第06話『アクシデント』
ヒロトは、目の前のラビットになんと言えばいいか、考えに考えていた。
ラビットは服を着て、目の前のヒロトをキッと睨み付けていた。
ここで説得に失敗すれば、ヒロトの今後の名声はなきものとなる。
ヒロトは落ち着いて、まずは自分のポケットにあるキーを見せた。
「まず言っておくが、俺はこの部屋のキーをもらった身なんだ。文句を言われる筋合いは一切ない。管理のミスなんだろ」
ラビットはその睨みを解いて質問した。
「なぜシャワーを?」
「汗を流したかったんだ」
「…つまり、わたくしへの如何わしい行為を働くつもりはなかったと」
「当たり前だろ」
ラビットは納得したようで、ヒロトも胸を撫で下ろす。
「──見たんですか」
「え?」
ラビットの質問に、ヒロトはポカンとする。
「わたくしの…ハダカを見たんですかと聞いているんです」
頬を染めて慎ましく説明するラビット。
当然、ヒロトは彼女のハダカを余すことなく目にした。
「…まあ、見た」
「…」
落ち込んだ様子のラビットに、なんとも言えずヒロトは頭をかいた。
そこで、ヒロトは精一杯のフォローをかける。
「…まあ、俺はどうでもよかったけどな」
「…?」
「言ってペッタンコだったし。ほぼ見てないと言ってもいいくらいで──」
「…ッ!」
ラビットの表情が豹変する。
「…言い残すことはありませんね」
そう言って彼女は、ヒロトに手をかざした。
「…え」
「インパクトッ!!」
ラビットがそう叫ぶと共に、彼女の手に集中した透明なエネルギーが爆発し、ヒロトを吹き飛ばした。
「おわァーっ!!」
ヒロトはその強い衝撃に押され廊下までぶっ飛ばされた。
それをいいことにラビットは、ドアをバァン!と閉め鍵をかけた。
「おい女ァ!何しやがる!」
倒れたところから体制を立て直して、閉め出されたドアをバンバンと叩く。ヒロトのパワーによって、ドアは叩かれる度に恐ろしい音を立てていた。彼がナマハゲなら子供はもうイタズラはしなくなるだろう。
「おらァ!!開けろアマァ!!」
「イヤですよ!というか、どうして今のを受けてピンピンしてるんですか!」
ラビットは焦りながらドアを押さえていた。
「開けたら何をするんですか!」
「男女平等主義で有名な俺だが、今回だけは特別に雪崩式奈落落とし40回だけで許してやるよ!開けろぉーッ!」
「絶対にイヤですッ!!」
ヒロトはなぜこうも必死なのか──その理由は他でもなく、この部屋以外に泊まれる場所がないからである。
廊下を渡る生徒たちはその様子を見て、注意より先に逃げるのが早かった。おそらくそれが、何よりも賢明な判断だったろう。
「──くそっ…」
ヒロトはドアを叩くのを諦め、コウのところに向かう。きっと泊めてくれるだろう。
ラビットは命拾いしたようにほっと一息ついた。
ヒロトはその部屋に背を向け、怯えるような廊下の一同の間を何食わぬ顔で通り抜けていった。