第68話『キサクの語る過去』
昼休みも大体終盤に差し掛かる。
ヒロトとクレアは教室へ戻ろうと、階段を下りていた。
「ありがとよ、モチベ上がったわ」
「よかったです。また困ったら、いつでも相談に乗りますよ」
「助かるなぁ」
優しい笑みのクレアに、ヒロトは心の底からそう言った。
彼女はヒロトと話しながら、笑顔を絶やさなかった。
空白の8年間、彼女がヒロトを忘れたことはなかったからだ。
この二人の再会は、運命を越えたようなものだったのだろう。
「──…ん?」
ヒロトは道中、何かを見つける。
「おい尼野、あれ…」
「…?」
クレアもそこを見る。
2人が見ているそこでは、元気のない一人の少女がふらふらと足取り悪く歩いていた。
その足取りの悪い少女を支えるように並行するのが、カリンだった。
「アイツ…ラビットか…?」
カリンに隠れてうまく見えなかったが、それは間違いなくラビットだった。
「大丈夫か…アイツ」
「何かあったんでしょうか」
※
「残るは、2人だね…」
「「…」」
改めて残ってみると、恥ずかしい気持ちがするものだ。
コウとキサクは、お互い赤らんだ顔を見合わせた。
「じゃあ、ウチから言うかな…」
「え?どうぞ」
「ええんか?コウ、ウチの後はラストスピーチやで」
「あっ…!」
「まぁゆずらんがなぁー」
「くっそぉっ」
だが、コウは彼女の表情の変化に気づいていた。
キサクはそう笑いながらいうが、その表情にほんの少しの陰りがあったのだった。
「──…ウチには、仲の良かった友達がおったんや…」
「えっ!」
サルマが驚く。
「えって何やサルマぁ!」
「いやっ、俺のとどこか似てるなぁって思ったんだもん!」
「…まあ…確かにその友達との距離が空いたってのは、もちろん変わらへんのやけど…」
「「「…けど…?」」」
その後、キサクは発言を渋るようだった。
だが、彼女は勇気を振り絞って言う。
「…その友達は、急に消息を絶ったんや」
「「「えっ!?」」」
予想外の話の展開に、一同は声をあげて驚く。
「本当に…?」
「マジや…急に姿を消しよった」
「その後については、誰も知らへんの?」
「せや…身の周りのみんな、口を揃えて知らんと言うんや」
サルマとマーニの質問にも、キサクは淡々と返していく。
「闇が深そうな事案だな…」
アシュすらも、この事件の不詳さには、持ち前の推理力もどうなるだろうか。
「ウチには予感があるんや…」
「「「予感…?」」」
キサクはどこか、焦燥する様子で続ける。
「その友達は、他に3人の友達と1人の妹がいて、ある寮に5人全員入っとったんやけど…──」
「「「…」」」
一同は全員それに聞き入っていると、キサクは衝撃の発言をする。
「5人全員、その寮から失踪したんや…」
「「「ッ!?」」」
一同はあまりの衝撃さに、まるで声も出なくなってしまうのだった。
「何の前触れもなく、5人は寮から消えてしもうた…でも、ウチにある予感ってのは…──」
全員が息を呑む。
「ウチらを残して消えたその5人が、どこかでふらふらと生きているのかもしれへんのや…」
「何か確証があるン?」
「…ない…ただ、ウチにはその予感が、頭に強く張り付いとるんや」
マーニにいざ質問されると少し揺らぐかと思いきや、彼女はどこか迷うところは見せつつも、はっきりと伝えてみせる。
「アイツらがウチに残したものはないが、アイツらと仲良く暮らした日々の思い出は、ウチの中で消えることはないんや…」
その少しはにかむように笑いながら、一同を見渡した。
「でもウチは、魔法を極めることで、その5人の行方をどうにか追えると信じとんねや…でも──」
キサクの声が震えはじめるが、彼女は目から溢れる涙を拭いながら、笑みを絶やさずに続ける。
「ウチもアシュとサルマみたく、この10組での学園生活が最高やったんやなって…」
「「「…」」」
だが、キサクは今になって照れ隠しをする。
「…ああもう、やめややめっ、恥ずかしくてやってられへん」
「…へへっ」
「んんー!?何笑いよるんやコウ?」
その意見に、笑い声が帰ってくる。
「えっ、いやいやっ…」
思わず笑いをこぼしたのは、コウだった。
だが、彼には当然キサクの言葉を笑うつもりはなかったが、彼には実は、シンパシーがあったのだった。
「お前も、俺と似た部分があったんだなって…」
「えっ!それって…どういうこと」
「いや…俺も驚いたんだ」
──コウは真剣そうに、真実を語るように話す。
「俺の友達にも、失踪したやつがいた…」
キサクも他も、信じられないという様子だ。
「冗談じゃないんやな…?」
「ああ…だけど、どこか記憶の曖昧なところがある」
「えっ…?何それ」
何かおかしな言い回しだ。
「これは、ちょっと信じられないものかもな…」
「信じるもなにもないで…」「コウの記憶が曖昧じゃあなぁ…」
キサクとアシュが、コウを見つめる。
他もポカンとしていた。
「でも、話す前に断っておきたい──この話は、どこかメルヒェンちっくで現実味にかけてるかもしれないけど、全て俺の身に起きていたことだ」