第67話『10組の語る意志 その2』
みんなが落ち着いてから、サルマは再び語りはじめる。
「負けられないヤツっていうのは、俺の幼馴染なんだけどさ」
「幼馴染…」
「そう…8歳の頃からの幼馴染だったんだけど、そいつとは、だんだん実力の面でも差がついてきはじめたんだ」
サルマは、話すたびに声の覇気がなくなっていった。
「じゃあ、いわゆるその…」
マーニが補足しようとする。
「ポンピックスみたいな…」
「コンプレックスな…」
「あ…そやった」
代わりにアシュが補足することになって、そのやり取りに、サルマの心は少しだけ明るくなった。
クラス内の緊張も、どこかほぐれた気がした。
「…仲は良かったのに、実力が離れるたびに、だんだん距離も空いてきてしまったんだ…」
「その幼馴染って…どんな子?」
コウも質問する。
「大人しい女の子だよ…仲がよかったんだ」
思い出を思い返し、少し顔をほころばせるサルマ。
そして、アシュは質問をしてみる。
「…その女の子ってさ、今は何してるんだ?」
「…そうなんだ…それを聞いてほしかった!」
サルマは指をさして強く頷く。
「その子、今や4組のクラストップなんだよ!」
「4組!?」「差開きすぎやろ!」
「たった3年の時間だけで実力も身長も越してきたんだアイツはァーッ」
「あらら…」
※場面は変わり…
バーギラはいつもの校庭で、アンリーナたち3人と話していた。
「新担任のテンカ先生…よっぽど怖い人なんだね…」
リゼレスタは、バーギラの話にうなずいていた。
「そう…ヒロトのこと、まほうもつかわずに…おいつめてた」
「すごい強さやん…」「私たちの先生親切でよかった…」
バーギラは、テンカのあの威圧的な目を思い出していた。
ひと目見られただけでも、戦う覚悟は消え失せてしまっていた。
「あと、テンカはほかにあることをいってた」
「「「あること…?」」」
バーギラは思い出しながら言う。
「10くみのみんなの、イシ…」
「「「意志…」」」
バーギラは、それが胸の奥に残り、消えなかった。
彼女はまた同じように、彼の目から何かを感じたのである。
「じゃあ…バーギラはんは、なんか意志とかあってはるん?」
「…わたしの、…イシ?」
バーギラは、しばらく黙って考える。
3人はその真剣な様子に、話しかけなかった。
「…」
そうしてしばらく経つと、彼女の中にビジョンが出来上がった。
「わたしは、ひとをわらわせたい」
「「「…!」」」
バーギラは、純粋な瞳で言った。
「…しあわせなきもちにさせたい」
彼女の口からこの言葉が出てきたのはなぜか…──。
野生に生まれた彼女が人間界に触れたことで、何か彼女に変化がもたらされたのだろうか。
ヒロト、ラビットをはじめとした、人間との交流。この3人も、もちろん例外ではない。
それは彼女に、どこか温かな気持ちを…──しあわせを与えていた。
「だけど、にんげんには、わるいのもいる…そんなやつらから、しあわせをまもるためでもある…」
「「「…」」」
3人は以前聞いた。バーギラの親が、何者かに殺されたと。
その事件は、彼女の心を捻じ曲げず、彼女に強い正義を与えたのだと、なぜか確信した。
それもこれも、バーギラという、1人の未解明猿獣の優しさがあったからだろう。
「…」
3人は、バーギラを抱きしめる。
人間よりも人間らしいバーギラは、胸の奥をぽかぽかと温める幸せを、そっと感じていた。