の中に…」

 一同は、話がまったく読めなくなってきた。

「コウの言ってること、嘘やないな…?」

「ああ、俺は確かにそれを体験したんだ!」

 コウの目は、嘘をついている風では一切なかった。

 彼の言うとおり、彼はただ、自分の身に起こった不思議な出来事を、偽りなく話しているだけに過ぎなかった。

 理由もわからず説明もつかないこの時点では、もはやコウにはどうしようもない。

 そしてもちろん、キサクたちにも、まるで理解のしようもない。

 今コウにあるのは、いくつかの不可解でしかなかった。


「この不可解を解明するため、この魔法学園にやってきたんだ…だが、その後はお前らと同じだった」

「…」

「平和な空気に飲まれて、何も考えられなくなって、…そしてそのままその女の子は、夢にも出てくれなくなった…──多分、こんな俺を見て幻滅したんだろうな」

 コウは、声のトーンを落として言う。

「その女の子は、夢に出てくるたびに、俺に愛を伝えてきていたんだぜ?『大好きだよ!コウ』──って」

「ええ!?」「プロポーズってことなんか!?」

 サルマとキサクが、驚きのあまりのけぞる。

「さっきから俺と恋愛が絡むと驚くの何なの?傷つくよ」

「いやっ、それはともかく…──お前にも、すごい目標があったんやなって…」

 キサクはしんみりとした様子で、コウに静かに訴える。


「…そうか?…まだキサクの目標の方が、現実的って思うけどな」

 少し自嘲気味に返されたその言葉に、キサクは横にかぶりをふる。

「いや、ウチもコウもおんなじや!魔法なしでできへん可能性に、いくらでもバクチかけとるんや!夢を叶えるためには、無謀な努力を続ける他にないんや」

「キサク…お前」

 一同も、キサクがその言葉を言うことに、驚いていた。

「じゃあ、このクラスが一丸となって、個々の目標のために頑張れるようにしよう!」

 サルマが空気に乗ってそう言う。

 アシュも首を縦に降る。

「私らも頑張らなぁ!今まで何をしとったんやろか!」

 マーニも、握り拳を作って勇んだ。

 コウは笑んで、みんなにうなずく。

「じゃあ、このクラスのスローガンは決まったな」

「やなっ」

 そうして、10組のみんなは絆を深め合い、この魔法学園で生きていく意志を硬いものにしたのだった。


「…あっ、でも…」

「ん?どうしたサルマ」

 サルマは、少し怯えるような表情を見せた。

「テンカ先生は大丈夫かな…?」

「あっ…」

 一同の空気に、少し冷たい風がなびいた。

「まぁ…きっとどんだけ辛いことあっても、俺達なら…大丈夫っ…多分…」

「…」

 ちょっとずつ冷たくなってきた空気。

 だがそこで、食堂のドアがガチャリと開いた。


「──ふぅ…この部屋で清掃も最後だな…──ん?」

「「「…え?」」」

 ほうきとモップを持ったアラフィフの清掃員らしき男が入ってきて、一同の視線は一気にそこに集まった。

「…掃除していいかい?」

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